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「そりゃまたどうして」
「私の毒を制することができるのなら、私を使って何かしたいのでしょう。自分で言うのもあれですが、私はかなり有能だと思いますから」
「有能ってか、有用ではある気もするが……」
あまりこの話題を続けているのは得策じゃない気がして、俺は早々に言葉を濁す。
それにしても、このムクロの意見は確かに正しい気がする。もし本気で殺すつもりならもっと大量の刺客を送ってきそうなものだし、殺す気がないとした場合の刺客の存在意義として、ムクロを仲間にできるかの試金石だという考えは十分あり得ると思う。
だけどそれですべての疑問が解消されるわけでもない。
「今回は偶然俺たちが出口側に来たが、そうじゃなかったらどうするつもりだったんだ? お前の毒を防げるか試す間もなく、神月や南方に倒される展開だってあっただろ」
「それならそれでいいと考えていたのかもしれません。もしくは、私たちの行動を知るすべがあるとか」
「はあ? この期に及んでまだ裏切り者が俺たちの中にいるってこと――が」
唐突に、頭に鈍い衝撃が走る。
本日二度目。俺は強制的に地面に這いつくばらされた。
今度はいったい何なんだと強い怒りが込み上げる。しかし思いを行動に移す前に、さらに頭に鈍い衝撃が走った。
脳が揺れる感覚。
意識を保つこともギリギリで、なんとなく世界がスローに見えてくる。
おいおいまさか走馬灯かと疑問が浮かぶ。しかし不思議と恐怖は感じられず、俺の眼はスローになった世界をぼんやりと捉え続けた。
口を開け呆然とした表情のムクロ。
そんなムクロを覆い隠す巨大な人影。
呆然としたままのムクロに、彼女の顔と同じくらい巨大な手が迫り、そのまま口を塞いでしまう。
口を塞がれたムクロのいかに無力な事か。大した抵抗もできず、軽々と持ち上げられてしまう。
俺の視界からムクロが消え、代わりに彼女を連れていく人物の太い足が見える。
まじで、どんだけ裏切り者が紛れ込んでやがったんだ。
「松原……」
俺は裏切者の名前を呟くと、そのまま意識を失った。




