表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

結婚しました(お題:ドイツ式の暴走)

 彼女と付き合い始めたのは大学生のとき。最初に話しかけたのは僕だった。

 うちの大学は街はずれにあったけれど、購買や食堂が充実していて、昼食には事欠かなかった。

 学生も先生もパンを買ったりラーメンをすすっているなか、彼女はいつも手作りのお弁当を食べていた。


 講義が終わった教室で彼女が一人お弁当を食べている。


「おいしそう」


 そう僕は声をかけた。


「ありがとう」


 彼女は微笑んだ。そうか、君が作ったのか。


 彼女は一人暮らしをしていた。親元を離れてこの大学に来たのだという。理由を深くきけばよかったと後悔している。



 彼女の部屋はとても綺麗だった。

 綺麗というか、なにもなかった。

 家具や電化製品はあるのだけど消耗品がなかった。


 野菜はくずの始末も完璧で(くずの始末という言葉は彼女に教えてもらった)。卵の殻は植木鉢に。水は溜めて使う。

 無駄がない。繰り返し使う。

 大学に入学してからゴミ袋は10枚入りを1回買っただけだという。信じられない。僕らはいま4年生だというのに。


 彼女の服装も質素というか正直野暮ったい。中身が良いからまだ見られるが、平凡な容姿だったらみすぼらしく見えるくらいだ。

 それも年をまたいで着続けている。

 そのセーター、付き合い始めた頃から着ているよね。虫食いや、かぎ裂きがないから、まあいいんだけどさ。ちょっとね。


 正直言って僕は少し息苦しく感じていた。

 僕は普通に消耗品を使い捨てにする生活しか知らなかったから。

 彼女の言う「もったいない」が鬱陶しくて仕方ないくらいだった。


 彼女は大学卒業を機に地元に帰ってしまった。

 僕は彼女を追いかけなかったし、彼女もこの地に留まってはくれなかった。


「わたしの根っこはあっちにあるの」


 そう彼女は言っていた。

 彼女が唯一捨てたものは僕だったのか。


 繰り返し使い続けるエコな生活をドイツ式というと知ったのは、彼女から届いた「結婚しました」ハガキが届いた日。

 そのハガキは普通の官製ハガキだった。




文字数:864字

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ