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Past Letter  作者: 東師越
第4章 My friend is My enemy
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第116話 ようやく踏み出す一歩

 「最高長官って……それって……」


 「肩書きに意味は無い、創設時に資金繰りに必要な圧力をかけられたのがたまたま私だけだっただけだ」


 「……そ、そうですか、か……」




 コーゴーに最高長官という役職が存在する事はコーゴー職員でも知る者は少ない。


 まして職員ですら無い者は情報屋でも無い限り知る者は皆無、コーゴーが明言していないために知る術が無いのだから。


 何せ最高長官であるリミル・ゼルア自身がコーゴーが決定した特定危険人物13人の1人なのだから。(ちなみにこの13人にベイルとハロドックは含まれている)


 コーゴーで最も高い地位にいながら、ジェノサイドにも存在を追われる程に危険視されている一匹狼……それがリミル・ゼルアだ。




 「で、お前とリミル・ゼルアはどういう間柄なんだ?」


 かなり親しげに話すベイルとリミルを見て疑問を感じたハロドックは2人にそう問うた。


 「腐れ縁」


 「幼なじみだろう」


 「それを腐れ縁っつーんだろ……」


 「私は言わないな」


 「幼なじみって……黄金世代すぎんだろ……」


 予想外の息の合った掛け合いと全く知らなかった驚愕の事実のダブルパンチで上手く返せる言葉が出てこなかった。


 「まあ私は種族は違うがな、だからリミル・ゼルアも偽名、本名は忘れた」


 「そ……その方が……あの緑色の光を……」


 「ああそうだよ……ビオラちゃん、あいついるんだろ?」


 ラルフェウの呪力よりも優れていると思われる瞬間移動を発動させた緑色の光、それはリミルの手によるモノだと考えたラルフェウの思考はハロドックの一言で違うと決定付けられた。


 「ここだよ~」


 するとハロドックを頭の上に、白の無地Tシャツと短パン姿な、細身で髪がため池の光と同じ緑色の者が片足でフラフラと立っていた。


 「降りろ」


 ハロドックは驚く様子も無く、ただただ不快そうに声を出す。


 「ハロちんの頭の上が乗り心地いいのが悪いんだよ~」


 口ぶりからしてハロドックとは旧知の仲だと思われるが、ハロドックは露骨に嫌そうな表情を浮かべる。


 「……ビオラさん……彼は……」


 「守護神ウーヴォリン」


 「……へ?」


 「守護神ウーヴォリン」


 「……今な」


 「守護神ウーヴォリン」


 「も~何回言うんだよ恥い~」


 ビオラから守護神ウーヴォリンと呼ばれるヒョロヒョロの者は何の前触れも無くハロドックの頭上からビオラの背後に移動しており、頭をぐしゃぐしゃに撫でた。


 「いつの間に……さっきハロドックさんの頭の上に……」


 「え?僕神だから気分次第でどこの世界のどの場所にも一瞬でヒョイっ!だよ?」


 「諦めろラルフェウ、こいつはマジマジのマジでウーヴォリンだ」


 威厳も偉大さも微塵も感じない、多くの人々から崇められる神と名乗るにはあまりにも拍子抜けなこの者が、この世に君臨するとされる4柱の神の1柱。




 そしてウーヴォリン教の教祖とされる───守護神ウーヴォリンだ。




 「ベイル様……いえ……仮にそうだとして……神って……実在してたんですか?……」


 「いるよ~4人全員」


 そもそも神は各宗教が創り出した想像上の存在だと認識する無神論者のラルフェウは、そもそも未だにこの者がウーヴォリンだとは理解出来ていない。


 そんな考えがまとまらない中でウーヴォリンは一瞬でラルフェウの額同士がぶつかり合う距離に移動した。


 「わっ!?」


 「面白いね君、中にルシファーいるんだへぇ~……名前は?」


 時間にすればコンマ以下秒の額の激突だけでラルフェウの精神内に〝聖器(ポーマ)〟闇弓ルシファーが存在することをあっさり認識する。


 「ラ、ラルフェウ・ロマノフです!」


 「オッケーラッフン、神について無知な可哀想魔人の君に教えておこう、僕はウーヴォリン、ウーちゃんでいいよ、ちなみに本来の姿ってあるんだけど、今は仮の姿」


 「そうなんですか?……しかし……書籍の絵によく似ていますが……」


 格好はともかく、顔はウーヴォリン教の書物で見るモノとだいたい同じなのだ。


 「あっははは!神なのに人と同じ姿形な訳無いっしょ!人前だとこの姿なだけ、あーでもある程度力は出せるよ、さすがに何も無しじゃ神的に示しがつかないし~」


 「……なんというか……思ってたより人っぽい性格なんですね……」


 「あっははは!…は?マジでやめろよ、何で僕がお前ら人と同等な訳?」


 周りからウザがられるほどに陽気な表情から一変し、今まで感じた事が無い気配を醸し出してラルフェウの顔に顔を近付けるウーヴォリン。


 その表情から笑みは消え、怒りとも捉えられるような目を見開いた表情に緊張の走るラルフェウ。


 「え……」


 「いいラッフン?……君は自分と蟻、どっちの方が偉いと思う?」


 「……それは」


 「あー建前はいいよ、生き物は自分より小っこくて無能だと思った他の生き物を勝手に下に見ちゃうの……それとおんなじ、君が蟻に持つ感情と同じ感情を僕は人に対して持ってる、当然でしょ、人は生物史上最大の失敗作だから」


 威圧感とは違う、恐怖感とも違う、これまでのペラッペラな言葉とは違い、一語一句に計り知れない程の重圧を感じる。


 敵意と誤解して戦闘態勢に入りかける程に重く深く、そしてここでラルフェウはようやく理解する。




 この者からオーラを感じない、力の底が見えない……全く。


 そして納得する、してしまう、せざるを得ない……この者こそが神なのだと───





 「……すみませんでした……」


 これが何の謝罪なのか分からないまま、ふいに口からこぼれていた。


 そしてラルフェウはこのタイミングでハッとする、ウーヴォリンの醸し出す気配に飲まれ無意識下に置かれたまま放った言葉だった。


 「分かったなら良し!頭を垂れろ愚民共ー!」


 そんなラルフェウを見て何を思ったのか、一瞬悪意とも捉えられる笑みを見せた後に陽気なテンションに戻る。


 「はっ……はぁ……はぁ……」


 ウーヴォリンのテンションが戻って初めて、ラルフェウは凝視された瞬間から呼吸を忘れていた事に気付く。


 「で、本題だけれど」


 「ビビ~僕をスルーしないでよ~」


 再びぐしゃぐしゃとビオラの髪を乱暴に撫でるウーヴォリン、先ほどのハロドックの時もそうだが、如何なる形の反撃もしない。


 ビオラならばやりかねないと思ったラルフェウだが、今のところシカトする様子しか見られていない。


 これもウーヴォリンが神故に何をしても無駄だからなのか、それとも普通に嫌だからなのか、その辺りの真意は不明だ。


 しかしラルフェウはそれよりも気になることがある。


 「ウーヴォリン様って男性なんですか?……」


 ラルフェウはハロドックの耳元で囁いた。


 「無性に決まってんだろ、男っぽい見た目はあいつがこの方が馴染みやすいからだとよ」


 「……そうなんですか……」


 どうでもいい疑問に思えるが、ラルフェウにとってはこの者をウーヴォリンだと理解した瞬間から生まれた疑問、重要な疑問だった。


 そしてビオラはウーヴォリンを無視してベイルに向かって話し始める。




 「……ワタシは、アナタと出会って、アナタの見る世界に興味を持った、だから着いていった……


 ……けれどルブラーンの一件以降……アリシアの見る世界にも興味を持った……ワタシと違って、突然力を手にし、自らの意思で親を殺した彼女の心は……荒みきっていた……


 ……ワタシは、今後この2人と行動を共にするならば、自らの力を限界まで上げる必要があると考え、サン・ラピヌ・シ・ソノに向かって強くなった……


 ……さらに刺激を求めて、リミル・ゼルアと接触し、ワタシの見る世界は大きく変わった……ちなみにウーヴォリンはほとんどおまけ」


 「面白そ~だったから~」


 真面目なビオラの話の横で頭で逆立ちした状態で独楽のようにグルグル回り続けるウーヴォリン。


 「それでもっと世界を拡げたいと思って旅をしてたら、ルブラーンの例の件を知り……恐らくここに来ると思って待っていた」


 ビオラはアリシアによる〝ホシノキズナ〟の覚醒により、取り巻く環境は驚くほど変わるだろうと予知する。


 それは当然危険という意味であり、自身の野望を叶えるために戦力として必要とされなければならないとビオラは考えた。


 ビオラの野望であるベイルの行く末を見ると同時にアリシアの行く末を見るという野望も生まれた。


 うさちゃんをルブラーンへ呼んだのは力を効率良く上げる方法を知るため、そこでうさちゃんはビオラに〝時軸変石(ザシュバルノ・ストーン)〟の洞穴を薦めた。


 さらにベイルから離れてベイルを知るために情報網はこの世で1番と思われるリミルとの接触に成功、ベイルのあらゆる情報を知る事が出来た。


 そんな中で知ったジェノサイドによるルブラーンの奇襲。


 世界情勢が大きく変化するこの事件により再び一行の元に戻るなら今と踏んだビオラは、一行の行動を予測し逆算してこの地に先回りした。


 つまりビオラの行動は、全て一行のために尽くされたモノだった。


 


 「俺らだけをジェノサイドの基地から離した理由は?」


 「アナタ達が向かえば、すぐに終わるだろうから、彼らの力がどれほどか見たかった……けど今ここから感じる限り……想像以上に力が無い……10年前と変わりはあるけれど……心底がっかりした……」


 急成長したとはいえコーゴーやジェノサイドと対立するための十分な戦力を保持していない一行に落胆するビオラ。


 「辛辣だな~おい……で、リミルはよく引き受けたな」


 「お前に会いたかったから」


 「本音は」


 「それも本音なんだがなぁ……会う口実はある、要件は2つある……まず1つは……




 ───〝死神魂(デケム・メア)〟をお前の体内に戻す方法が分かった」




 「っ!!」


 「おーすげぇな」


 ベイルの野望達成の絶対条件である〝死神魂(デケム・メア)〟の回収。


 自信の片割れでもあるそれらを宿した10人を集める事は可能だとしても、それを自らの肉体に還す手段が無かった。


 ベイルが直接頼んだ訳では無く、これはリミルが自らの意思で探し当てたのだ。


 「鍵は人間界にある、事が済み次第向かうとして……2つ目は───私も〝死神魂(デケム・メア)〟を所持しているということだ」


 「……は?」


 「たまたま私の目の前で死にかけていた者から譲り受けた、いや正確には、譲らせたというべきか」




 もちろん〝死神魂(デケム・メア)〟を宿す者はランダムではなく条件はある。


 リミルはそれを満たしていたため「たまたま」宿す事に成功した。


 しかし宿主が死ねば誰かに託す訳では無く、〝死神魂(デケム・メア)〟がベイル以外の次の肉体を探し求めて宿るのだ。


 故にリミルの口ぶりから予測出来る、意図的な宿主の変更というのは不可能では無いにしろそれに近いモノだった。


 ベイルが納得したのはリミルの呪力を知り、それを駆使すれば容易いモノだと判断したからだ。


 そもそも通常、宿主は〝死神魂(デケム・メア)〟が自らに宿っていると知る事は無く一生を終える。


 その存在に気付く理由もまた条件がある───




 「……なるほど、人間界もあとちょっと用あんのか…」


 「私も同行する、そこで私から〝死神魂(デケム・メア)〟を受け取り、一旦別行動した後に落ち合おう」


 「どこにだよ」




 「───フェアルが目覚めた」




 「……乗った」


 たったそれだけの情報でベイルは決意を固めた。


 それほどの存在である「フェアル」……これがベイルの過去に密接に関わる存在だという事を、この場でベイルとリミル以外は知る由も無かった。


 「という訳で僕も勝手に着いていきま~す!」


 「ああ面倒くさ、何でウーヴォリンなんだよ……」


 ベイルの右腕をピアノを弾くみたく右手の指で連打しながら音痴な鼻歌を歌うウーヴォリン。


 「……全く着いていけません……」


 ここまでの話が完全に理解出来ず混乱するラルフェウ。


 「では降りようか、ジェノサイドの方にアリシア・クルエルが行ったのだろう、向かわざるを得ないだろ」


 「じゃ~僕が連れて行こっか」


 リミルをあらゆる角度から目を合わせて笑わせようと画策するウーヴォリン、しかしリミルは無反応だ。


 「ため池まででいい、どうせ遅れた方が後々都合が良い」


 「今日リミルめっちゃ喋るな」


 「いつもこんなものだ」


 「んじゃレッツゴー」




   ※ ※ ※ ※ ※




 ウーヴォリンの力によりベイル達6人は瞬時にため池に移動し、西側に向かって歩いていった。


 「ベイルもアリシア様々だな、でなくてはここまで集まらない」


 「そーだな」


 「なあビオラちゃん、修行ってどこまで行ったの?」


 「行ける所まで」


 「ね~ね~ラッフン、ラーメンはしょうゆ派?とんこつ派?僕はね~……食べない!あっははは!」


 各々が会話する所を訳の分からない会話で怠絡みするが誰もが恒例と言わんばかりに無視して行く。


 「もしかしてこれ、これからウザくなっていきますか?」


 「さあ……で次なんだけど」


 「なんだけどって……」


 「ご愁傷様」


 「ビオラさん……助けてくださいよ……」


 「断る」


 (……僕は大変場違いだ……〝死神〟の称号を持つベイル様、〝狂犬〟の称号を持つハロドックさん、コーゴー最高長官のリミル・ゼルアさんに、ヒュドールのビオラさん、極めつけに守護神ウーヴォリン様……


 ……僕が入るスキ、どこにもないですよね)


 ラルフェウの論点がズレていることをビオラは分かっていながら何も言わなかった。

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