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・荒れ果てた農園区画を再起動させよう

 空を飛べる統星によると、マク・メルは3本の大通りを持っている。

 そのうち2本は丘上の花園を中心に十字を描くもので、残る1本は丘の中腹に円を描いた循環道だそうだ。


 俺たちはまず丘上を目指す大通りを歩き、それからわき道に抜けて、荒れた農園区画の上部を目指した。


「リンゴッ!」

「ゴルゴン」


「……オレンジ!」

「ジルコン」


「猫!」

「コンダクター」


「えっと、うーんと……タヌキ!」

「金」


 道中、少しばかし退屈だったのでしりとりをした。


「んもーっ! お兄ちゃんやる気ないでしょっ!?」

「そんなことはないぞ。いや、プラチナはしりとりが強いな、俺の完敗だ」


「嘘ばっかり!」

「レグルス様ハ、意地悪デス……(´・ω・`)」


 そうこうしていると、プラチナを背負ったニアが立ち止まった。

 目的地に着いたようだ。一帯の大地はカラカラに乾いていて、雑草すらまともに生えていなかった。


 それはきっと、ここが雨の降らない雲の上だからだろう。


「ここ、本当に畑になるんですか……?」

「ニアが言うなら間違いない。で、まずはどこの何を起動させればいいんだ?」

「ニア、ハ管理者。決メル、ノハ、レグルス様デス(*・ω・)」


「またおかしな物言いを。ニアって変なこだわりがあるよな」

「管理者トハ、ソウイウモノデス(`・ω・´)」


 マスターが命令をして、管理者がそれに従う。

 それがニアが遵守したいルールのようだ。だがこれはニアの意思で始まったことだ。


「では参考に聞くが、まずは何を稼働させるべきだと思う? 1日3回しか使えない力だ、ニアの意見が聞きたい」

「デシタラ、水門……水門ノ、復旧ヲ推奨シマス。ソレデ、水路ニ水ガ、戻リマス(*´ω`*)」


 覚醒の力は昨日プラチナに見せた。

 あの小さな猫のオモチャはスイッチを入れると、まるで生きているかのように自然に歩き回り、人に向かって鳴き、喉まで鳴らして、さらには猫らしく惰眠を貪る珍品だった。


 それは超技術の無駄づかいでしかなかったが、少なくともプラチナと統星にはすこぶる好評だった。


「よし案内してくれ。プラチナ、しりとりをしよう。ネズミ」

「お、お兄ちゃん……っ」


 俗に呼ばれるお姫様抱っことやらでプラチナを持ち上げて、ニアの背の上に乗せた。

 プラチナはミルクのような匂いがするな……。


「レグルス様ガ、スミマセン……(´・ω・`)」

「なぜ君が謝る。元王子のお姫様抱っこだぞ? シャレが利いていていいじゃないか」

「えっ、レグルスお兄ちゃんって、王子様なんですかっ!?」


「あれ、そういえば言ってなかったか」

「初耳ですよっ!?」


 ちなみに監獄ではよくこう言われた。『お前みたいな王子がいるかっ!』と。


「レグルス様……年頃ノ少女ヲ、軽々シク抱キ上ゲルノハ、ニアハ、ドウカト……(。・ε・。)」

「年頃の王子を小脇に抱えてダッシュしたくせに、よく言うよ」


「ソレハ、アウ……(u_u*)」

「あっ、ニア、水門ってもしかしてアレですか?」


「ハイ、アレデス。アレヲ起動スルト、イイデスヨ、レグルス様(*・ω・)」


 そうこうしていると目的地に着いたようだ。

 それは水門と呼ぶよりも、地下トンネルをふさぐ鈍色の金属板だった。


 枯れた水路がその水門を起点に傾斜面を走っている。

 ここに水を流したら、さぞかし爽快で気持ちのいい光景になるだろう。


「やっぱり止めようかな……」

「エ……(´;ω;`)」

「お兄ちゃんっ、ニアをいじめちゃダメだよっ!」


「だけどさ、ニアの口から俺は聞きたいな? レグルス、この水門を起動させて下さい。ってさ?」

「ソレハ……ニアノ、権限ヲ逸脱シタ、行為デス……(´・ω・`)」


「そうかな? 700年間ずっと1人でここを守ってきたんでしょ? だったらマク・メルの大地は、正しくはニアに所有権があるんじゃない?」


 そう言うとニアはしばらく固まってしまった。

 気づかうように小さなプラチナが隣に寄って、ニアの白い装甲を撫でていた。


「レグルス様ハ……。歴代ノ、マスターノ中デ、一番ノ、曲者デス……(-_-)」

「君が守ってきた大地だ。君が自由にする権利がある。だからどうか命じてくれ、ニア。この水門を起動させろ、レグルス、と」


「……命ジロ。ソノ命令ニ従イ、ニアハ、レグルス様ニ命ジマス。コノ水門ヲ、起動サセテ下サイ。マク・メル、ノ……アルベキ姿ヲ、ニアハ、取リ戻シタイデス……(u_u*)」


 どこまでバカ正直なのだろうな、ニアは。

 俺は深い水路へと飛び降りて、水門に触れて『覚醒』の力を発動させた。

 成功のようだ。鉄板越しに向こうから振動を感じた。


「お兄ちゃんっ、早く上がって、水が……っ!」

「レグルス様、オ手ヲ!(`・ω・´)」


 ニアの腕が長くて助かった。

 たくましいその腕にしがみつくと、軽々とニアは水流であふれてゆく水路から俺を引き上げてくれた。……ただ。


「なぁ……あそこ、なんか氾濫してないか?」

「ア……(´・ω・`)」

「ど、どうしようっ、このままじゃ水浸しになっちゃいますよっ!?」


 俺の力は覚醒だ。再起動したアーティファクトを寝かせる力は持っていない。

 見る見るうちに水路があふれて、乾いた大地に染み込んでゆく。


「水路のあの辺が埋まってるんだろうな。仕方ない、ちょっとぶった斬ってくる」

「えっえっ……斬るって、剣でですかっ!?」


 農道まで泥まみれになったら歩きにくいので、俺はぬかるみになりつつある道を引き返して、水路の詰まった部分まで進んだ。

 まだ水路に入っていないのに、膝下まで水があふれている。


「レグルス様、危険デス! 汚レ仕事ハ、ニアガ……!(@_@;)」

「そんなことしたら、身体の中がまた大変なことになるぞ?」


「ウッ……ソレハ、ソウナノデスガ……。危険、アッ……!?Σ(゜Д゜)」

「お兄ちゃんっ!?」


 剣を振りかぶって、俺は水路に飛び込みながら詰まりをぶった斬った。

 成功のようだ。詰まりは決壊を起こし、俺は濁流も同然の水流に飲み込まれるはめにもなった。


「大変っ、お兄ちゃんが流されちゃったよっ!?」

「レグルス様、今オ助ケシマス!(`・ω・´)」


 心配は要らないと腕を上げると、2人が隣に駆け寄ってくるのを感じた。

 俺は水路から這い上がり、泥んこまみれの酷い姿で彼女たちに笑い返す。


「ははははは、酷いなこりゃ! 統星が見たら笑うぞ!」

「お、お兄ちゃん……お兄ちゃんって、明るいね……」


「だがこれで水は確保出来た。ニア、次はどうすればいい?」

「コンナ、異質ナ、マスターハ、初メテデス……。ソンナ姿ニナッテ、ナゼ、笑エルノ、デスカ……( ・_・;)」


「いちいち暗く受け止めていたら切りがないからだよ。……よっと」


 それから俺は水路の上流に移動して、もう一度そこに飛び込んだ。

 水流で泥を洗い流し、冷たい水で顔と頭を洗って満足すると、ニアの手に掴まって水路の外に出た。


「お兄ちゃんって、男の子みたい……」

「知らなかったのか、プラチナ? 男は何歳になっても男の子だ。……で、次は何を起動するのがニアのオススメなんだ? 案内してくれ」


 なかなか気分壮快だ。パンツの中がまだジャリジャリするが……この子の前では脱げないな。

 俺は次の目的地を求めて、ニアの背中を追った。


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