第130話 The place of happiness 6
「……800年前全世界の14、各世界に2つずつ存在する〝聖器〟が突如各世界で一斉に潰し合い始め、それを止めるべく人々がそれぞれの聖器との三つ巴となった、それが今日まで長引く戦争の原因だ……
確か300年前、最後の決着としてお前は人々と結託した天槌ラファールに破壊されたはずだが……なるほど……そうやって人々に乗り移って、復讐の機会を狙っている訳か……」
エルドラドが追っていた突如人が暴徒化する現象の謎、それは千年戦争の発端である〝聖器〟同士の各世界を巻き込む壮絶な激突まで溯る。
それは誰も予想していなかった現象。
各世界に2つずつ、選ばれし強者2人が世界を代表して保持していた最強の武器───〝聖器〟
刃毀れしない、傷付かない、あらゆる手入れが不必要、そして魂を宿し保持して良い器か否か〝聖器〟自身が選定する最高の武器。
持ち主の力を惜しみなく持てる最大限を引き出し、この武器の力の均衡がガービウ・セトロイの起こした当時より2800年前、現在より4000年前に起こった〝魔神の聖戦〟以降の平和を維持していた。
故にその平和の象徴たる〝聖器〟が、1000年も続く事となった史上最悪の戦争の引き金になるとは誰も予想出来なかったのだ。
〝聖器〟対〝聖器〟対人々の激戦は、短い所で7日、長い所で500年間続いた。
その後力の消耗により恐るべきエネルギーがかつてないほど減少した〝聖器〟のほぼ全てを全世界を代表して〝霊王〟が保管する事に決定した。
その激戦に敗れその後行方知れずとなったルシファーは、形は無くなったが魂だけは健在したため人の肉体に乗っ取り、自身の力を最大限に引き出せる器を捜し回っていた。
そしてついに、その執念は実を結びラルフェウの肉体を乗っ取ったのだ。
「ラファールを出せ、今なら奴を粉々に出来る」
「ここには無い、戦争が終わるまで全ての〝聖器〟は〝霊王〟の元に保管されている」
「何だと」
千年戦争が終結すると〝霊王〟は各世界に〝聖器〟を返還した。
当然2度と暴走などしないように、本来の力を引き出せないように縛りをかけた状態での返還だった。
「〝霊王〟は、〝妖の里〟での〝聖器〟同士の争いをたった1人、たった一撃で終わらせた、この世で最も強い者だ……あの者は、神すらも殺す力を持っている……お前では干渉不可能だ」
ある世界では500年間も続いた激戦をたった7日で終わらせた世界、それは〝霊王〟が暮らすとされている〝妖の里〟だ。
静観していたが〝妖の里〟が持つ戦力では叶わないと助力に入ると、たった一撃で戦争を終わらせてしまった。
その規格外すぎる異次元の力こそが〝霊王〟の2つ名たる所以であり、この世における最強の生命体と称されているのだ。
「戯れ言は終わったか?」
「これを戯れ言と受け取るようではお前はラファールには勝てない、原形を留め生き残った残り13の〝聖器〟は皆、自らの意思で〝霊王〟の元に下ったんだ」
「……人如きに……〝聖器〟が……」
「そんなことはどうでもいい……彼の体を返してもらおう」
そう言ってエルドラドは、エルナを地面にそっと寝かせ、刃の部分に神樹ウーヴォリンの葉の成分を含んだ刀を抜いた。
「和人族が誇る、全世界最速の武器……刀だ」
「愚図が」
エルドラドはルシファーがそう一言言いきる最中に、背後に回り両腕を切り落とした。
2メートルを超える巨躯でありながらその速度は全世界最速と称されてもいた。
その速度と慈悲深き心が〝ヘルアンドヘブン〟内でしか活動していないエルドラドがその名を全世界に轟かせている。
「速いな、が」
するとルシファーは断面から血を一滴と落とさないまま両腕を数秒で再生させた。
「こいつの魔力量と循環速度なら、この程度容易いわ……はあっ!!!」
そしてルシファーは、エルドラドに無数の両拳の連打を恐ろしいスピードで浴びせた。
エルドラドは刀の峰で受け止めていたが、想定を超えるパワーに足を擦りながら後ずさってしまう。
「っぐ……一発一発が重いな……」
「もう俺はこの体に完全に取り憑いた……離れる事は無い!!! おらあああああああっ!!!!」
ルシファーはさらに連打の速度を上げ、エルドラドが対応に追われているスキにエルドラドのみぞおちに右拳を一発入れ、廃工場に吹き飛ばす。
「ぐあっ!!」
「軟弱軟弱……何だこの汚らわしい奴は……エルドラドの家族か?……貴様はこの者を守らなくても良いのか?」
膨大な数の戦闘パターンを持つエルドラドが下手に動けなかった理由は、気を失っているエルナを護るためだった。
「……気にするんだな……」
「当たり前だ、敵がどのような者なのかは知った上で無いと潰し甲斐が無い」
どこまでも完結は戦闘、殺戮となるルシファーの言葉に憤りを覚え出すエルドラド。
「……なら……答えない」
「ほざけ」
ルシファーはエルドラドを見てバッと右腕を横に伸ばす。
するとルシファーの前に100近い小さな赤い魔法陣のような紋様の描かれた光り輝く円が現れた。
「〝無限聖矢〟」
そしてその魔法陣全てから赤く光る矢が円1つに1本ずつ、そして連射し、絶える事無く無数にエルドラドに放たれる。
エルドラドは持ち前のスピードを活かし高速で刀を振って全てを斬り落としていた。
「この矢が斬れるだと……なるほど、戦争とは紛うこと無き大罪だ……人の禁忌に触れた武器なのだろう、そいつは」
ルシファーの言う通り〝神樹ウーヴォリン〟の一部を含んだ道具の精製は禁忌とされている。
エルドラドもそれを分かってはいたが、自身の力と速度に耐えうる武器が〝聖器〟の他になかったため、限りなくそれに近い武器で〝聖器〟との戦争に向かったのだ。
(エルナさんは狙わない、あくまでラファールの居場所を知る私に用があるということか……しかしこれでは、ラルフェウ君を戻す事は不可能だ……仕方が無い……危険だが、私の呪力を使うしか)
「たいそうな剣技だ、後ろががら空きだぞ」
「っ!!!?」
ルシファーは動く素振りを全く見せないままエルドラドの背後に回り、エルドラドの背中に一本の矢を突き刺した。
「〝全神経停止〟」
「っ……ぐあっあああああああああ!!!!」
エルドラドは矢を刺され、意識を失いかけるも、何とか堪える。
「タフだな、通常これを喰らえば即死なんだが」
「ははは……これで即死とは……人を舐めすぎだな武器風情が」
その言葉に額の血管を浮かべる程激昂したルシファーはまたしても動く素振りを見せずにエルドラドの背後に回り、手刀で背中から腹部へと突き刺し貫通させる。
「がふっ……」
「やはりまだ俺の魂に肉体が追いついていないか……だが無理矢理引き出した呪力は当たりだな……〝瞬間移動〟と名付けよう」
エルドラドは大量の血を吐き傷口から滝のように流すが、魔力による再生で全回では無いが止血と少しの再生を施し立ち上がる。
「無理をするな、魔人風情が」
そしてトドメの一撃を食らわせるべくルシファーは呪力でエルドラドの頭上に移動し、かかと落としで脳天から肉体を破壊しにかかる。
「それはもう見切った」
エルドラドはこの呪力の弱点である、移動を完了してから次の動作に入るまでのほんの僅かな間隔にロスがある事をたった2度見ただけで見切ったのだ。
毛穴ほどの小さな針穴に糸を通すほどの所業を、エルドラドは満身創痍に近い状態にもかかわらずやってのける。
「はああっ!!!」
右手に持った刀でルシファーの、ラルフェウの肉体の蹴りにかかってきた右脚を斬って切断し、左手でルシファーの首を掴んだ。
「なっ!!?」
するとエルドラドは、ルシファーの中へと吸い込まれるように入っていく。
エルドラドの姿形は跡形も無くなり、ルシファーは気を失いその場に倒れた。
※ ※ ※ ※ ※
「……ここか」
「……エルドラド…貴様何をした……」
辺りは完全なる暗闇、にもかかわらずルシファーとエルドラドの姿形だけは互いにくっきりと見えている。
「〝精神干渉〟……ラルフェウ君の精神に干渉した、これによりただでさえ精神状態が不安定だったラルフェウ君は、約数百数千年も眠ってしまう程、危険極まりない呪力だが……ここでは私の独壇場だ」
「……何だと……」
「さっき君が背後に回った際、空気の揺らぎを感じなかった……どういうことだ」
「こいつの呪力だ、俺が引きずり出した」
「……何て……馬鹿な真似を……」
両拳を握り締め怒りを露わにするエルドラドは指を鳴らすと、何もなかった場所から突然ルシファーを囲むように独房を出現させ、ルシファーをその中に閉じ込めた。
「なっ!!? 何だこれは!!」
「ある種夢の世界に等しいここは、私の独壇場……つまり、どうとでも出来る」
エルドラドの呪力は人の精神の中に入り込むだけではなく、その精神の中では想像力だけであらゆることを可能とする。
そしてエルドラドは精神の出入りを容易く行えるが、出入りされる肉体のダメージが凄まじいため極力使ってこなかったのだ。
「っ……どういうことだ……」
「君をこの中に閉じ込める、なんせ肉体と切り離せないからな……これで、お前は体の支配権を行使出来ない……時と場合によるがな」
「クソが!!!! 出しやがれ!!!!」
「じゃあな、叶うならば2度と出てくるな」
「待ちやがれ!!! エルドラドおおおお!!!!」
「……すまない……ラルフェウ君……」
これから何年と眠り続けるであろうラルフェウに、これから生きていくはずの時間を奪った事にエルドラドは謝りながらラルフェウの精神内から脱出する。
「……責任は、私が取る……」
エルドラドはラルフェウを持ち上げ、そしてエルナの元に歩み寄り持ち上げ、両者を自身の家に連れて帰っていく。
廃工場の方から微かに残る〝魔神〟の気配を感じ取りながら───
※ ※ ※ ※ ※
それから300年後、コーゴー本部となっていた〝神樹ウーヴォリン〟のとある部屋で、ラルフェウは目を覚ました。
「───」
「起きたか」
「……エルドラド……さん?……」
ラルフェウは上体を起こすも、下半身は上手く動かなかった。
「…あれ…」
「大丈夫だ、もう数分もすれば体内の魔力が増えて、直動けるようになる」
「…エルナは…ミルベルは…エルドラドさん!教えてください!今はどういう状況なんですか!!?」
「…まず、〝ヘルアンドヘブン〟は滅んだ」
「…は…」
「…人間が、古代兵器を投入してね…各地でガウル教が淘汰されていき、ついには教徒総動員、つまり魔人族のほとんどが戦争に参加し、全滅した」
「…全…滅…」
「…人間界は滅亡寸前まで行き、王家クルエルを人間界外に避難させた後、ジェノサイドがついに動いた…
……今まで全く動かなかったのに、人間界のためだけに、ガービウ・セトロイ本人が先陣を切り、ガウル教を玉砕した……
……その後、人間界は、核兵器とやらの古代兵器を造り出し、〝ヘルアンドヘブン〟全域に放ち、汚染され、とても生き物が住める状況ではなくなった……
……ミルベル・ファーゼルは消息不明、今生存が確認されている魔人は、私と君、SSSランクの危険人物のハロドック・グラエル……そして、エルナさんだ」
「…エルナは…生きてるんですか!!!!」
「ああ…あの後…記憶を失っていた」
「…え…」
「自分の名前、歩んだ人生、とにかく過去の事は全て忘れていた……
……おそらく、ミルベル・ファーゼルの呪力によって意識を失った際に記憶の片隅に見えないように押し込まれたんだろう……
……その後妊娠が発覚して、本人の強い希望で中絶、3年経つと呪力が突如発現……珍しい現象だが可能性としては大いにあるから問題は無い……
……彼女がある程度教養を得た後〝癒波動の地〟という、身寄りの無い人々が暮らす地に入った、生存は確認している……
……そして今……ラルフェウ君が眠ってから……300年が経った」
「───そうか……人間界が一番弱いのか」
「?……」
エルドラドの話を黙って聞いていたラルフェウは話が終わると不気味に笑みそう言った。
「……いやあ、最初に閉じ込められた時は正直焦ったが、門番がいねぇなら脱けるのは余裕だ……なあ?
───エルドラド~」
「っ!!!!」
それがラルフェウではなくルシファーだと理解するにはそう時間は必要としなかった。
ルシファーは瞬間移動を数度繰り返し、〝ウーヴォリンの神樹林〟から人間界のとある森林に入った。
しかしエルドラドが一瞬ルシファーの服をつまんでいて、エルドラドも着いてきている。
「ここで暴れたら、その〝霊王〟ってのは出てくるんじゃねぇのか!! ああ!!?」
未だ天槌ラファールとの勝負を望むルシファーは〝霊王〟を引きだそうと人間界の壊滅を目論む。
それを阻止すべく戦闘態勢に入るエルドラドは右耳に手を当て口を開く。
「……ホーウェンどの」
「何だ」
エルドラドはルシファーと戦闘しながら、右耳に取り付けていた〝小型言伝貝〟でホーウェンと連絡を取り始めた。
「……もうコーゴーには戻れない……そしてこの事は、内密にしてくれ」
「……分かった……死に場所でも見つかったのか?」
「まあそういう所だ……上等にエト・リールという聖戦士がいる……彼女を1位に推薦する……頼む……」
「……それは今決められないが、一応伝えておく……遺言はそれだけか?」
「……資産は全て〝癒波動の地〟のエルナさんに託す……それだけだ」
「……分かった……じゃあな……」
「……ああ……」
あまりに冷めた、されど戦士らしい最後の会話にエルドラドは通話を切るとフッと微笑む。
瞬時に切り替えてルシファーに真剣そのものの眼差しを向ける。
「話は終わったのか?なら、今から本気で」
「それはない」
「?……なっ!!!!」
するとエルドラドは態勢を整えきれていなかったルシファーの首を一切の躊躇なく掴み、またしてもラルフェウの精神内に入っていった。
「……何故だ……対策は練ってあったが……」
「悪役のセリフまんまだな……私の呪力なのだから対策など無意味だ」
そしてルシファーは無策ではなかったものの全てはねのけられ、再び現れた独房に呆気なく閉じ込められた。
「これからは私が門番となる……私が彼の体に出ない以上、彼が長く眠る事は無くなる」
「……っ……畜生!!!!」
「お前は学ぶべきだ───人が如何に狡猾であるかを」
「クッソおおがああああああああ!!!!」
その叫びは誰にも届かない。
エルドラドの身を犠牲にしてまでの功績は誰にも讃えられない。
歴史に残らずとも人間界の危機を救った、初代特等聖戦士序列1位の英雄の勇は、誰も知らない中で果たされた───
※ ※ ※ ※ ※
とある湖のほとりで、ベイルはうつぶせに眠っている青年を見かけた。
気絶とか意識不明とかではなく、寝息を立てぐっすりと眠っているのだ。
「……何だこいつ」
「……息が小さいのう……生命維持を保っているだけの植物状態のようじゃな……」
マルベスは青年の鼻の前に右手の平を近付け、呼吸の有無を確認する。
「そゆときはこうだな」
そう言ってハロドックはおもむろに青年の腰を両手でがっちり掴み、おもむろに湖に投げ入れた。
湖のど真ん中にドボンと落ち泡がブクブクと水面に現れ、そして失せるまでの数秒間をベイル、ハロドック、マルベスの3人は真顔のまま見つめていた。
「……何しとるんじゃエロドック」
きっと死んだと天を仰ぐと同時にマルベスはハロドックの奇行を問い詰める。
「その言い方やめろよ、どうせ沈んだらベイルが助ける」
「何でだよ」
きっと生きていると信じると同時にハロドックはいつものように冗談を交えて答える。
またこの時のベイルのツッコミが普通すぎるあまり、渾身のボケだと自負していたハロドックはもう少し捻りがほしいという眼差しをベイルに向ける。
しかしその捻りの無いツッコミはベイルの本心故にこれ以上も以下も無い……眼差しの意味が分からず、指を突っ込んでほしいのかと密かに右手でピースの形を取りかける。
すると湖からはさっきから泡が噴き出し、直後に青年が目覚め湖から浮き上がってきた。
「ぷはっ!!?……うぶっ……かはっ……はぁ……はぁ……」
青年はあたふたしながらほとんど犬かきの泳法で泳ぎ、なんとか陸に上がってきた。
「よっ」
地面に腕を起き、足を上げて何とか上がってくる青年の前でハロドックはしゃがんで手のひらを見せて挨拶する。
「……えっと……どちら様ですか?」
The place of happiness Fin.




