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Past Letter  作者: 東師越
第4章 My friend is My enemy
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第121話 空の入り口

 それはいつ以来かの、心地良い目覚め。


 家のベッドの上かと思い違えるくらいの心地良い目覚め。


 紛れもない快い感覚は、目を開いた瞬間から崩壊する。




 「おはよう~」


 広い広い真っ白な部屋、天井も高く、壁も床も縦横正方形に交わる細く黒い線が引かれ、入り口から最も遠い位置にあるダブルベッドの上で目覚めた。


 首から下に力が入らない、意識がぼやける、全く見覚えの無い男が舐めるように自身の裸体を見る。


 「でかしたなミルベル、やはりこいつは俺の好みにドンピシャだ」


 怖いという感情も湧かない、何も湧かない、屈辱も恥も無い……ただ、誰かがいるという思考だけが脳を支配する。


 「大人と子供の間、そして処女……ははは……最高だな~~」


 左頬をじっくりねっとり舐められても嫌悪感も怒りも湧かない、左胸を鷲掴みされても屈辱も感じない……そんな感情の欠如に疑いもよぎらない。


 「唇は奪わねぇ、俺がじっくり開発してお前から求めて初めて奪う……ただ、下の口は犯す」


 大切な何かを忘れている気がする、しかしどうにも思い出せない、思い出そうとも思わない……ただ意識とは別に体は勝手に反応する。


 何の涙か、何の震えか、答えは分からない、分かろうとも思わない……決定的なはずの思わずこぼれた言葉にも、情のひとつも湧かない。




 「……ベイル……さん……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 ……何があった。


 腕も足も動かない、壁に背を付け磔にされている。


 傷は無い、けどこの体勢に既視感がある。


 目を覚ます前はどうなっていたのか……自分でも分からない。


 白い部屋……何も無い部屋……どうなってる……。


 ここに来た記憶も……生きてきた日々も……あたしの名前も……思い出せない……。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「ミルベル様、食事の準備が出来ました」


 「───」


 「あ……あの……ミルベル様……」


 部下の兵士の言葉は耳に入らず、拠点の全ての部屋に配置されている〝監視映像蜘蛛(モニタリング・プロエクトラ)〟に映されている映像を血眼となって見ていた。


 (詳細を調べて見れば、曲者が多いな……ルミエルの子レオキス・フィリウ、ゾーネ・キール、20年前に行方不明となった〝炎獄〟キリウス・ジャグネット、そしてあのソラの男に女剣士という強者……1人の女はよく分からないが……


 ……しかし、アリシア・クルエルはこの程度の戦力で本気を出せば最高幹部に匹敵する力量のケイナン……それから特等のルナを攻略したとは思えない……


 ……主戦力が付近で固まっているはずだ……これからこちらに来るか?……気配は感じられないが、まあ当然か……)


 強者であればあるほど気配は大きくなるが、同時に抑えられる量も大きくなる。


 「おい、飯はまだか」


 「今、そのためにここへ……」


 「……ああ……すまない……」


 その映像にはミルベルの手により倒された一行全員が映されていた。


 その内クラジューは最も固く監禁され、バニルはデロヴァエルによって管理され、全員がミルベルの呪力により何らかの危害が加えられている。




 これは、クラジューが倒れてから数時間後の事だ。




   ※ ※ ※ ※ ※




 その数分前、ミルベルがアリシア達を連れ去ってからベイル達は未だミルベル達の居場所を突き止められずにいた。


 「……地下では無いということでしょうか……」


 「残念だね~ラッフン~」


 「山消失してるが……拠点らしきモンはねぇな」


 「ドンマイベイベイ!」


 「急がなくていいのか? あまりにもゆったりと捜索しているが……」


 「頑張れリミリン!」


 「少なくともワタシは必死……あと山の向こう側にも何もなかった」


 「次行こうビビ!」


 「高原も山だったモノも見落としなく探したが……気配もクソもありゃしねぇ……」


 「諦めるなハロちん!」


 ウーヴォリンは捜索は全くせず、ベイル達の1人1人の側に移動しまくり応援という名の邪魔をしていた。


 「ていうかウーヴォリンてめぇ、どこか分かってんだろ」


 「え~だって誰も言わないから言わない方がいいかな~と」


 「言えよ!!」


 敵でも味方でも無いウーヴォリンのカミングアウトにキレるハロドック。


 「ハロち~ん必死だね~」


 「当たり前だ、ガービウに継承者取られてたまるかよ」


 「そっか~〝ホシノキズナ〟は神的にも重要アイテムだもんな~……そういう意味では───マナクリナ・クルエルの時はホントに感謝してるんだよ~ハ・ロ・ち・ん~」


 煽り口調を惜しみなく発揮し嫌なニヤけ方で笑いながらハロドックに絡むウーヴォリンだが、ハロドックは特に反応を示さずそっと合っていた目と目を逸らす。


 「……そうかよ……なら、アリシアの時は動き無かったのは何でだ?」


 「僕はあくまで中立派、アリシア・クルエル……あーりんは覚醒した……ならばもう一段階上の覚醒があったら……それともう器は3人揃ってる、あと1人出てきたら───戦争だよ」


 「守護神が中立派なら止めて貰いたいんだけどな」


 ハロドックの言うことはごもっともだが、ウーヴォリンはハロドックのリアクションが薄くて不服なのか、負けじと合っていた目と目を逸らす。


 「こっちも事情があるんだよ、不本意ながら」


 「……その3人の内……お前の器は誰なんだ?」




 この器とは何の意味をもたらすのか。


 ビオラがベイルにカミングアウトした、自身は創造神アルカヴェルスの器だという真実。


 器とはつまり、その神の魂が宿る肉体を意味する。


 4柱の神は人の世に降りる際に、神の力を有しながら降りるために必要な器を定める……という伝説がある。


 しかし過去に1度も正確な歴史の上でそのような事例が無いために器というのは意味を成さないとされている。


 それでも器となったモノは直感に近い何らかを受信し、自分はどの神の器だと知ることが出来る。


 器というより、依り代と称した方が意味としては近いのだろう。


 ウーヴォリンは器無くして現在この世に降りたっているが、それは神としての力を発揮出来ない肉体である。




 「一言も僕が入ってるとは言ってないけど?」


 「俺がジェノサイドの重役だって分かってんだろ、ガノシラウルの器の目星はもうついてんだよ……言えよ」


 「僕の利益は?」




 「───アグリ・アルカヴェルスの末裔の居場所」




 「……いたんだ」


 創造神の名を有するモノ……その存在や血族については伝説にも幻にもなっていないが、紛れもなく重要人物だ。


 「あらゆる世界のあらゆる事を知ってんじゃねぇのかよ」


 「僕は全知全能じゃない、守護神だ……そっかいるんだ……」


 「……まあ今はそんなことどうでもいい」


 「は?」


 「器はもう誰か分かってる」


 「……ハロちん」


 「神様なんだからもっとドシッと構えてくれよ、っははは」


 ハロドックはそう言ってほくそ笑んだ。


 「……不死身が神の加護だって忘れないようにね」


 「お前の加護じゃねぇけどな」


 脅しをかけたつもりのウーヴォリンだが、やはりハロドックには何を言おうと空振りとなるウーヴォリンだった。




 同じ頃、ベイルはラルフェウとリミルと合流した。


 「ベイル様、やはりこの付近にはありませんよ……気配も感じませんし……」


 「気配はどうとでも出来る、奴らは金はあるからな……それより不可解なのが、ここである理由だ」


 「……と言いますと?」


 「ラルフェウ、お前の言う「信頼出来る者からの証言」では、ここ10年ジェノサイドの者達がアセンシル高原を行き来していた、だが大人数が収容出来る施設は見当たらない……なら、ここである理由は見当たらない」


 ラルフェウにそう尋ねるリミルの言う「信頼出来る者からの証言」とは、うさちゃんの事である。


 「……それはつまり……施設はもっと別のところにあって、カモフラージュのためにわざわざ10年ここを移動していた、ということですか?」


 「だがウーヴォリンがやってみせた踏み入れるだけで瞬間移動出来る技術は科学的にあり得ない」


 「なら何故」


 「いいか、あり得ないのは科学的にだ……呪力は、科学的には何一つ理論が証明されていない、ただの怪奇現象に過ぎない」


 「……アセンシル高原のどこかと、施設との間だけを瞬間移動出来る呪力を誰か持っているということですか!!……なるほど……」


 「あまりにも簡単な問題だ、気付けなかったのは……先入観だ」


 「先入観?……」


 「ルブラーン襲撃でジェノサイドは前時代的な武器類を使用してきた、ジェノサイドは呪力を利用するだろうという考えすらも蚊帳の外だったんだろう」


 「……申し訳ありません」


 リミルの言う通り、ジェノサイドに馴染みの薄いラルフェウは呪力という選択肢をはじめから除外して考えていた。


 「最も、私も場所は分かっていない、だから、教えてもらおうか……ベイル……自分に都合の良いようにするのは勝手だが、時間稼ぎにしてはかけ過ぎだ……ジェノサイドを甘く見過ぎている」


 「……そうかよ」


 するとベイルはその辺の石ころを拾って空に向かって投げ放った。


 10秒程後、石ころは突然空中で何かにぶつかり、山だったモノの方に落下する。


 「リミル、お前の推論は一部間違ってる……この場所はカモフラージュじゃねぇ、高ぇ山っつー立地条件が良いから、空中にそういうのあるんだよ……山消えたけど」


 「───空中はさすがに想定外だったな……」


 「僕もです」


 拠点は山でも地下でもなく、見えなくして宙に浮くように設置してある……そんな未知に早々に気付くベイルの表情は変わらない。


 「じゃ~行こうぜ~ベイベイっ!!」


 するとウーヴォリンが突然現れ、ビオラとハロドックも合流した。


 「じゃあ行くか」


 そう言ってベイルはウーヴォリン以外を瞬間移動させ、施設辺りの空中に5人は立っていた。


 「うわっ!!?……ベイル様……これは……」


 「この建物と同じ」


 「建物って……透明なんですか?……何も見えませんが……」


 6人は空中で立っている風にしか見えないが、足場はちゃんとあり、特に足音を立てて目を丸くするラルフェウ。


 「透明に見せる結界、あと質量のある物体を浮遊させる呪力……以外と揃っているわね」


 「ほーらよっと」


 ベイルは右手でノックをするように、西側に張られてある結界を一発叩いた。


 すると結界はベイルが叩いた部分からひび割れていき、結界は崩壊し、円柱型の巨大な建造物が現れた。


 「ひゅ~、無茶苦茶デケぇな」


 「入るか」


 ベイル達は謎の建造物の中に、躊躇無く入っていった。

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