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「あっちは大丈夫かねえ。俺らの方が圧倒的に楽な気がすんだが」
「そうでしょうか? もし扉が開いていた場合はそのまま外に出て安楽音さんを止めないといけません。こちらはこちらで大変だと思います」
「まあそりゃそうだが、扉開いてねえんじゃねえの? あっちからしたら俺たちを閉じ込めておきたいだろうし」
先まで進んできていた真っ白い部屋を逆戻りし、俺とムクロは出入り口へと向かっていた。
現状俺たちの中で『毒草』、『毒消し』として強いのは一番がムクロであり、二番手が神月だ。一方純粋な武力・暴力で言えば俺と南方が抜きんでている――まあ松原に関してはよく分からないが。
そんなわけで神月の指示のもと、俺とムクロが入り口の確認、残り三人が奥に進み綾崎ら裏切り者と他の毒草どもの確保を行うことになった。
しかしまあ、正直退屈な方を任されたと思っている。どうせ扉は開いておらずまた来た道を戻らされることになるだろうし、仮に開いてたとしてもその後俺の出番はなさそうだ。
何せ外にいる安楽音はムクロ級の『毒草』らしく、現に俺もあいつの死体に関してはすっかり騙されていた。つまり俺が安楽音に勝てる道理はなく、実質ムクロ頼りで俺はただの付き添い程度の役割しかない。
せっかくなら拳と拳で語り合うような熱いバトルがしたいところだが――まあこんな場所じゃ到底叶わない話だ。
「と、そういやお前は安楽音の死体が偽物だってことに気づけなかったのか? よく知らねえけど『毒消し』としてのレベルも綾崎とそこまで変わらないんだろ?」
「さあ、それは良く分かりませんが。死体に関しては特に興味なかったので見ていませんでした」
「死体に興味なくて見てなかったって……そんなスルーできるようなもんじゃなかっただろ。つうかじゃあ何を見てたんだよ」
「睦雄さんですけど」
「………………」
「どうかしましたか?」
「……いや、なんでもねえ」
カタリと首を傾げるムクロを見て、額を冷たい汗が流れる。
今更だが、どうして俺はこいつにここまで興味を持たれてしまったのか。特にこれと言ったことはしていないはずだ。少なくとも好かれるようなことは何もしていないはず。
だがこいつは不思議と俺の言うことは基本何でも聞くし、何なら俺と話していただけの女を殺そうとするほど気にかけている。
仮にここから逃げられたとしても、こいつが生きてたら平穏は訪れないんじゃないか? そんな考えが浮かび、改めて俺はムクロに目を向け――
「睦雄さん。取り敢えず、こちらも楽ではなさそうです」
急にムクロが口を開いたかと思うと同時に、銃声が鳴り響いた。




