・可哀想な少女を浮遊大陸に連れ去ろう 1/2
「で、問題はどうやって地上に降下するかだね。いいアイデアはある?」
布告システムを一度止めて、統星と俺は向かい合った。
「そうだね……。あっ、マク・メルから下にロープをたらすとか……? ううん、そんなに長いロープあるわけないっか……」
「発想自体は悪くはないと思うけどね。普通なら千切れるのがオチだけど、翼のある統星が使うなら話は別かもしれない」
「でもロープなんて残ってないんじゃないかな……。それに、あっても700年前のロープよ?」
「想像するだけでもスリルたっぷりだな。怖いから今回は止めておこう」
問題はこのマク・メルがとんでもない高さにあるという点だ。
いかに有翼種であっても、一度降下すれば通常の手段ではここへと戻って来れない。
「ソレナラバ――|・ω・。)」
「ひゃぁっ、ニ、ニアッ!?」
ところがマスドライバー発射装置あらため観測室に、とつじょニアの巨体が現れた。
それが身を屈ませて入り口をくぐる。
「驚カセテ、スミマセン。実ハ、ニア、モ、見テイマシタ。ニア、モ新シイ、オ客様ヲ、アノ子ヲ招キタイ……(´・ω・`)」
「まるで全て見ていたような口振りだね」
「ハイ。都市機能ヲ介シテ、実ハソノ……見テイマシタ。……テヘ(*ノω・*)」
「わぁっ、ニアって凄いね! あ、それより何かいいアイデアがあるのっ!?」
ニアは誰よりもマク・メルに詳しい。
降下計画を実行するならば、遅かれ遠かれ相談することになっていただろう。
「マク・メル、ヲ海ヘト停泊、サセテハ、ドウデスカ? 高度ヲ下ゲレバ、統星様ノ翼デ、行キ来モ可能カト(*・ω・)」
「へー。それ、海面からどのくらいまで下げられるの?」
「マク・メル、ノ崖カラ、50mホド、デショウカ(*・ω・)」
「それならいけるよっ、だったらそれで決まり! あたしがあの子を迎えに行って、ここまで抱えて戻ってくる!」
50mな……。もしかしたら地上に戻れるかもしれないと、そう期待した俺がバカだった。
有翼種ならともかく、人間に高さ50mの旅はあまりに危険過ぎる。
「じゃあ俺はここで指くわえて見ているだけか」
「レグルスはここから見守ってて。何かあったら警告してくれると嬉しい」
「けどな……本当に大丈夫か? 戻って来れないなんてオチは、本気で困るぞ……?」
「安心して、必ず戻ってくるよ。あの子と一緒にね!」
このプランは統星の飛行能力が全てを決める。
子供を抱えて海を越え、50mの高さまで統星は飛んで戻って来てくれるという。
「ニア、もう少し高度をどうにか出来ないのか?」
「オススメ出来マセン。最悪ハ、マク・メル、ゴト、海ニ沈ミマス(´・ω・`)」
「それはやべーな……わかった、無茶は止めとこう」
こういう超大陸が復活早々に海に沈むのは、物語の世界ならば様式美だろうけどな。
「大丈夫だよっ、あたしに任せて!」
「なら降下の決行は明日の夜明けにしよう。魔大陸をギリギリまで岸に近付けて成功率を上げるべきだ。それと――」
いいことを思い付いた。
俺は布告システムを再び起動させて、あのプラチナという名の少女に頼みごとをすることにした。
「待たせて悪かったね、プラチナ」
「え……あの、どうして私の名前を……」
あの変態男がそう呼んでいたから。なんて言っても嫌なことを思い出させるだけだろう。
「空から見ていたからだよ」
「空から……。やっぱり、あなたは神様……?」
「だから違うって。明日の夜明けにそこへと迎えを送るよ。翼の黒い天使様が来るから、荷造りをしておいてね」
「ぁ……は、はい……っ!」
「それと出来たらだけど、豆とか小麦の種を用意してくれると嬉しいんだけど……いけそう? あ、ニンジン、ジャガイモ、トマト以外の種も大歓迎」
「天国に、お豆……? わかりました、必ず用意しておきますっ!」
言ってみるもんだな。
気まぐれの人助けは、俺たちの食糧事情を解決するきっかけにもなり始めていた。
「よし決まりだ。俺たちの豊かな食生活は、プラチナのその手にかかってる。頼んだよ!」
「はい……私なんかがお力になれるなら、喜んで!」
最後に統星が励ましの言葉を送って、俺たちは通信を切って元の生活へと戻った。
決行は明日の夜明けだ。明日の朝、プラチナがマク・メルの大地を踏む。




