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お世話されたいフォレストドラゴン その5

「ウォッフ!」


 そんなことを考えながらホッとしていると、ベルフが鳴き声を上げてこちらにやってきた。


 この鳴き声の感じは外から客がきた時のもの。


「どうしたの?」

「外から客人がきたみたいだ」

「ええっ! フォ、フォレストドラゴンのこと、どうしよう!?」

「う~ん、どうしようもなにもなぁ……現状をありのままを見せるしかないんじゃないか?」


 正直なところ俺達もどうしていいかわからない状況だし、驚かれるかもしれないが素直に話すしかないだろう。


 どこか諦めのような境地に入っていると、客人らしい一団がやってきた。


 入ってきたのは、父さん、母さん、村長のグリンドさん、エレナ、セドリックさん、ベルタさんの六人だ。


 魔物牧場がどんなところか気になると前から言っていたので、みんなで様子を見に来てくれたのであろう。


 とても嬉しいのだが、どうして今なんだと頭を抱えたくなる。


 せめて、もう少し落ち着いてから村長であるグリンドさんに相談したかった。


「おー、アデル。元気にやってるか?」

「うん、元気にやってるよ」

「リスカも元気に働いているかい?」

「無理してないだろうな?」

「げ、元気に働いてるよ。ま、魔物の世話するのは楽しいし……アデル兄ちゃんのご飯も美味しい……から……」


 セドリックさんとベルタさんが心配の声をかけると、リスカは近況を話す。


 声が上ずっているのは、フォレストドラゴンのことが気になるからだろう。


「アデルに変なことされてない?」

「あはは、だ、大丈夫だよ。アデル兄ちゃんは、そんなこと……しないから」

「本当? ならいいけど……ねえ、私モコモコウサギを触りたいんだけど。どこにいるの?」

「え、えっと、あそこ……」

「どれどれ――」


 意外とフォレストドラゴンに気が付かないものなのだなと感心していたが、リスカが指をさすことでエレナがバッチリと牧場に佇むフォレストドラゴンを認識した。


「……え?」


 エレナが面白いくらい間の抜けた声を上げた。


「……ちょっと待って、あれなに?」


 エレナがどこか焦点の合っていない瞳をこちらに向けて尋ねてくる。


 目の前にある存在が信じたくないあまり、目が現実逃避しているのだろうか。


「「……フォレストドラゴン」」

「えっ? えっ? 嘘でしょ?」


 俺とリスカが恐る恐る答えるも、エレナは中々現実と向き合ってくれない。


「ん? どうした? フォレストドラゴンだって? そんな魔物がいるわけないだろう? ハハハハ――は?」


 笑いながらエレナの肩を叩いたグリンドさんだったが、フォレストドラゴンを認識するなり表情が消えた。


「ん? どうしたんだ――え?」


 突然固まってしまったグリンドさんを心配してか、父さん、母さん、ベルタさんが怪訝そうに視線を追いかける。


 そして、同じように全員が固まった。


「何だ? 他にも我の世話をしてくれる人間がいたのか?」


 フォレストドラゴンが言葉を発すると、ようやく現実のものとして認めたのか、エレナが指をさしなが叫ぶ。


「な、な、な、な、なんで、フォレストドラゴンがここにいるのよぉぉぉぉ!?」


 その声を皮切りに、全員がパニックになった。



      ◆



 グリンドさん達は、フォレストドラゴンにかなり驚いていたが、俺とリスカが一通り説明するとようやく落ち着いてくれた。


 初めて見るフォレストドラゴンに混乱するみんなを、落ち着かせるのは大変だった。


 本音を言うと、俺もみんなと一緒に混乱する側でいたかったのだが。


 なにはともあれ状況も落ち着き、今はグリンドさんと二人でリビングにて相談をしている。


「おい、アデル。低級の魔物を育てるんじゃなかったのか? あれはどう見てもそんな存在じゃないよね?」

「本当にすいません。さっきも言った通り、突然やってきて住みたいと言ってきて……」


 俺だって育てるならもっと低級の魔物がよかった。


 でも、あんな奴がいきなり現れるなんて普通は予想できないだろう。


 俺がうなだれていると、グリンドさんが窓から見えるベルフを指さす。


「それに番犬もちょっとおかしい。あれブラックウルフじゃないよね? 進化種のベオウルフだよね?」


 さすがは村長だけあってか、魔物についての細かい知識を持っているようだ。


 他の人はブラックウルフ程度に思っているというのに、グリンドさんは一発で進化種のベオウルフだと見抜いている。


「しっかり番犬としての仕事をしてくれていますし、問題はないです」

「問題はなくても報告くらいしてくれないと」

「すいません」


 これに関しては完全に俺の落ち度だ。ブラックウルフを番犬にすると言っていたのに、進化種のベオウルフを番犬にしているのだから。


 確かに報告くらいはするべきであった。


「まあ、いいよ。今はベオウルフよりも、ドラゴンをどうするかだが……」

「様子を見つつ、レフィーアに手紙を送って指示を待とうと思います」

「下手に刺激するよりはそれがいいだろうね。あのドラゴンが暴れたら、うちの村なんてあっという間に潰れるだろうし」

「フォレストドラゴン自体は、他の魔物と同じように世話をしてもらいたいと言っていましたので暴れる心配は低そうですけど」

「そもそも、その話が信じ難い。言葉が通じるというのも驚きだけど、あのような魔物がどうしてここに住みたがっているのか……」


 グリンドさんがどこか遠い目をしながら窓の外へと視線をやる。


 外ではリスカとエレナがモコモコウサギと戯れていたり、俺の親やセドリックさん、ベルタさんが興味深そうにフォレストドラゴンを見ていた。


 最初は怯えていたみんなであるが、理性的に喋ったり現在のように昼寝をしている様子を見て、そういった気持ちは和らいだようだ。


 威厳のある竜種が、猫のように寝転んでいたらそうなりもするか。


 まったくもって、どうしてこんなところにやってきたというのか。


 それを含めてきちんとフォレストドラゴンと話をしなければいけないな。


「フォレストドラゴンについては現状で手の打ちようがないし、アデルに任せるしかないな。僕も注意しておくけど、なにかあったらすぐに報告してくれ」

「はい」

「それと、村に無用な騒ぎを広げないためにも、この話は他言無用で。できれば空を飛んだりしないようにしてくれると助かるな」


 あれだけ大きな魔物が空を飛べば不安がるだろうしな。ここに来る途中で見つからなかったのは運が良かったというべきだろう。


「それについては相談してみます」


 あのフォレストドラゴンは人間の事情についてもある程度精通しているようだし、ここで過ごすためと言ったら聞き入れてくれるかもしれない。


「それじゃあ、頼むよ」


 そんなわけで、俺はフォレストドラゴンへの対応を一任されてしまった。


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