トレントの森をお世話 その1
トレントキングが現れたこと。そしてフォレストドラゴンが魔物牧場におり、今回の事件の解決に一役買ったことがグリンドさんによって村人達に周知されて、リフレット村はいつになく賑やかになっていた。
正直大騒ぎになってフォレストドラゴンを怖がる人も出るのではと思ったが、トレントキングと意思の疎通を交わして、ほとんどの被害なく対処してくれたということ。牧場でボーっとしていたり、モコモコウサギと昼寝している姿を目にされることによって、すっかり畏怖なんてものはなくなってしまったようだ。
そんなわけで巨大なフォレストドラゴンが見られるとあってか、最初は村人が牧場に押し寄せてきていたのだが、最近はようやく落ち着きをみせている。
もう、すっかりとフォレストドラゴンも魔物牧場の一員だな。あれだけ優しく温厚な魔物であれば、うちの牧場にいてもまったく問題はないだろう。
それは俺とリスカ、グリンドさんとも意見が一致している。
後はレフィーアに報告するだけなのだが、未だに返事がないのが不安だな。
だけど、魔物が大好きな彼女であれば、この稀少なフォレストドラゴンを飼わないというのはあり得ないだろうな。
ちなみに。フォレストドラゴンのお陰でうちの牧場の仕事や、ブルホーンのミルクがさらに認知されたのは良かったけど、人が押し寄せるとブルホーンが不機嫌になるのが困りものだった。
元からあいつは人間をあまり好きではないようだからな。
従業員として一緒に暮らしているリスカですら、まったく懐く素振りを見せないし。
お陰で今朝は久し振りにブルホーンからタックルを受けることになった。
俺が相手することでストレスが吐き出されるなら、いくらでも受けようではないか。
そうやって村や牧場が落ち着いた頃。
俺はトレントキングとの約束を果たすために、南にあるトレントの森に向かうことにした。
今回はベルフを連れて行くことにする。
南の森がトレントの森になったということは周知され、関係者以外に立ち入り禁止となっているので、ベルフが思いっきり暴れても大丈夫だ。
トレントの害になる魔物討伐もできるし、ベルフの運動にもなっていいことだろう。
本当は意思疎通のできるフォレストドラゴンを連れてきたかったのだが、面倒臭がられてしまった。
奴は面白いことがないと自発的には動いてくれないみたいだ。まあ、そんな性格だっていうのはわかっていたけど。
幸いこちらの言葉は通じているようだったし、身振り手振りとかで大体のことは伝わるだろう。
ベルフの背に乗って道を進むと、あっという間にトレントの森へとたどり着く。
かつて、村側にまで侵食していた木は切り倒されてなくなっていた。
あの日以降、毎日様子を見に来ているがトレントが再び生えてくることはない。俺達のやってきた東側もまったく侵食はなかった。
トレントキングは約束を守ってくれているのだ。
となると、今度はこちらが役目を果たす番だな。
粗方周囲を確認した俺は、そのまま森の中へと入っていく。
森に生えている木々には微妙に魔力が宿って、恐らくすべてがトレントになっている。
しかし、そのトレントが俺達に攻撃を仕掛けてくることはない。
すべてがトレントになっているのに、普通の森のように佇んでいるのが不思議な気分だった。
ベルフも魔物に囲まれているということは認識しているのか、走りながらもどこか警戒した顔つきだ。
これが討伐戦であれば、ひっきりなしにトレントから蔓や枝葉が襲いかかってきて大変なことになるであろうからな。
そんなことを思いながら、俺とベルフは風を切って進んでいく。
すると、以前フォレストドラゴンと共に降り立った開けた場所に着いた。
ぽっかりと空いた空間地帯には陽光が降り注ぎ、自然の中の休息地を思わせる。
そして、前方には周りよりも少しだけ大きい姿をしたトレントキングが変わらずにいた。
「やあ、トレントキング」
ベルフの背中から降りて声をかけると、トレントキングは木から蔓を生やして応えるように動かしてくれる。
よかった。フォレストドラゴンがいないからといって相手をしてくれないとかではなさそうだ。
「北側と東側には広げていなかったな。約束を守ってくれてありがとう」
お礼を告げると、気にするなとでも言うように蔓が左右に動いた。
「約束通り、俺達は世話をしにきたんだが枝葉の剪定とか、駆除してほしい魔物とか頼みたいことはあるか?」
俺がそう言うと、トレントキングは頷くように蔓を上下する。
そして、木の裏側から何かを引っ張り出すように持ってきた。
蔓に絡まったそれは茶色い毛皮を生やしたネズミのような生き物。
それはハークビーと呼ばれ、鋭い前歯で木を齧って生きる動物だ。
こいつはどこの地域でも現れて、木造の家や木、果樹園などを荒らして回る害獣だ。
気が付けば家を齧られてボロボロになったという事件が後を絶たず、人間からも嫌われている。




