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「ふう。意外と何とかなるもんだな」
周りに這いつくばって倒れている職員五名を見下ろしながら、俺は額の汗をぬぐう。
銃を撃ってくる相手に正面から突進なぞ正気の沙汰ではないと思ったが、やってみれば拍子抜けするほど呆気なく成功した。
実は俺は最強なんじゃないか? そんな自信が全身を駆け巡る中、倒れた職員の顔を一人ずつ確認していたムクロが、「それはちょっと違うと思うのです」と呟いた。
「違うって、現に何とかなっただろ?」
「それはそうですが、先ほどの彼ら、銃を撃っているだけという様子で殺気も戦意も感じませんでした」
「いやいや、銃ぶっ放しておいて殺意がねえとかおかしいだろ。まあやる気は感じられなかったけどよ」
「それは、自分の意思じゃなかったからじゃないでしょうか」
「自分の意思じゃねえって……そりゃあ安楽音に操られてはいたんだろうが、その理屈で言うと安楽音に俺たちを殺す気がなかったってことにならないか? そりゃあり得ねえだろ」
「ですがそうじゃないと、今私たちが生きていることに説明がつきません。あれだけ銃を撃たれておきながら私も睦雄さんもかすり傷程度ですから」
「俺たちを殺す気はなかった……だがそれなら何のためにこいつらは……」
少し心を落ち着け、改めて思考をめぐらす。するとあることを思い出し、俺は職員どもの耳に顔を近づけた。
だがそこには予想していた物は見当たらず、首を傾げることに。
そんな俺を茫洋とした目で眺めていたムクロが、「どうしましたか?」と、まるで関心のなさそうな声で聞いてきた。
「いや、お前の『毒』が耳を塞いでさえいれば防げるものなのか試すためにこいつらを仕掛けたのかと思ってな。耳栓でも入っているのかと思ったんだが、特についてなかったからよ」
「成る程。私のお願いは別に聞こえてなくても目が合い際すれば従ってもらえるのですが――」
「マジかよ……やべえな」
「今回は目もあっていましたし……ああ、安楽音さんの『毒』の力かもしれません」
「安楽音の『毒』っていうと、五感を狂わす……」
「はい。彼女の『毒』で五感を狂わされた相手には私のお願いは届かないのかもしれません」




