一泊二日二百円です(お題:団地妻の部屋)
「なんだ、この部屋は」
紳士服量販店の安い吊しのスーツを着た男は一目見るなり吐き捨てた。
彼は空き巣である。
ここは某業界最大手の会社の家族が住まう団地。そこに住み家を守る主婦達は、この時間になるとこぞって井戸端会議にいそしむ。時間にして1時間ほど。部屋に忍び込んで仕事をするには充分の時間だ。
空き巣はここぞという部屋を狙って入ったつもりだった。
夫婦二人きりであること、夫の身なりが整っていること。子どもの行動は予測がつかないし、家計に養育費がかかるから避ける。夫がそれなりにイイ服を着ているのならば、収入の高さも見込めるから狙い目だ。
団地に住む家庭間には同じ勤め先でありながら、確固たる収入格差がある。
そういう意味において「おいしい部屋」であるはずが、入って驚いた。既に同業者がお仕事済かと思ったくらいだ。
床に散乱している衣服。異臭。生ゴミ捨ててないだろう?
雑然としすぎている。これだけ散らかっているとめぼしい獲物を見つけるにも苦労しそうだ。どこにお宝がしまってあるのかサッパリ見当もつかない。
空き巣は仕事を諦めた。
しれっとした表情で外に出る。井戸端会議は続行中だ。
喋っている暇があったら、部屋の中を何とかしろよ。
叱ってやりたくなる気持ちをグッとこらえて、その横を通り過ぎた。
団地妻の部屋、「昼下がりの情事」が付いていれば、お色気シーンも期待できたであろうに。
帰りにレンタルビデオ屋に寄ろう。
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