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特に当てもなく、無駄に広い白一色の空間を練り歩く。
一応やることは決めたものの、目的の人物がどこにいるのかは分からない。ムクロの案内がなくなった以上、とにかく足を動かして知っている人物に出会うほかなかった。
一定間隔で置かれている一人用の個室トイレで用を足したり、誰が持ち込んだの分からない所有者不明のサッカーボールを蹴ったりしつつ、目的の人物――綾崎を求めて歩みを進める。
なかなか人に遭遇できないことに不満を覚えつつも、見逃しのないよう集中力は切らさない。その甲斐あってか、まもなく二人の人物を視界に捉えた。
綾崎の居場所を聞くために話しかけようとするも、ここがどういった場所だったかを思い出す。不用意に喋りかけた相手が、芥川のようにヤバい相手だったら。取り敢えず様子を見てみようと、近くにあった謎の巨大ぬいぐるみ(クマ)の後ろに隠れ様子を窺う。
少し目を凝らすと、その二人が自分の知っている人物であることが見て取れた。一人はかの芥川。相も変わらず清々しい笑みを浮かべ、友好的に話しかけている。もう一人は頭に包帯を巻いた神月。頑丈だと言っていたのは嘘ではないらしく、痛みを感じていないかのような飄々とした態度で芥川に接している。
正直どちらも話しかけたくない相手。ただ、この二人がどんな会話をしているのかはとても興味があった。
俺は巨大なクマのぬいぐるみを押して少しずつ前進。二人の会話が聞こえる距離まで徐々に近寄って行った。




