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Past Letter  作者: 東師越
第4章 My friend is My enemy
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第120話 黒雷

 「かはっ……あ……へぇ……読み通りってとこか」


 爆破による衝撃波と、それ以上に全身を重く深く凄まじく、切り裂き抉り吹き飛ばされた雷撃波により命の危機を覚えるミルベル。




 そもそもダメージらしきダメージを今回の一行との戦闘において負ったのは、バニルの初撃の剣技によるもののみだ。


 あれも致命傷は避けたとはいえ、ラルフェウやハロドックのような化け物染みた魔力の量も質も持たないミルベルは〝零域(ゾーン)〟により細胞を活性化させ再生力を高める。


 そして呪力である〝毒薬(ポイズン)〟で傷やダメージの治癒力を底上げして爆発的な再生力を生み出している。


 〝毒薬(ポイズン)〟───自身の体内で毒や薬を創り出す……効能はミルベルの想像力次第、製薬時間は効能による。


 効能が複雑であればあるほど製薬に長時間を要し、さらに1度創り出せばいつどのタイミングでも即座に全身の汗腺から繰り出すことが可能となる。


 そのストックの数は本人以外誰も知らない。


 


 ミルベルは例によって間一髪で〝零域(ゾーン)〟に入り、呪力で治癒力を活性化させダメージを無に帰す。


 「……ソラの一族は唯一単体で全世界を滅ぼせる種族、だったか……ホラだと思っていたが……これが噂の根拠か……素晴らしい」




   ※ ※ ※ ※ ※




 青天の霹靂……今日の日ほどこの言葉が似つかわしい天候は無いだろう。


 クラジューの自我の有無は不明だが、禍々しい黒きオーラを放ち出したと同時に、人間界のあらゆる地で黒き稲妻が降り始める。


 雨のようにとは言わないが……家を灰に焼き焦がし、森を火の海と化し、穏やかな海に嵐や竜巻を引き起こし、地形を変えあまりにも簡単に人を殺す……


 ……そんな威力のこもった黒き稲妻の一発が、人間界中に降るように落ちてきている。


 その雷は無差別的な被害をもたらし、地面に落ちた雷は電流が地面に残り、それらはクラジューの元へと引き寄せられていく。


 そしてクラジューの無差別的な威力を誇る技の糧として〝共鳴〟するのだ。


 逃げ惑う人々、家に閉じこもる人々、誰も彼も安全などでは無い。


 その程度で大丈夫だと安心すれば、暴力的で絶対的な悪意の黒がお前の喉元に食らい付き、その生涯は誰の目にも止められずに死ぬだろう。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「〝黒雷光放閃(デル・ノウフェンズ)〟」


 ミルベルがクラジューに目線をやると、クラジューは右手の平の上で自身の体よりも大きな黒き雷のエネルギーの塊である黒き球体を作り出した。


 「なっ!!?」


 火花を外側に散らし続けるその球体を手のひらサイズに収縮した瞬間、ミルベルに目掛けて右手の平を向け一直線に黒き雷エネルギーを込められた光線を放つ。


 しかし〝零域(ゾーン)〟と呪力により強化されたミルベルからすれば真っ直ぐ向かってくるこの攻撃は容易くかわせた。


 そう容易いモノだったならば、この駆け引きはミルベルの勝利だった。


 「っな……ぐああああ!!!!」


 その光線は追尾する。


 敵と認識した黒い悪意は捻り曲がり、次の動きのモーションへと入るタイミングで右腕と右耳、右脇腹をその悪意は貪る。


 「……なんだ……と……」


 その黒いオーラを放って以降浮遊し続けるクラジューは動いたという痕跡すら残さない尋常じゃない速度で、ワープするようにその場から消え、火花と共に男の背後に回り、槌で背中を打ち上げた。


 「うぐっ……あ……」


 そして空中に飛んだ男が空中を止まっていられる程、ワープのような動きからの強力な一撃をあまりにも速く八方から繰り返し続け、クラジューは分身しているかのようにも見えた。


 「くっ……うっ……」


 無慈悲に浴びせられる暴力。


 あまりに一方的な殴打に正面からの戦闘に勝ち目が無い事を悟り、現状打破のためにこの瞬間は耐える、耐える……耐え続ける。


 (ヤベぇ……身動きが取れねぇ……多分自我はねぇだろうが……この状態が長く続く訳がねぇ……速ぇだけでスキは幾らでもあるはずだ……耐えろ……あとはスキを突くだけだ……)


 数十秒で千発以上の打撃を与え、やがてクラジューは真上から男を地面に叩き落とした。


 「〝黒雷竜逆鱗(テウ・アムカトル)〟」


 人間界全体を覆う黒雲、その雲のクラジューの真下から現れた黒き雷で形成された2頭の竜。


 1頭の咆哮がミルベル人間界全体に撒き降らしていた黒き雷の集中砲火を浴びせ、もう1頭のはためかせた翼がミルベルを竜巻の中へと誘う。


 両竜による雷撃と形成された吹き荒ぶ竜巻の中に閉じ込められ、幾度も意識を失いかける。


 治癒しても再生してもクラジューによる一撃の方が速く深く、生傷と流血の数は更新され続ける。


 悪魔と呼んでも差し支えない姿から放たれるどす黒い瞳による眼差し、ミルベルはいつ以来かの恐怖を思い出した。


 「うあああああああああああああ!!!!」


 「〝黒雷星(ミラ・ナンロ)〟」


 黒き悪意に満ちたクラジューの、通常なら繰り出されないオリジナルの技。


 遙か上空でクラジューが覚醒後作り続けていた雷のエネルギーが集約した直径数百メートルの黒い球が直径1メートルに凝縮され、雷速で男に直撃した。


 その瞬間球は膨張し、高原や山脈全体に響き渡る程の爆発と衝撃波が襲った。


 この衝撃波により9000メートル級が連なる山脈は完全に消えて無くなり、付近一帯の大地はこれでもかと抉られる。




 「───」


 「死なねぇよ」


 しかし男はもろに直撃したにもかかわらずクラジューの前に突っ込み、クラジューの腹部を指を折り曲げた左の張り手で貫いた。


 「がはっ!!……」


 その一撃がクラジューが纏っていた黒い火花を失せさせ、目も元通りとなり、人間界全体を短い時間ながらも恐怖のどん底へ叩き落とし震撼させた悪意は消え失せる。


 男が左腕を抜くと、吐血するクラジューは多量の血を流しうつぶせに倒れた。


 「はぁ……はぁ……っちぃ……」


 (危なかった……あの黒い雷に耐性のある毒があのふざけた爆弾が当たる前に出来なかったら……確実に死んでいた……そもそも……ソラの一族って時点で最警戒は当たり前だ……俺のミスだが……結果オーライならそれで良い)


 「……ようやく研究が進む」


 ミルベルは生かすためにクラジューを治癒しようとすると、クラジューの傷は既に治癒されている事に驚愕する。


 その生存本能の激しさに、感服するほかに無い。


 「……しぶといな……まあ殺す気はなかったからいいか……」


 黒い雷に耐性のある毒を作り出すためにギリギリまで肉体を維持した〝零域(ゾーン)〟は既に解かれ、徐々に自身のダメージを呪力で治癒させてゾーネの死体の元に歩み寄った。


 「……綺麗に死んでくれたな……粉々だと困るからな……」


 ミルベルはゾーネの左手の薬指から指輪を外しその場に捨て、右手でゾーネの遺体の左足首を掴み西側に歩いていった。


 全てが終息し静まり返ったのを見たのか、西側から10数人の武装した兵達が現れた。


 「……ミルベル様……今のは……」


 「ああ……問題ない……そいつらを1人1人実験室で拘束しろ……アリシア・クルエルは最上層のNo.0の部屋だ……あとはどこでもいい」


 「はっ!」


 兵達は一行を拘束し、担架に乗せて運んでいった。


 どういう奇跡か、あれほどの衝撃を至近距離の無防備なアリシアがもろに食らって、まだ人の形を保っている。


 否───これが〝聖器(ポーマ)〟の自己防衛本能。


 「……クソが……手間取らせやがって……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 その数分後、ベイル達はクラジュー達が戦った土地に辿り着いた。


 禍々しい黒き雷を操るクラジューとミルベルの衝突を近い距離から見ていたベイル達だが、特に何事もなかったかのように顔色一つ変えない……ラルフェウ以外は。


 「……これは……」


 「いや~さっきの風すげかったけど雷って誰か心当たりあんのベイベイ?ねぇ?ねぇってば~!うぉ~?」


 「知らねぇよ」


 軽い口調でも神であるウーヴォリンにすごいと言わしめるほどなのだから、本気で凄まじかったのかとつばを飲むラルフェウ。


 しかしウザ絡みされるベイルにとってはそんな事よりどこかに行って欲しいという考えが勝る。


 「……ベイル、お前は随分質の低い連中に好かれるようだな」


 ここでリミルの言った連中とは、〝死神魂(デケム・メア)〟を宿す一行の事だ。


 「修行でもさせろと?」


 「その方が良い……いずれ本腰入れて四大勢力の2つと渡り合うならば……闘値8億以下はお荷物だ」


 「……そんな時間があればいいな」


 「彼らは世界の端っこで強かっただけの弱者、知るべき事実はここで知れたはず……後は彼ら次第」


 ビオラもまた一行のこの失態にため息をつく。


 「しかしビオラさ……っ!?……」


 するとラルフェウはアリシアの持っていた聖剣スターゲイザーを見つけて拾い、さらにゾーネの婚約指輪を見つけて拾った。


 「……まさか」


 ここでラルフェウはようやく、一行全員の気配の中にたった1つ欠けた気配があることに気付く。


 「いいのかベイル……お前の野望から、まあ俺の野望からもだが、遠ざかってんじゃねぇのか?」


 このままでは戦力に偏りが浮き彫りとなる一方で、野望に辿り着くまでにさらなる時間を要するのでは無いかと危惧するハロドックだが……。




 「いや、これでいい───ようやくゾーネが死んでくれた、行くぞ」




 その言葉の真意がどこにあるのか、ウーヴォリン以外のこの場の全員が真剣な眼差しをベイルに向ける。


 「はい……」


 ラルフェウは指輪を見てゾーネの死を悔やみ、弱々しく返答する。


 「おいおい、馬鹿なフリしてどこまで計算通りなんだよこのチビはよ……」




 この展開は読み通りだと思わせるベイルの言葉の直後の微笑み。


 何手先まで見えているのかと、あまりにも掴めないベイル・ペプガールという存在にハロドックは思わず笑ってしまう。


 ベイル達はミルベル達から、一行を奪還するべくさらに西側に歩いていった。

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