第132話 あけぼのと崩落
「うおおおお!!!!」
クラジューは〝零域〟に入り火花を残像のように散らしてその場から消え、雷が落ちたかのような速さでミルベルの背後に迫った。
「ほう」
ミルベルは高速で右から左へ振り抜かれたクラジューの槌を右手をついてしゃがんでかわし、うなじから薄緑の強い眠気を誘う毒霧を吹き出した。
「ちぃ……」
クラジューは霧を見て再び消えるように移動し、仕掛ける前の位置に落雷の速度で戻る。
「あの時の黒い雷は無いが、速度は再現しているのか……恐ろしく飲み込みが早いな……」
スキだらけのミルベルに向かってラルフェウはかわす隙間無く魔力を具現化した矢を数百放った。
矢はミルベルの体中に、周りの壁に突き刺さった。
「っ……」
ミルベルは顔の前で腕をクロスし、動かず矢の雨を受けきった。
「……体に刺さらない……」
ミルベルは腕を戻して矢を振り払い、体に刺さらず床に落ちた矢を吸収し自らの力を増幅させる。
「魔力の具現化は確かに破壊力は増す、が、そもそもお前の攻撃には殺意が無い……さっきのお前のもだ」
「……クラジューさん、やはり腹の探り合いはやめましょう、無駄です」
「お前がな」
クラジューは速度を落とさずミルベルを八方から攻めるも、ミルベル全ての攻撃を防御した。
(生身で受けてんのに無傷かよ……大量の魔力流してんのか……)
(速過ぎる……かわせない、そのかわり攻撃が単調だな……これでまだ戦いの中で成長し続けるのか……ガービウに似ているな……やりづらい……)
クラジューの凄まじい成長速度、そして戦えば戦うほど強くなっていく感覚にミルベルはガービウ・セトロイの姿を重ね合わせる。
実際にガービウと対峙したりガービウの戦闘を見たわけでは無いが、戦った者が口々に言うガービウの脅威。
それこそが戦うほどに成長する厄介さだ。
ミルベルは跳び上がりクラジューの攻撃を1度かわす。
するとクラジューが今まで移動した経路に、クラジューの腰程の床との距離の高さにロープのような形状に実体化した雷が、クラジューと繋がり線を引いていた。
「なっ!!?」
「〝神速の雷線陣〟」
その瞬間雷の線から火花を帯び、雷のエネルギーを含んだ線から広がる光が天に一直線に向かっていき、空中のミルベルと、ミルベルに向かって浮遊するクラジューを巻き込んだ。
「ぐああああああっ!!!!」
「はああああああっ!!!!」
クラジューは光の中で天槌ラファールにエネルギーを大幅に溜め、光の中でダメージを大幅に受けるミルベルを床に叩き付けた。
「〝雷神の殲滅撃〟」
クラジューは槌に光を全て吸収し、縦に伸び、床と天井を切り裂きながら衝撃波をミルベルに振り抜いた。
衝撃波はミルベルに直撃し突然暴発し、天井が無くなり明けたばかりの朝の空が見えた。
「はぁ……はぁ……」
「何故暴発を……」
クラジューは槌を右手から左手に持ち替えた、するとクラジューは浮遊し、右腕と右脚がぷらんとしていた。
「どうしましたか?」
「さっきの攻撃強すぎて右半身しばらく機能しねぇ」
「……その重り外さずにそれは……恐ろしいですね……」
「おいおいお前ら……チームワークって知らねぇのか?」
ミルベルは自らの呪力で再生を促進させ、ダメージも半分以上治癒を終えて立っている。
手応え自体はあるのだがどんな攻撃もイマイチ決めきれないために、クラジューは舌打ちし鋭い眼光を向ける。
「僕らはいつ共闘するって言った?」
「だから勝てないんだろうが」
そう言うとミルベルは両手の平を床に置いた。
すると建物全体が木っ端微塵の散り散りになり、瓦礫は全てミルベルの背後に浮遊していた。
「えっ!? あ……ああ!!……っと……」
当然ながら空の上にあった拠点故に跡形も無くなれば落下する。
ラルフェウが落ちかけると、クラジューが左手でラルフェウの右腕を掴んだ。
「あ……ありがとうございます……あの……武器は……」
「体内」
「あ、〝聖器〟でしたか」
所有者は〝聖器〟を使用しない場合は体内に仕舞い、当然血を一滴も出さないまま自在に取り出すことが出来る。
※ ※ ※ ※ ※
そして建物の中にいた一行も、ミルベルの攻撃に巻き込まれ落下していた。
「ぬおおあああああ!!!!」
「何してんのニッキー」
空中でジタバタするニコラスを、ウーヴォリンは寝転がる姿勢のまま鼻をほじりながら問うた。
「落ちるるるるるるるるるるるるる!!!!……あ、オレっち飛べたんだった」
ニコラスは呪力を駆使し足からジェットを噴射し、ウーヴォリンは空中で寝転がっていた。
「そういうボケいらな~い」
「い~やマジだったからテンパってたし……飛べねぇ感覚染みついてんだよ……つーか!! お前誰だよ!!!!」
ウーヴォリンは面白がっているのか未だに名乗らない。
「いや~すごいっすね~、浮けるんすねリミルサンは」
「まあな」
どういう訳か空中を浮遊するリミルは氷槍アイシクルを握り、レオキスは槍を抱きしめるように掴まる。
「どうやってるんすか?」
「さあな」
「……そっすか」
全く何の情報も出さないリミルに、レオキスはため息をつくばかりだった。
「おいおい何で半裸の野郎と飛び降り心中しねぇといけねぇんだよ……」
「んがぁー……」
イビキをかいて眠り続けるキリウスを横目にあぐらをかく姿勢のまま落下するハロドック。
「まだ寝てやがるし……あ~久々におっぱい舐めたいな~あ~……おっ」
ハロドックは為す術無く落ちながら、同じく為す術無く落ちながら眠るキリウスを無視して落ちていくアリシアを受け止め、抱き抱え、偶然を装うようなあからさまにアリシアの胸を鷲摑んだ。
「どうしよっかな~大きさは問わねぇけど、リドリーちゃんに蹴られるのも良いしな~」
両足に水を纏って浮遊するビオラは無言で水のクッションを作り出しキリウスを救出し、自らの背後に浮遊させた。
「……またなのね……」
「んがぁー……」
「……分からない……」
迷い無くキリウスを助けに入ったビオラは、何故最優先してキリウスを助けに入ったのか自分の心が理解しきれていないままだった。
※ ※ ※ ※ ※
ミルベルは建物を散り散りにした後、それらを急激に熱して気体にして、自らに取り込んだ。
「……まさか、建物そのものが呪力で形成されていたとは……しかも……主に毒ガスの呪力で……」
そう、ラルフェウの言う通りあの拠点はミルベルの呪力により形成されていたのだ。
元あった拠点を取り壊し、とてつもない量の毒ガスを体外に放出し、それらを固体にして拠点を作る……単純かつ難解な呪力の操作が必要とされる所業をミルベルは成していた。
「呪力ってそこまで出来んのかよ……」
ミルベルは浮遊し、さらに〝零域〟にまで入った。
魔人族で呪力もそのような効果が無いまま浮遊する理由は、ジェノサイドが造り出した〝人工霊力〟というモノである。
クラジューのように妖人族が浮遊する理由は霊力にある、それもほんの少しでも浮遊は可能とされている。
戦闘に特化した肉体ではないミルベルは、戦闘時に行動範囲を広げるために〝人工霊力〟を体内に取り入れ、浮遊することに成功した。
「ここまで俺は底を見せている訳が無いだろ、さっさと誰かのために俺に殺されろ」
(あれの姿が無い……やはりさっきの気配はガービウだったのか……しかし、何故アリシア・クルエルを連れ去らなかったのか……まだ何かやるのか……何にせよ、俺は用済みという訳か……)
ミルベルがガービウから授かっていた任務、その中心にあるべきゼルキエルの姿がこの拠点から消え失せている事に気が付く。
先ほどガービウは部下の女と共にミルベルにすら気付かせない程に気配を殺して、瞬間移動で持ち去ったのだ。
それがどういうことなのか、それはミルベルが1番分かっていたようだ。
「……クラジューさん」
「何だよ」
「時間を頂けないでしょうか」
「は?」
「クラジューさんが右半身を時間制限付き犠牲にしても無理でしたので、より高出力な一撃で必殺が必須かと」
「俺が殺る」
「ですから、僕の一撃と同時に攻撃してもらって構いません」
「分けろってか? 落とすぞ」
「自棄を起こしたあなたを目覚めさせた借りはまだ返してもらってませんね」
「俺と取り引きすんのか? ゾーネのためなんだよ」
「はい、僕も大事な人いたぶられたので同じ殺意があります……2人で、ではなく、共闘しましょう……僕に足場と時間をください、あなたに借りのチャラと……」
「要らねぇよ……こいつが死んでから考える」
するとクラジューは天槌ラファールを右腕から繰り出しラルフェウの足元に移動させ、ラルフェウをそこに着地させた。
槌は空中に静止したまま一切動くこと無く、ラルフェウは僅かな足場で少しのブレも無く立ち上がる。
「感謝します」
ラルフェウは魔力を具現化させた弓を発現させ、やや大きめな矢を1本具現化させて思い切り引き始める。
全ての因縁に決着をつけるため、慈悲無き矢が今ラルフェウの手により放たれようとされる。
「右の無い状態で時間稼ぎか?」
「お前程度なら左側でも十分過ぎるわ、ありがため」
悲しみの連鎖を断ち切る、全てを終わらせる一撃……それに賭けたクラジューはミルベルと真っ向から対峙する。
「……ミルベル……」




