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第180話、娘たちの恋の話 ―エピローグ・英雄アキレス編―


 【SIDE:レイニザード帝国】


 魔王領を発ったスピカ=コーラルスターが向かったのは、北部の地。

 真樹の森を抜けた先にあるレイニザード帝国だった。

 魔猫と人間が共存している穏やかな町である。


 さすがにまだこの地方に転居する魔族は少ないが、街並みを進むとみえてくる行商人の露店には、魔族の姿もちらほらと確認できていた。

 もっとも赤珊瑚色の少女の瞳には、多くの露店とその美味しそうな商品の煙が映っているが。


「ようスピカの嬢ちゃん、なにをそんなに物欲しそうな顔で見てやがるんだ!」

「アキレスさん……いきなり出現するのは微妙に反応射撃をしたくなってしまうので、やめてくださいって前に……言ってはいないですけど! とにかく、普通に登場してくださいよ!」


 スピカが振り向いた先には、馬面美形の英雄の姿。

 戦友の気配を察したアキレスが、その駿足を活かし瞬時に飛んできたのだろう。


「はは、悪ぃ悪ぃ。うちの陛下に入国したらお連れして欲しいって言われてたんでな! で? 何の用なんだ?」

「三獣神の方々がレイニザード帝国に滞在しているという事で、マギ様からのご命令で様子を見てきて欲しい――と」

「ま、なにしろあいつら一匹でこの世界をどうにかすることもできちまうからなぁ……」


 強者だからこそ、強者の力量が理解できる。

 魔王と並び、盤上遊戯最強とされるアキレスは珍しく、はは……と弱腰で城を眺めていた。


「え? 三獣神の皆さまって王宮にいらっしゃるんですか?」

「終焉スキル保持者には調理スキルに優れたヤツもいるからな――陛下の料理人もいるんだが……。それ目当てで昼時になるとウチから勝手にいなくなって、ザカール陛下の足元でぐるぐる回るらしいんだよ、あいつら……」

「うわぁ……あの人も大変ですねえ……」


 そこまで言って、ふとスピカは考え。


「ウチからって、まさか今、あの方々ってアキレスさんの家に住んでるんです!?」

「ああ、正確に言うなら毎日娘に会いにきてやがってな……」

「ラヴィッシュさん目当てですか」

「んで、毎朝黒いニワトリが開けろ開けろとコケコケコケうるせえし、オレが超全力で結界を張ってもワンコ野郎がバターを溶かすように一瞬で破壊しやがるし、毎日毎日、いつのまにか影から出現した大魔王ケトスのニャンコ野郎が、花束と異世界グルメをもって娘を誑かしやがるし……」


 ぐぬぬぬぬっと世界最強の英雄は唸り。


「だぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ! しかも、む、娘がまんざらでもねえ顔をしやがるんだぞ!? ガイアももういいじゃない、本人たちが好いているのなら自由にさせてあげれば? なーんて、良い母親面して、邪悪トリオの味方をしやがるんだぞ!?」

「ラヴィッシュさんはどうなんです?」

「どうって」

「まんざらでもないってことは、もうプロポーズとか、告白とか、そーいうイベントはたぶん済ませてるんですよね?」


 英雄は過保護な父の顔で、鼻梁を尖らせ。


「あ、あれはだな! 三獣神がこの世界のために楽園の神々を捕まえて? 世界の核となっていたネコの旦那と主人の代わりに? 世界を維持する無限エネルギーに変換したとかいうわけわからねえ魔術をぶっ放したことでだな? む、娘は仕方なく、この世界の恩人のために付き合ってるだけに違いねえんだ!」


 わざと説明口調のように大声で言っているのは、周囲の人間にも伝えようとしているのだろう。

 娘のアレは不本意で、仕方なく大魔王ケトスとイイ感じになっているに過ぎない。

 と。

 スピカは観察眼を働かせ、呆れた顔で言う。


「あの、アキレスさん。あんまり干渉が過ぎると……また娘さんに嫌われますよ? そのまま駆け落ちしちゃったらどうするんです?」

「な!? そ、そんなはずは……っねえ、よな?」

「だいたい、ラヴィッシュさんが家出したのもアキレスさんのせいっぽいところもありましたし。それでも家に戻るように促したのは大魔王さんだって聞きましたよ? 本来なら、そのまま運命の花嫁のラヴィッシュさんをご自分の世界に連れ戻したって良かったんでしょうし……父であるアキレスさんの許可がでるまで待ってるって、かなり譲歩されてると思いますよ?」


 珍しく長々と語るスピカに、アキレスも観察眼を発動させ。

 その心を読んだのだろう。

 きまり悪そうに、首の後ろを掻きながら。


「すまねえな、嬢ちゃん……その、なんだ。嫌なことを思い出させちまってるよな」

「うちの両親の事はもういいんです。自分は自分、家は家。自分はもう英雄の末裔ではなくて、自分自身が英雄になれましたし――狩人アークトゥルスの子孫でも、炎熱魔術師カレンの子孫でもなく。世界を救った英雄のスピカ=コーラルスターとして名を馳せたんですし」

「へえ、言うじゃねえか」


 ぽんぽんと、少女の頭を軽く叩いて英雄は笑う。

 スピカはその手の重さと温もりに苦笑し。


「そうやって、娘さんの頭も撫でて”行ってこい”って送り出してあげることはできないんですか?」

「別にオレだって、なにがなんでも反対ってわけじゃねえんだがなぁ」


 英雄アキレスは、露骨なため息で空気を揺らし。


「じゃあ聞くがよ。もし自分に娘ができたとしてだ、異世界のやばい邪神猫が、おたくの娘さんはずっと昔に魔猫だった、自分の大切な人だから自分の世界に連れ帰ります。なーんて言い出したら、どうするよ? しかも、だ。おまえさんも知ってるだろう、スピカの嬢ちゃん……神父ニャイのヤバさは――」

「う……っ、それはまあそうですが――」

「そもそもだ――」


 すぅっと父親から戦士の顔に表情を引き締め。


「オレたちがイエスタデイの旦那と戦っている最中に、あいつらは動いていた。そりゃあこっちの世界はそのおかげで世界を維持しながらも、イエスタデイの旦那と主人の男を解放することに成功した。まあ言っちまえばハッピーエンドだ。旦那の話だと願いを叶える力も四星獣には残されているらしいしな」

「それのなにがいけないんです?」

「ちょっと都合が良すぎるだろ――思えば普通はありえねえ奇跡が何度も起こっていた。そのきっかけを作りだしていたのが三獣神だったとしたら――、いったい奴らは何を企みそこまでする。この世界にそれほどまでの恩を売って、なにを対価に求めている」


 スピカ=コーラルスターはきょとんとした顔をしてみせた。


「え? もしかして分からないんですか!?」

「分からないって、なにがだよ」

「へぇ、やっぱりアキレスさんの観察眼でも、相手が主神クラスの格上だと判定できなくなるんですね。駄目ですよ、そういう時は自分の目と頭で考えないと。優れた能力を持った弊害ですね」


 アキレスが言う。


「お前さん、何かを知っているのか」

「普通に考えたら分かると思いますよ」

「普通ってもなあ、ここまでの大きな恩を売って――……」


 アキレスの顔がこわばり、固まり、ぐぎぎぎぎぎっと白目をむき。


「おいおい、もしかして――」

「ええ、本当にラヴィッシュさんをご自分の世界に連れ帰るとなった時、話が揉めたら大魔王ケトスは言いだすでしょうね。別にあの時の奇跡の事は、気にしていないから――って。なにをどこまでしていたか、全部の恩と奇跡のきっかけをだしに、大事な娘さんのお父さんを説得するつもりなんですよ。つまりは、頑固なあなたを説得するためだけに、あの方は動いていたのではないか――自分はそう推測しますよ」


 もしそうなった時。

 世界は恩人に対して、感謝を抱くとともにこうも思うだろう。

 愛し合っている魔猫同士、好きにさせてやればいいのに……と。


「過保護なお父さんへの牽制ですね」

「いやいやいや、そんなことだけに、そこまでしやがるか!?」

「そんなことって言いますけど。恋や愛って、そういうものじゃありませんか? アキレスさん、あなただって奥さんを守るためにご自分の身すら犠牲に戦ったって……記録には残っていますよ?」

「だが――」

「まあ、たしかに――父親の説得のために世界を救う手助けをしていた、だなんて、規模が違いますからね。父親としては心配でしょうが」


 スピカは言った。


「ちゃんと娘さんの話と気持ちを聞いてあげてくれませんか?」


 話を聞いてくれなくなった両親たちとの記憶を思い出しながら、赤珊瑚の髪を揺らし。

 独立したいと願った少女は言ったのだ。


「きっと、ラヴィッシュさんも待っているんだと思いますよ。ケンカしたままサヨナラだなんて、きっと、辛いですから――」


 アキレスの瞳が、スピカの少し寂しそうな笑顔を眺めていた。

 家出少女スピカ=コーラルスター。

 彼女が両親との関係を改善できるのか――、いつかそんな日が来るのだろうか。


 本当の意味で英雄となった少女、その名声を利用しようとする親族も出る筈だと英雄アキレスは知っていた。


「辛くなったらいつでも遊びに来い。歓迎してやる」

「もしかして、気を使ってくれてます?」

「たりめえだろうが――」


 心配する英雄をよそに、少女は存外に不安のなさそうな顔をして。

 正午の太陽。その日差しをたくさん浴びて――明るい口調で言った。


「大丈夫ですよ。世界を救えたぐらいなんですから、それよりも難しい事なんてないと自分は思っていますから」

「そうか」

「それに、今の自分が本気になって隠匿系のスキルを使ったら誰も見つけられないでしょうからね。面倒になったら隠れて余生を過ごします」

「それは……どーなんだ……。それじゃあずっと結婚できないで独り身になっちまうだろう」


 戦友少女の将来を憂慮し、アキレスは言う。


「おまえさん、どんな相手がタイプなんだ?」

「そーですね、具体的に考えたことはあまりないですが――」


 しばし考え――。

 まだ恋をあまり知らぬ少女は言う。


「自分より強い人ですかね」

「いや――おまえさん、イエスタデイの旦那みてぇに自分を弱体化させねえと、一生結婚できねえぞ……」


 誰よりも破壊力のある魔術を扱える英雄。

 スピカ=コーラルスター。

 少女が本当の恋を知るのは、どうやらまだ先らしい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼの。 [一言] 大魔王様が義父殿をどう説得するのか、さてさて。(ニヤリ)
[一言] スピカの恋愛候補がアキレスと魔王しか居ないんだけどww
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