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明けましておめでとうございます。
完璧な不意打ち。
池田は自分に何が起きたのか理解できない様子で、ごろごろと床を転がった。
俺はすぐさま後ろを振り返ると、
「走っぞ!!!」
南方に向け大声で叫んだ。
ある程度この流れを予想していたのか、それとも単にいつでも動けるよう準備していたのか知らないが、南方は戸惑うことなくこちらに向かって走り出す。
俺はそれを確認すると、寝転んでいる池田の腹を全力で蹴り上げ、その勢いのまま施設の外に向かって駆け出した。
無意味に長い廊下ゆえ、全力で駆けてもすぐには出口に辿り着かない。
その間に、今まで不動を保っていた機関銃が、ギギギと鈍い音を立て動き出した。
頬を冷や汗が伝う。
そして次の瞬間、ドゥルルルルルル、と世界が破裂するような衝撃音が鳴り響いた、
そこらの奴よりは修羅場を経験してきたつもりだが、平和な――今となってはそうとも言えないが――日本だったこともあり、銃声を耳にしたことは数えるほどしかなかった。しかもそのうちの一回はつい数十分前のことだ。
さっきのは不意打ちだったがゆえに緊張する余裕もなかったが、今度はある程度覚悟していたため、逆に恐怖を強く感じる。
流石に震えが止まらず、口から心臓が出そうになった。
脳内でアドレナリンがドバドバ出るのを感じつつ、一心不乱に足を動かす。
今なら銃で撃たれてもきっと気付かない。
全身の血液が沸騰する感覚。
気付けば機関銃の銃口から外れた施設の入り口に辿り着いていた。
今更だが施設と外界を繋ぐ扉は開いており、外の景色がちらりと視界に入る。
しかし俺はすぐに外には出ず、急いで振り返った。
「おい、南方無事――」
「無事だ」
「うお!?」
振り返れば目の前に南方がいた。
流石のこいつも機関銃に撃たれかけたことでビビったらしく、顔色が青ざめている。
というか、足速いなこいつ。
南方は数秒で呼吸を整えた後、いつもの調子で呆れ果てた目を向けてきた。
「君のことだ。どうせ殴って突破するだろうと構えていたからよかったが、間一髪にもほどがあるだろ。一歩間違えれば全身穴だらけで通路のシミになっていたぞ」
「まあいいじゃねえか。結果上手くいったんだからよ」
俺はにやりと笑みを浮かべ、南方と拳を突き合わせた。




