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リフレット村 その6

      ◆


 村長の家を出た俺は、馬で村を出て西の森へと向かう。


 気持ちがいい程の快晴であり、外を移動するのに絶好の天気だ。


 にも関らず、俺の気分はどんよりとしていた。


「まさか、魔物牧場に借金があったとは……」


 新しい事業を始めることは大変だ。


 最初は借金ばかり。


 引退して酒場を開いた知り合いなどから小耳に挟んでいたので、それは知っている。


 ただ、レフィーアからそのことに対して何も聞いていないのだが。


 幸いなことに利息も大したことがないし、ぶっちゃけ俺の貯金で払えない額でもない。


 しかしそれをすれば、たちまち俺はまったく余裕のない生活へと突入してしまう。


 地元に帰ってきて早々、両親に飯をたかることになるという情けない状況は嫌なので、やはり少しずつ稼いで返していく、というやり方がベストだろう。


 稼ぐにはきちんと魔物牧場を軌道になければ。


 そして、それをするためには今は一刻も早く、魔物を捕獲していかないとな。


 経緯はどうであれ、俺がすることに変わりはない。


 微妙に煮え切らないながらも、新たな決意を抱きながら平原を馬で走らせる。


 すると、木々が連なる森が見えてきた。昔より木々が微妙に高くなっているように思える。


 長い枝と青々とした葉が茂っているせいか、森の中は少し薄暗い。


 枝葉の間から差す木漏れ日が点々と奥へと続いて、久しぶりに帰ってきた俺を誘っているかのようだった。


 馬から降りた俺は、懐かしい森の中をゆっくりと進んでいく。


 多少木々が高くなっている以外は、あまり森に変わった様子はない。


 村人がよく使うルートには草があまり生えておらず、逆にあまり通らないであろうルートはすっかり草で覆われている。


 さて、まずは何から捕まえるとしようか。


 好戦的なブラックウルフは、多分適当に歩いていれば向こうから襲いにやってくるだろう。


 ライラックはできるだけ卵を狙いたいので慎重に近付く必要がある。ライラックには最初に見た相手を親と認識する性質があるそうなので、それを利用して育てたい。


 ちょっと酷いことだとは思うが、今後の研究のしやすさや飼育のしやすさに関わるので仕方ない。


 モコモコウサギは適当な日当たりのいいところにいるだろうな。あいつらひなたぼっこが大好きで、よく昼寝とかしてるし。


 ライラックの巣を探しながら、モコモコウサギも見つけられたらいいってところだろう。


 そう方針を決めつつ、森を真っ直ぐに進んでいると開けた空間にたどり着いた。


 そこには木々が生えておらず、空から気持ちのいい日差しが差し込んでいる。


 腰をかけるのにちょうど良さそうな切り株の上には、白い毛玉に耳が生えたモコモコウサギが三匹昼寝をしていた。


 おっと、いきなり出会えるとは幸先がいいな。


 俺はできるだけ足音を立てないようにして、モコモコウサギへと近付く。


 忍び寄ることには結構自信があったのだが、さすがはウサギ。三メートルほど近付くと耳がピクリと震えて、モコモコウサギが短い足を生やして起き出した。


 三匹のうち二匹が丸い体を生かして、転がって茂みの奥に消える。


 しかし、よくわからないが一匹だけはその場にとどまってこちらを見つめていた。


 クリッとしたつぶらな瞳と、俺の瞳が交わり合う。


 狩りや討伐であれば、このまま間合いを詰めて攻撃すればいいが、今回の捕獲だ。


 育成をするのだし、攻撃をして敵意を持たれるようなことはしたくないな。


「そーれ、餌だぞー」


 悩んだ俺は、あらかじめ用意していたニンジンとキャベツの切れ端を出してみる。


 実はこんなこともあろうかと、いくつか食材を持ってきていたのだ。


 ふらふらとニンジンとキャベツを揺すると、モコモコウサギが丸い鼻を動かして興味を示す。


 俺は害意がないことをアピールするように、穏やかな表情を浮かべながらじーっとしていると、丸い体を活かすように転がってきた。


 そして、短い足を使って起き上がるとニンジンとキャベツに鼻を近付ける。


 スンスンスンと嗅ぎ分けると、ニンジンのほうに齧り付いた。


 カリカリと小気味のよい音を立てて一気に半分まで食べると、今度はキャベツを齧る。


 両方食べるとは贅沢な奴め。


 こうして近くで観察してみると、足の爪先は結構尖っていることに気付く。


 モコモコウサギはたまに地面を掘って、そこにすっぽり嵌っていることがある。


 もしかしたら、掘った穴に入ることで身を守っているのだろうか?


 牧場で育成できたら、そこら辺の生態を観察してみたいな。


 そんなことを思いながら見守っていると、モコモコウサギが再びキャベツに食いついた。


 もはやニンジンには見向きもしない。ぐいぐいキャベツだけを食べる様子から、そちらを気に入ったのだろう。


 キャベツを食べるのに夢中になっているモコモコウサギを恐る恐る撫でてみる。


 おお、とても毛が柔らかくてフワフワだ。まるで綿の塊を触っているような感触だぞ。


「ピキ!」


 触り心地の良い体毛を堪能していると、モコモコウサギが鳴き声を上げる。


 ふと、指先を見てみると、既にキャベツはなかった。


 どうやらお代わりを要求しているらしい。


 腰にあるポーチからキャベツの切れ端を追加で取り出すと、またモコモコウサギが食いついた。


 夢中になっている今なら大丈夫と思い、両手で持ち上げて切り株に座る。


 モコモコウサギは予想通り、抵抗することなく俺の両手に収まった。


 フワフワとした毛に覆われているでの軽そうに見えるが、実際はちゃんと重みもあるな。 小さな子供なら両手だけで持つのはきついかもしれないが、抱えるくらいはできそうだ。


 にしても、随分と警戒心がない奴だな。キャベツを気に入ったからなのか?


 不思議に思いながら観察していると、モコモコウサギは両手から降りて俺の太ももに着地した。


「お? 何だ?」


 そのまま太ももを押し退けるように股の間に入ってくるので、驚きながら入れるスペースを空けてやる。


 するとモコモコウサギはそこで目を瞑った。


「……おいおい、そこで眠るつもりかよ」


 どうすればいいかもわからず動揺するも、モコモコウサギは構うこともせずに「ピキー」と寝息を漏らし始めた。


 とりあえず、捕獲は成功ということでいいのだろうか?


 よくわからない魔物の行動に戸惑いながらも、俺はじーっと切り株の上で座り続けた。


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