23、ピアノの試験
年に2回、ピアノの試験がある。
ピアノ科の人は、課題曲が決まっている。
ピアノが副科の人は、課題曲がだいたい決まっている。
だいたいというのは、1曲だけが決まっているのではなく、例えばショパンのワルツの中からどれか、とかそういう感じで決まっている。
とにかく、私は課題曲集の中から一番簡単な曲を先生に選んでもらって、それを弾いた。
一応、一曲全部練習はしておくけれど、長いので試験で全部弾くことはない。
「はい、そこまで」の合図は、ホテルのフロントにあるベルみたいなヤツで、チン♪と鳴る。
2年生の前期の試験で、私はバッハのインベンションを弾いた。
数分弾いたところで、先生の手が上がったので
『そろそろチンが鳴るな』
と、思ったのになかなかチンは聞こえてこない。
見ると、先生の手は、チンの上を行ったり来たりして、私の弾くピアノに指揮をしていた。
そんなに、聞くに堪えないピアノを弾いたのだろうか・・・
また、3年の前期の試験ではショパンのワルツを弾いた。
ピアノが弾ける人から見れば、なんだ、音高の試験と言っても簡単だなと思うかもしれないけれど、副科はそんなもんです。ハイ。
ところが、その「そんなもん」すらまともに弾けない私。
ワルツというのは3拍子のことではあるが・・・気が付くと、手がもつれて、4拍子になっていた。
ショパンさん、ごめんなさい。
ほぼ、ジャズのようなワルツ風4拍子をご披露して、その試験は終わったのだった。




