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「おい、起きろ」
「ん……」
気遣いや遠慮という言葉とは無縁な力で、体が揺さぶられる。
それと同時に頭部へのずきずきとする強い痛みを自覚し、俺は顔をしかめながら体を起こした。
「くそ、何なんだよこの痛み……」
「知るか。それより早く状況を説明しろ。ムクロはどこに行った」
「この声……南方か」
頭に手を当てながら声の方に目を向ける。
予想通りそこにいたのは南方だったが、驚くことに頭から血を流し、ぱっと見大怪我野郎になっていた。
「お前、頭から血出てるぞ」
「そんなこと言われなくても分かってる。それに頭から血を流しているのは君も同じだ」
「あ、マジか」
頭に当てていた手を見てみると、確かに血が付いていた。というか、今現在も血が顔に垂れてくる感覚がある。
「……俺、いつから血流してたんだ? やばいんじゃね?」
「知るか――と言いたいところだが、まだ数分と経ってないはずだ。今すぐ止血すれば死ぬことはないだろう」
「ならいいか。んじゃ、頼むわ」
俺が手を差し出すと、南方は思いっきり渋面を浮かべた。
「は? 何で僕がそんなことしなくちゃならない。勝手にやれ」
「あ? だから止血するためにタオルかなんか寄こせって言ってんだよ」
「そんなもの僕が持ってると思うか」
「じゃあどうやって止血すんだよ」
「君が着てる服を脱いでタオル代わりにでもすればいいだろ」
「ちっ……まあそうするしかねえか」
渋々俺は上の服を脱ぎ、それで血が出てると思われる個所を強く押さえつけた。
一方南方は特に止血しようとはせず、改めて何が起きたのかを尋ねてきた。
「それで、ムクロはどこに行った」
「知らねえよ。んなもん誘拐した奴に聞いてくれ?」
痛みのせいでまともに話す気も起きず、適当に答え返す。
真面目に答えろと怒鳴られるかと思ったが、予想に反し南方は安堵の息を吐いた。
「どうやら、最悪の展開ではなかったらしいな」
「そりゃどういう意味だよ」
意味ありげな言葉が気にかかり視線を向ける。
南方は垂れてくる血を拭いながら、
「単に、裏切者が松原だけでなくムクロもかと心配していただけだ」
「ああ、そういう……」
こいつの懸念を理解した俺は、流石にまともに話さないといけないかと、姿勢を正した。




