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一番先頭に立ち、後の二人を連れ従える男は俺もよく知っている人物。
いくら頑丈とは言え、二日で傷がいえることは無いらしく今も頭に包帯を巻いた姿。
俺は綾崎らより一歩前に出ると、大声で包帯男――神月に呼び掛けた。
「昨日は随分と殺戮を楽しんだみてえだな。おかげで施設中に死臭が漂ってて最悪の気分だったよ」
「それは申し訳ないことをした。深く謝罪をさせてもらうよ」
言葉とは裏腹に、まったく悪びれた様子はない。そもそも謝罪をする気もないらしく、頭を下げることなく億劫そうに欠伸している。
その態度に苛立ちを覚え、自然と拳に力が入る。だが、俺が動くよりも先に南方が口を開いた。
「そこの包帯男。こんな野蛮人に謝る暇があったら、まずは僕に土下座をして許しを請うべきなんじゃないか。まさか昨日君が僕にしたことを忘れたわけじゃないよな。君のせいで僕は左腕を自由に動かせなくなったんだよ」
依然全く反省の色を見せずに、神月は形だけの謝罪を口にする。
「ああ、それについては申し訳ないと思ってるよ。てっきり南方君は『毒草』だと思っていたからね。皆殺しの対象に含んでしまっていた。次からはこんなミスがないよう気お――」
「本気で謝る気があるなら、土下座して許しを請え。そんなふざけた謝罪をされてもこちらとしては苛立ちが募るばかりだ」
神月の謝罪を遮って、土下座を強要する南方。
そんな彼の対応をするのが面倒になったのか、神月は小さな声で「やれ」と後ろの二人に『命令』した。




