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Past Letter  作者: 東師越
第3章 ホシノキズナ
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第104話 全ての創まりの日

 アリシアが地下15階の床を消し去ったため、その場にいた3人と1羽は天樹の幹の上に落下した。


 「ぉぉぉおおおおおおお!!!???」


 「よっ」


 「っと……」


 「……痛そう」


 「ビオラさんも人を心配する言葉出るんだね」


 地下15階の床が消失し、ハロドックとリドリーとビオラは樹の上に着地しニコラスは腹から激突した。


 そしてハロドックは理由が分からないままビオラに股間を蹴られて悶絶する。


 「アリシア……何だよあれ……」


 「落ち着け、悪い事態じゃ……っ!!!!?」




 その場に落ちてきた全員が目を奪われた。


 リドリーがアリシアの目を見た瞬間に驚愕し、今にも尻もちをつきそうな後ずさりを2、3歩踏む。


 ビオラは驚いてはいるがすぐに微笑みを見せ、アリシアが超えるべき壁を乗り越えた事を心の中で祝う。


 ハロドックはいよいよアリシアが覚醒をやってのけた事を素直に喜び、そしてアリシアがそれと加えるべき別の才能を持ち合わせている事を見て冷や汗が出る。


 「何だよ! やっぱりアリシアどうかしたのか!?」


 「痛~っててて~……どんな卵でも温めるオレっちの腹じゃなかったら死んでたぜ~」


 「今のはあれだ……ガービウと最初に戦ったときの目……間違いねぇ──《虚無の瞳(エンプティ・アイ)》だ……あとニコラス、お前メスだから基本温めねぇよ」




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、この世界のどこかに存在するジェノサイドアジトで、ガービウは自室で老いた男と2人の時に〝ホシノキズナ〟の〝覚醒〟を感知していた。


 「っははは……やっと来たか」


 「どうしたガービウ」


 老人はガービウ・セトロイを親しげに呼び捨てし、ガービウもそれを認めているため特にアクションは起こさない。


 「……千年戦争ん時みてぇに、わざわざ俺が暗躍しなくても出てきた訳だ……ベイル・ペプガールは間違いなく俺と互角だろうな」


 「……それは困るな」




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、コーゴー本部内の喫茶店では先ほどのルナのオーラについて話し合っていたホーウェンとシキシマがコーヒーと緑茶を飲む手を止めた。


 「……シキシマ」


 「ああ、やっと来たか……どうするんだ? あいつら集めんの?」


 「いや、〝神官十一帝機構(シント・セチャルダス)〟の容認が必要だからしばらく様子見だ……くそっ、煩わしい」


 「はあ……老害だな」




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃、この世界のどこかの川でたった1人水浴びをしながら美しい裸体を曝け出す女がルブラーンの方角を振り向く。


 それはかつてユリと出会い、継承者との接触を持ったことのある女──リミル・ゼルアだ。


 「……早いな……いつか会わないとな……9人目……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 この他の〝霊王〟をはじめとする全ての強者達は皆揃って、〝ホシノキズナ〟の〝覚醒〟を察知していた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「っはは……はははは……あっはははははははははは!!!……ついにやった……〝ホシノキズナ〟が覚醒したぁ!!!」


 喜びに沸くケイナンは声が裏返るほどに笑う。


 その姿を見たアリシアは笑った顔を少し強張らせ、ゆっくりと歩いてケイナンに近付く。


 「その力をジェノサイドに明け渡せば、俺の計画は達成される……」


 「知らないよクソ野郎」


 感情がこもって無いようにも捉えられるような声でケイナンを挑発し握りしめた右拳をケイナンに見せるように前に差し出し、勢いよく手を広げる。


 「っ!!?」


 ドオオオオッッッ!!! と。


 たったそれだけの衝撃波で昼夜問わずの龍化に入っているケイナンをあっさりと激しく吹き飛ばし、その風圧で地面が地震のように大きく揺れ地下空間の側面の土が段々と崩れていく。


 ケイナンにのみ吹いたその衝撃波で確かに吹き飛んだが、壁に足の裏をつけ反動をつけてアリシアに致命傷にならない程度に左肩を突き刺す。


 「……まだ……」


 アリシアには確かにしっかりと左肩に聖剣スターゲイザーが突き刺さり貫通し、血も溢れるように流れている。


 だがアリシアはそれに一切反応を示さず、先ほど繰り出した衝撃波の威力が思いのほか弱く右手を閉じたり開いたりしながら考えていた。


 「……な……んだ……と……」


 「それ、ちょうだい」


 アリシアは一気に今さっきまで考えていた興味が無くなり、自身の左肩を貫通するケイナンの持つ聖剣スターゲイザーに興味が湧いた。


 アリシアは左膝を上げてケイナンの腕を簡単にへし折り、握力が失せ落とした聖剣スターゲイザーを拾い上げる。






 〝ようやく出会えましたね、〝ホシノキズナ〟継承者〟


 アリシアは突如聞こえてきた声が自らの持つ剣から聞こえてくる事を理解し、剣に目を向ける。


 「あなたは?」


 〝我が名は聖剣スターゲイザー、人間界が誇る〝聖器(ポーマ)〟だ……覚醒したあなたを見て確信した……私はあなたに付いていくと……〟


 「……ありがとう」


 ケイナンが持っても全くの無反応だった〝聖器(ポーマ)〟だが、アリシアが手にした途端に正体の声をアリシアにだけ聞こえ、剣の秘めるエネルギーも何十倍にも引き上がっていた。


 ──これが本来の〝聖剣〟の力。






 「待て待て、そいつと決着着けんのは俺からだ、お前はちょっと下がってろ」


 「……分かった……でも、トドメは私がやる」


 「はいはい」


 ベイルの言う通りにアリシアは下がり、ケイナンの前にはベイルが立つ。


 「……目的は……達成されただろう……邪魔だ……」


 「いやいや、お前をぶちのめして助けるって話だったし、助かったけどぶちのめして無いじゃん」


 「……っははははは……何を今さら……お前が俺に勝てる要素など無い!!!!」


 「ほう」


 ベイルが左拳に青白い炎を纏わせ答えると、ケイナンは〝滅力亡呪(デリート)〟の呪力を駆使してベイルの呪力を使えなくしようとした。


 「……な……何故だ……何故呪力が発動しない!? 何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ」


 「ほら、俺の呪力〝全能(オール)〟って言ったじゃん……五聖の残り4つと例外2つを除く全ての呪力が使えるって──



 ──そりゃ五聖ともなれば、ちゃんとこの目で見ないと分かんねぇくらい強い呪力だもんな」



 「……ど……どういうことだ……」


 「元々例外は5つだった、つまり──使えねぇ呪力をこの身に食らえば、俺も使うことが出来るようになるって事だ」


 元々ベイルの呪力〝全能(オール)〟は、数と種類が数値上制限があると断定させる唯一の呪力だ。


 何故なら、この世に存在する全ての呪力を使うことが出来るという驚異的な力だ。


 しかし呪力が扱えるようになっても、五聖たる〝全能(オール)〟では再現不可能な五聖残り4つと例外5つの計9つだった。


 だがその全ての呪力による攻撃をベイルが食らえば、〝全能(オール)〟がそのデータを収集し使えるようになるという事だ。


 つまり今ベイルは、ケイナンから受けた呪力をそのままお返しと言わんばかりにケイナンにかけ、ケイナンは呪力が使えなくなったという事になる。


 「言っただろ、どこまでが嘘でどこまでが真実か見抜けねぇような間抜けはたとえ力があっても強者とは言えねぇって」


 「……そ……そんな……そんなバカな事があってたまるかぐぼぁっ!!!……」


 思考が止まりかけ自棄を起こし始めたケイナンがスキだらけに向かってくると、絶対零度の冷気の炎を纏う左拳でケイナンの顔面を一発打ち込む。


 吹っ飛んだケイナンは壁にめり込まず背中を強打し地面に落ちるが、すぐに立ち上がる。


 「言っとくけど──俺左利きだから」


 そう言ってニヤリと笑うベイルは右拳には灼熱の炎を纏わせケイナンを殴り倒し、容赦なく何度も何度も何度も何度も何度も繰り返し殴りつける。


 「うるああああぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 「ふ……ざけるなあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 抵抗するケイナンも、負けじと拳を振るう。


 ドドドドドドドドッッッ!!! と凄まじい数とスピードの拳の交戦で、かち合う度に爆風のような衝撃波が吹き荒れる。


 「その程度かクソ野郎!!!」


 「っぐ……あ……あああぁぁぁあああぁぁああああ!!!」


 だが鬼の如く無慈悲かつ一発一発に込められたベイル力の強さに、ついさっき闘った時は手加減していた事を身に染みて知った。


 ハロドックすらも呆気にとられるほどに、焼けるように熱い衝撃波と凍りつくほどに冷たい衝撃波を交互にどこまでも殴り続ける。


 一方でアリシアは一切表情を変えずに、ただ行く末を見守るだけであった。




 笑いながら周りの事など気にせず殴り続けるその姿は、まさに〝死神〟の異名に相応しい残酷さだった。




 「うおおぉぉぉらああああああ!!!!!」


 そして最後の一発として左拳で思い切りタメを作り、ルブラーン王宮を真上一直線に殴り上げた。


 ベイルとアリシアはすぐにケイナンを追い、ハロドック達も呆気にとられ一瞬動けなかったが早々に移動する。


 そしてこの地下空間はベイルの攻撃により完全に崩落しようと揺れ始めた。


 「〝癒流水槽(コンフォーテーブル・アクアリウム)〟」


 ビオラは土石が落ちかけてきた時、倒れていたクラジューとキリウスを直径5メートル近くある水の球体に入れ、共に地下空間から脱出する。


 ビオラが地下空間を出た瞬間に天樹ルブラーンの幹は土石により完全に崩落した。


 ついでに水の球体の中にさらに発見した眠るラルフェウも回収し、一行の男3人が呼吸が出来る水の球体の中で意識を取り戻さないでいた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 ケイナンはルブラーンのはるか上空にまでぶっ飛ばされ、そしてキリウスがリアと闘っていた辺りの場所にものすごい速度で落下した。


 落下した際の衝撃でクレーターのような凹みが出来、ケイナンはギリギリ意識を保ってはいるが龍化は既に解かれている。


 「……な……なに……クラジューくん……」


 ただ1人外でクラジューを待っていたゾーネはその凄まじい衝撃に驚き、クラジューの身をより一層案じて祈るように両手を指を絡めて握りしめる。


 するとベイルとアリシアを筆頭に次々と一行が外に現れ、最後にクラジュー達を連れたビオラがゾーネの前に現れた。


 「クラジューくん!!」


 「気を失っているだけ、ここに入っていればいずれ目を覚ますわ」


 この水の球体の中は何故か人が呼吸出来、さらに内部は無菌状態で人が安心出来る最適な温度のため、傷やダメージは癒やせなくても安静にする事は出来る。


 ゾーネは水の球体に近付き、クラジューが生きている事に安心して力が抜け、その場に座り込んでしまう。


 ビオラもキリウスが生きていてとにかく安心したが、その場の状況が状況のために一息もつけなかったが今ここでようやく口から大きく息を吐く。


 「……よかった……」






 ベイルは着地するやいなやエネルギー切れで息が切れら浮遊していたアリシアは降りる直前にふわりと浮き、静かに着地した。


 ハロドック達が現れる時にはその足でゆっくりと、仰向けに倒れるケイナンの元に歩み寄った。


 「──ごめんね、あんなちゃちな催眠術にかかって」


 アリシアはケイナンの元で立ち止まり、ケイナンが腰に携える聖剣スターゲイザーの鞘を回収する。


 「──ごめんね、笑えるくらい無警戒な王宮から出て行って」


 するとアリシアは全く手を動かしていないように思える程の速度でケイナンの両肩と両膝の関節を砕きつつ刀で貫いた。


 「ぐほぁっ!!」


 「──ごめんね、誰にも誇れる綺麗な子に生まれてきて」


 アリシアはケイナンの腰元に跨がり、右手に持つ刀の刃をケイナンの右側の首に当てた。


 ケイナンは恐怖のどん底に落とされた表情を浮かべ、口を閉じず声にならない声を出して失禁し、泣き始めていた。


 「でも大丈夫だよ、これからはちゃんと自分のために生きるから、底なし沼を泥臭く泳ぎ切るから、マグマの道を裸足で歩くから、ちゃんとアリシア・クルエルで在り続けるから」


 「……あ……嫌だ……死にたくない……まだ……嫌だ……い……や……」


 「けどね、私が生きてくのにあなたはいらないんだ、邪魔なんだよ……親? 関係無いよ、何百年も野望を計画した? 知らないよ、それが私を利用する理由にはならないでしょ?」


 「ひ……ああ……」


 「これから私が胸を張って生きるために、いつまでも笑顔の絶えない人生を謳うために……」


 「……嫌だ……い……や」








 「────死んで」








 アリシアは誕生日を祝われたような、好きな人に告白されたような幸せに満ち溢れた笑顔と心で、ケイナンの首を一切の躊躇も無く刎ねた。


 2度目の親子での顔合わせでアリシアがケイナンに抱いていた絶望感を、立場が逆転して持ったケイナンはそのまま動けなくなった。


 「はああ~、疲れたっ!」


 そう言って聖剣スターゲイザーを不器用に鞘にしまう。


 ケイナンが死にルブラーンはジェノサイドの手には落ちずにすんだが、その後コーゴーもジェノサイドもどう動いてくるか予想出来ない。


 〝ホシノキズナ〟の覚醒というこの世における最大の切り札が切られた今、ルブラーンは全世界から最も狙われる場所と化す。


 「え……大丈夫かな……」


 「安心しろ、ケイナンは王としてはゴミだからどうにかなる、俺もある程度手伝ってやるよ」


 「ありがとうハロドックさん……あ、でも……ルブラーンの人達大丈夫かな……」


 「あ、俺が眠らせといたから」


 「ベイル……いつの間に……」


 「ルブラーン入った時」


 生命体を操れるゴーユの民とはいえ、100万近いルブラーンの住民全員を眠らせるという事は異常な力だ。


 「器~用な奴だな~……」




 「……アリシア……」


 「……リドリーちゃん」


 するとアリシアはリドリーをおもむろに抱きしめた。


 リドリーも壊れそうなほどに強く抱きしめる。


 「っ……アリシア……」


 「ありがとうリドリーちゃん……私も大好き!」


 「……あ……アリシアぁぁああああああああ!!!!」


 リドリーはアリシアの声を聞いた瞬間に涙が溢れ出し、さらに強く抱きしめ返した。


 「……あ……ごめん……ちょっ……と……」


 するとアリシアは〝覚醒〟の状態を解き、気を失うように眠り始めた。


 「……アリシア……今日の寝顔は一段とかわいい」


 リドリーは抱きしめて離さないままアリシアの髪を優しく撫でた。


 「おっしゃベイル!国づくりだぞー!」


 「面倒くせぇ……」


 「アリシアに縋ったら飯大量に入ってくるから、美味い飯大量に食えるぞー」


 「よっしゃやるかー!!!」


 ハロドックが食料で釣ればベイルは簡単に釣られるのだった。


 「チョ~ロいな……」




   ※ ※ ※ ※ ※




 ──私は今日、生まれ変わりました。


 私は初めて、アリシア・クルエルになれたと思います。皆私のため……じゃない人が多々いるけど、ボロボロになって戦って誰も死ななかったのは本当によかったと思う。


 だけどこれが、これから私達の冒険の序章に過ぎないこと……もちろん分かっています。


 私はもう迷わない、これが私の選んだ道だからもう進み続けている、立ち止まることはあっても戻ることは無い。


 ──けど……ひとつだけ……心配な事がある……。











 ──キューちゃんが……目覚めない。




第3章 ホシノキズナ これにて完結!

次回、第3.5章 始動

その時、彼らは何を思うのか──


またPast Letterはここまでが第一部で、4章から第二部という形になります!

以降もよろしくお願いいたします!

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