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だから彼女は女性専用車両には乗らない(お題:美しい雑踏)

「お客様に申し上げます。ただ今○○駅で発生しました人身事故により……」


 通勤ラッシュの時間帯。押し合いへし合いギュウギュウに詰め込まれた電車内で、車内放送が繰り返し流れる。


「□□線はしばらく当駅に停車致します。発車時刻は未定です。お急ぎの方は△△線にお乗り換えの上……」


 追加の車内放送が流れるやいなや電車内から人々が飛び出していった。

 自分の周りのギュウギュウが無くなって、あやうく俺はバランスを崩して転びそうになった。

 こういうとき、俺はいつも一歩出遅れる。

 先着何名様という企画にのれたことはないし、合コンではいつも隅の席だ。

 人の流れに乗り遅れてばかり。


 会社には遅刻するだろう。

 今朝は重要な会議があるわけでもなし、のんびり行こう。


 ドンと俺の脇にぶつかる衝撃。



「ごっごめんなさい」


 あらまあ、なんと美しいお嬢さん。あなたも出遅れ気味ですか?


 俺とお嬢さんは座席の窓越しに駆けていく人々を眺めた。

 △△線は反対側ホームで、階段を降りて上らなければならない。



「なんだかすごいですねえ」

「ええ、すごいです」


「こういう場面を見ると、よくまあ押し合いへし合いの喧嘩にならないなあと思います」

「押し合いへし合いはしてるんですけどね」


 日本人の特性なんだろうか。雑踏でありながら一つの意思をもつ集団のようだ。


「電車いつ動くと思います?」

「さあ」


 電車がとまったからお嬢さんとのんびり過ごせると思えば、電車遅延も悪くない。



「ラッキーでした」


 ふふふ、と彼女が笑う。


「だってずっと見てたから」


 それは全然気づかなかったなあ。

 雑踏にとりのこされた美しいひと。




文字数:723字

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