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一通り別れてからのことを話し、俺と南方はそれぞれ思い思いの感想を口にした。
「察しちゃいたがお前の傷も松原が原因かあ。てことは結局こっちに来てから味方になった奴らは全員安楽音の仲間だったってことかよ。馬鹿なのかこの施設の管理者どもは」
「間違いなく馬鹿だな。そもそもこんな実験をやっている以上馬鹿なのは言うまでもないんだが。だが今はそんなことより、これからどうするかだ」
「まあそれもそうだな」
俺は立ち上がり、首や腕を回して体をほぐす。
まだ頭はずきずきと痛むが動けないほどではない。それに適度な痛みというものは存外集中力を高めてくれる。たぶん動物としての本能的なあれゆえだろう。
一通りストレッチをして俺が戦闘準備を整える中、南方は座り込んだまま黙考している。
どうでもいいが、先まで頭から流れていた南方の血は既に止まっていた。昆虫採取が趣味な野生児だけあって、回復力も野生動物並らしい。文明的で繊細な都会人である俺とは大違いである。
「で、どうだ。何かいい案は思い浮かんだか?」
数分経っても動かない南方を見かね、声をかける。
人任せにせずお前も考えろ的な文句が返ってくるかと思ったが、意外にも素直な返事が返された。
「三つ、案がある」
「おお、三つもあんのか。やるじゃねえか。で、詳細は」
「一つは、このまま待機だ」
「あ、なんだそりゃ。やられっぱなしで我慢しろって言ってんのか」
「そうなるな。だが、最も無難な方法ではある。外に出ればどんな戦闘に巻き込まれるか分からない。それに僕たちに味方はいないからな。安楽音だけでなく施設の職員もついでに僕たちを殺そうとしてくる可能性があるし、外に出ずここで事態が収束するのを待つのが最も安全な策だ」
「却下」
俺はすぐさま南方の提案を拒絶する。
「ここにいても安全な保障なんてねえだろ。外でどんな結末を迎えるにしろ、この惨事を知っている俺らを生かしておくメリットは薄いし、普通に殺されて終わりの未来しか見えねえ。それに何より、自分の未来を他人に――成り行きに任せるのは俺のプライドが許さねえ」
「君のプライドはどうでもいいが、実際そうなる可能性は高いからな。なら次だ」




