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第140話、盤上遊戯の秘密、その3【謁見の間】


 【SIDE:神々と生きる者達】


 世界管理者ネコヤナギとの対話は続いている。

 なぜ魔族が誕生したのか。

 なぜかつて人類と呼ばれた人間の半数以上が滅んだのか――。


 歴史を知る者は知識として背景を把握しているだろう。人間が魔王を追い詰めたせいで、そうなったと。けれど、本当にそうだったのか。なぜその途中で助けてくれなかったのか。

 神に疑問を抱く者が北部にはいたのだろう。


 ヴェルザの街の人間にその疑問はない。

 それもそのはずだ。そこには当時を語る生き証人がいるからだ――。

 幼女教皇マギは北部の人間たちの憤りを理解はしている。けれど――。


 幼女のまま盤上世界で生き続ける彼女は、おそらく、この世界で最も神も魔族も人間も知る者。

 そのぷっくらとした唇から、幼女らしからぬ儚げな息が零れる。

 吐息に言葉が乗っていたのだ。


「よさぬか、神に言うても仕方なき事。全ては遠い記憶の彼方、あれは……ああなるべくしてなったのじゃろうて。あの頃の人間が愚かであったからだろうて――」

「マギさま……?」

「今、北部に生きるそなたらは生きることに誇りを持っておるじゃろう? 戦い傷つき、仲間を失い……家族を失い。その果てで掴んだ平穏を大事と思うておるのだろう? しかし、当時の人間は違った。人類として生きること、常に一番の種族であることを当然と思っておった。だから、滅んだ――己が驕りのせいでな」


 重い吐息が、幼女の前に浮かぶココアの湯気を揺らしている。

 その横。

 三皇の一人、魔王アルバートン=アル=カイトスが美麗な青年顔から淡々とした声を漏らす。


『そして、僕たち魔族が今――同じ過ちを犯そうとしているのでしょうね』

『陛下……』

『すまない、余の臣下らよ。余は――お前たちを正しく導いてやることができなかった。余には分からぬのだ。どうしても、分からぬのだ。平和に暮らすことの難しさは知っていても、平和を過ごすための術を知らぬ。驕る魔族もおそらくは――いつかはかつて人類と呼ばれた人間と同じく、その座を追われることになるのであろうよ』


 続いて漏れたのは魔王アルバートン=アル=カイトスとしての声だった。

 魔王は美麗だ。

 ほぼ完全な不老不死だ。だから、とても美麗なまま。あの日から少し成長したままの姿かたちを保っている。おそらく、その心も――そのまま――。

 当時を知る二皇が翳を帯びた表情を作る中、当時を知らぬ終焉皇帝ザカール八世が感慨深く閉じていた瞳を開く。


「我らが民よ、神の声を聞こうではないか。記録を司る四星獣よ、構いませんか?」


 憤る民、その臣下らを冷静に眺める長に言われ、魔王と似た容姿の神が頷く。

 異聞禁書ネコヤナギ。

 彼女は物語として、当時の映像を魔導書の中から投影してみせる。


『人間の滅び、驕ったあなたたちの先祖の過ち。それは今更語っても仕方ないかもしれないわ。けれど、知りたいのなら、そうね、実際に見て貰うのも悪くはないと思うわ。けれど、どうか忘れないで。あなたたちが今を強く生きていることは、とても誇らしい事よ――』


 告げて神の言葉が魔術となり、記録が広がる。

 そこには魔王誕生の物語が、実際の映像として流れていた。

 ドググ=ラググの暗殺。それを掬い上げた魔猫イエスタデイの物語から、次々と……盤上遊戯の中で起こった物語が流れていく。

 スカーマン=ダイナックの暗躍。

 蛾帝マスラ=モス=キートニアの登場。

 朱雀シャシャの誕生経緯――魔女王キジジ=ジキキから名付けを受けた魔王アルバートン=アル=カイトスの姿も見える。


 そこには四星獣が何度も登場している。

 彼らはダイスを振って、人々と魔物の戦争を操作している。

 既にそれは神話だった。

 その姿がまるで上位存在による遊興に見えたのだろう。四柱が揃って加護を与えた魔王の存在が目に入ったのだろう。だから、納得のいかない誰かが言う。


「やはり、やはりです。魔王の誕生にっ、あなたがたが、神々が介入しておられるではありませんか!」

『そうね、けれど――勘違いはしないで欲しいわ。あたしも、イエスタデイも、他の子も――魔王を生み出そうとしたわけじゃないわ。むしろ作ろうとしていたのは英雄、勇者。そういった類の、人間側に有利になる駒だった筈よ――』

「だが、しかし!」

『魔王誕生のきっかけは、あなたたち人間が私利私欲でドググ=ラググを暗殺したせいよ? そして、暗殺したのも人間。蘇生されたドググ=ラググを追いこんだのも人間よ? イエスタデイは哀れに思いそれを救っただけ。そもそもあなたたち人間がドググ=ラググを殺したりしなかったら、イエスタデイもナウナウもあの件には深く介入しなかったわ。魔王アルバートン=アル=カイトスとなる少年が生まれるきっかけを作ったのは、あなたたちよ?』


 北部の冷たさと過酷さ、追い詰められた状況を嫌というほどに知っていた騎士たちの言葉を受け。

 当時を知るマギが言う。


「アルバートン少年は、祝福されて生まれてきた。それは本当じゃ。その祝福が神の恩寵のろいとなって道を踏み外させた一因となったのやもしれぬが、それはあくまでもきっかけの一つにすぎん。魔王が誕生したのは全て、人間自身のせいじゃろうて――妾は少なくともそう感じておる」


 疲れた顔を見せるマギ。

 そのはらりと垂れた前髪が、揺れる。


「神は無責任じゃが、愚かではない。神は遊び戯れるが、無慈悲ではない。実際、妾は何度も救われた。なれど、おそらく人間がここまで愚かだとは、計算していなかったのじゃろう。自らが生み出した命が、あそこまで浅慮だとは思いもしなかったのであろうて」


 歴史が、続く。

 アルバートン少年の冒険が、始まった。

 強すぎ優しすぎる少年は大人たちの声と言葉に、心を壊していく。


「我等の先祖が愚かであったと」

「ああ、そうじゃ。妾が人間代表として言うのは図々しいかもしれぬが、千年を生きたからこそ知っておる。人間は愚かじゃ。あくまでも当時のと言っておくがな……こうして成長する前の我らは、本当に愚かだったのじゃよ。救いようがないほどにな――自分たちの愚かさと過ち、責任を他人のせいにし続けた結果こそが、滅びの原因だったのではないか? 妾にはそう思えて仕方がない」


 映像の中では魔境ズムニの代表にして、今もなおこの世を徘徊する暗黒騎士クローディアの姿が映っている。

 彼女は悪魔王に撃たれ、ムルジル大王に拾われ――そして舞台を去ったはずのアルバートン少年を連れ出す。そもそも少年が舞台を去ったのは、人間たちに迫害されたせい。

 当時のマギは動いていた。けれど、人間たちの悪意に押し出され、ほとんど動けなかった。


 少年が、英雄魔物と戦っている。

 改造された姫を助け、手を取り合って敵と戦っている。

 狡猾なる部下を巧みに使い、一つの国家を滅ぼしかけた英雄魔物パノケノスが討伐されている。


 ここまでなら、普通の英雄譚。

 だった筈なのだ――。

 マギの心に当時の映像が直に蘇ったのか。薄らと手を伸ばすようにぶかぶかな法衣を揺らすも、首を横に振る。


「英雄魔物パノケノスと、その部下、羊の悪魔執事。今はナウナウ様に拾われ饕餮ヒツジと名乗っておるそうじゃが……ともあれ、彼らは確かに強かった。なれど……人間は生き延びることができた。それは神の手助けがあったからじゃ、魔物が憤るほどにな。殺戮令嬢クローディアの助けを得てアルバートンを連れ出した、これはムルジル大王の肉球の施し。改心しその魂を代価に魔猫化したカイルマイルの助力を得た、それは魔猫イエスタデイ様の施し。そもそもじゃ、アルバートン少年を手助けしていた朱雀シャシャも、ナウナウ様による施しじゃ』


 それは四星獣による、人間贔屓。

 初めて協力して作った駒を愛でてしまったせいで発生した、依怙贔屓と言えるだろう。


『当時の人類は勇者ともいえる少年と神の助けによって――あの戦いに勝利した。神の恩寵によって、人間は生き延びたのじゃ。恐ろしき魔物の侵攻を食い止めたのじゃ。神は既に、我等に手を翳してくれておったのだ、それを活かせなかったのは、我等の方じゃて。全ては平和に向かっていた筈。それでハッピーエンドになればよかっただけだったのじゃ……そうしていれば、今頃はまた、違った未来を掴んでいたんじゃろうな。じゃが――そうはならなかった。当時の妾たち人間は、ハッピーエンドを作れなかった――」


 後は歴史が知っている。

 魔物と化した姫を守るために少年は奮闘する。

 その果てに――魔王となるのだから。


 マギの頬に、熱い雫が零れていた。

 ただ昔を眺めているだけで、涙がこぼれているのだろう。


「妾には分かる。イエスタデイ様の気持ちが、あの日に帰りたいと願う、その御心が。ああしていればよかった、と後悔ばかりの人生じゃった。なぜああしなかったのだと、悔やむばかりの人生じゃった。妾は……妾は――誰も助けてやることができなかった……」


 話を聞いていた男が食い下がるように、唸る。

 相手はマギではなく、神、四星獣ネコヤナギだった。


「しかし、あなたなら止められたはずだ。世界管理者ネコヤナギ様なら。歴史と記録が正しいのならば、たしかに、当時の人間は愚かなことをしたのでしょう。ですが、あなたならば――神ならば!」

『そうね。けれど、根本的な部分で勘違いをしているわ? ごめんなさいね、歩み寄るためにも少し厳しい事を言うわ? これが本音であり、神意であると理解して欲しいから。語るわね』


 神は神としての言葉と立場を伝えるべく、赤い瞳に神々しく魔力を浮かべ始める。


『どうしてあたしがそんなことをしなくてはならないの?』


 あくまでも神は神。

 協力はしても全面的に人間を肯定するわけじゃないと、少女は冷たい口調で銀髪を動かす。


『あたしたちはあくまでもこの世界を管理し、見守っているだけ。どう転ぶか、どう道を歩むかはあなたたち自身の人生よ? 既にあなたたちには命を与えていたんですもの、その責任を押し付けるのは烏滸おこがましいわ。それに、そうね……じゃあもし魔物に乞われてあたしたちが魔物の手助けをしていたら、あなたたちはそれでも納得していたのかしら?』

「魔物に……ですと」

『ええ、あたしたちにとってはあなたたちも魔物も全部同じ。世界に生きる命ですもの、全てが等価値。だから本来なら、どっちの味方もあまりしないの。実際、当時の賭けではナウナウとムルジル大王が魔物が勝つほうに賭けていたぐらいですし……。でもあたし達は魔物に味方はしなかった。当時はまだ人間の駒だったアルバートンに力の多くを授けたわ。ねえ、聞かせて頂戴? どちらかといえば、情けをかけてあなたたちの方に力を貸していたと思ったのだけれど、あたしの記憶違いかしら?』


 それは記録を司る神の皮肉であった。

 少女は神の視線で語り続ける。


『悪魔蜘蛛女に改造されても正気を取り戻した姫、あの子を迫害し、処刑をしようとしたのも人間。まずここで減点。姫を守ったアルバートンを迫害した、これも減点。そしてなにより、滅びの因となった存在、魔王を生み出したのはあなたたちの先祖の心のせいよ? 管理している側からすると、滅びたがっていたのかしら? としか思えないもの。結果的に……あなたたちは自らの宿敵を生み出した、英雄少年を追い詰め魔王を誕生させた。だいたい、人類の八割が滅んだ原因も、魔王となって静かに暮らしていたアルバートンに攻撃を仕掛け続けた人間のせいでしょう?』


 世界を管理している神は言う――勝手に滅んだのはあなたたちよ?

 と。

 当時を人間側として知るマギが、北部の人間に目をやり。


「この当時の……魔王軍が設立され、人間が追い込まれたあの日々。イエスタデイ様、そしてナウナウ様、ムルジル大王は、お眠りになられておった。前の戦争時に人間側に過度に味方をしたペナルティーを受けておったそうじゃ」

『ええ、冬眠して貰ったわ。宝箱のレアアイテムになるという形でね。あの子達は知らなかったはずよ、いつのまにか魔族に人間のほとんどが滅ぼされていただなんて、それこそ寝耳に水だったんじゃないかしら。そしてあたしは管理者として、どちらの味方もできなかった。しなかったわけじゃなくて、できなかったの。一応、筋は通っていると思うけれど――どうかしら?』


 それはネコヤナギの歩み寄りだったのだろう。

 彼女にとっては理解できていない人間に説明をする。それだけでかなりの譲歩。やはりこの中で一番それを感じているのは、彼女と接点の多い魔王アルバートン=アル=カイトスだろうか。


 沈黙の中で、マギが言葉を発する。


「あくまでも妾の見解じゃが。皆に聞いて欲しい。イエスタデイ様が我らを鍛えるために今の人類と旧人類の関係を作り出したとするのは、お門違いじゃと妾は思うておる。あの方は、とても優しい方じゃからな――」


 人間を強くするために、魔王を生み出した。

 それだけは誤解であり、人間自身の過ちの責任転嫁をするのは違う――そう、マギは主張しているのだろう。


「当時の人間は驕っておった。妾も止めることができなかった……もはや過ぎ去った話と割り切ってしまいたいが、今でも妾はあの日々を覚えておる……当時の関係者の一人として、妾が詫びよう。すまなかった、妾には覚悟も力も足りんかった。ヴェルザの民を守ることだけで、手一杯じゃった。あの結末が……おぬしら今を生きる子供たちの心を苦しめたのだろうことは分かっておる……本当に申し訳なかったと思うておる」

「マギ様……出過ぎた真似をいたしまして、その」


 熟練の騎士を目で諫め、終焉皇帝ザカール八世が黙礼でマギに礼を伝えていた。

 アルバートンもまた、当事者として複雑そうな顔を残す中。

 動いたのはヌートリアレギオンたる、聖父だった。もっとも、その中身はヌートリアモードのようだが。


『言うておくが、我は当時のおまえたちの種族間の争いには関与しておらんからな。我がこの世界の根を齧り始めた頃には、既に魔族は存在しておったぞ?』

『でしょうね、もし侵略者側が協力していたのだったら、一応、力だけは強力な魔族の誕生は邪魔していたのでしょうし』


 ネコヤナギはこほんと咳払いをして。


『とりあえず、話を進めたいのだけれど。何か他にあるかしら?』


 挙手したのは、魔族側の側近の数名だった。


『あの、そもそもなのですが――いま、四星獣イエスタデイ=ワンス=モア様は具体的に、どこでなにをなさっているのでしょうか? あの、御姿を消しているのは知っているのですが……』


 他の者達もそれは知りたいようで、ネコヤナギに視線が集まってくる。

 銀髪少女は考え――。


『そうね、それも語っていなかったわね。いいわ、よく聞いて? あの子が今、自分の願いを果たそうとしているのは知っているわよね?』

『は、はい……その、こちらにいるヌートリアと魂を共有しているこの世界そのもの、盤上世界を、元の主人に戻そうとしていると』


 ネコヤナギは微笑して。


『そうよ、よく理解できていたわね。魔族は考古学と図書館の技能レベルが低いから心配だったのだけれど、分かっているのなら問題ないわね。あのね、簡単に言うとね――盤上遊戯を作るって事自体が一種の状態異常なのよ。つまり、今のイエスタデイは儀式を行っている――かつて楽園の奴隷だった人間にかけられた”遊戯世界化”という状態異常を回復しようとしているの。事前に用意していた魔猫全員を集合させてね――それがあの子が魔猫をヒーラー職に設定した本当の理由でもあるわ』


 涙をこっそりと魔術で消していたマギが、いつもの口調で言う。


「なぁるほどのう……、その儀式の場こそが――甲羅の隙間のダンジョン。魔猫が夕刻過ぎに集まっている理由……ということじゃろうか」

『おそらくはその通りよ。まあ、あちらは結界で塞がれているから管理者のあたしでも覗くことができない状態にあるけれど……』

「しかし、なぜ夕刻過ぎに限定しておるのか――そこに何らかの意図がある、ということじゃろうか?」


 魔王アルバートン=アル=カイトスが、あらゆる可能性から答えを探し出すスキル、”魔君の慧眼”を輝かせ。

 ……。

 わずかに頬をヒクつかせる。


「どうした?」

『いえ、その……おそらく、彼らは夜行性ですし。その、太陽が出ている時間はいっぱいお日様を浴びてお昼寝したいニャー……と、夜からしか働かないからではないか? と、僕の能力では』


 ヴェルザの街の人間は、力強く頷く。

 ネコののんびり具合に、さしものネコヤナギも呆れを見せ……。


『ど……どうやら、そういうことらしいわね。もう、あの子たちったら……まあ、おかげで時間に余裕はありそうね。イエスタデイの眷属は、ネコダンスの真っ最中。ふわふわモコモコのネコ達ですもの――見た目はとっても可愛いでしょうけど、それは終焉に向かう儀式。タイムリミットまでにあの子達を止められないのなら、この世界はそこでおしまい。生き残れるのは魔猫化したもの達と、四星獣に拾われた存在と、あとはダンジョン塔を完全踏破した終焉皇帝ザカール八世と、その同行者たちといったところかしら』


 一瞬、沈黙が走る。


『あら? なにかしら?』


 寝耳に水だったのだろう。

 周囲がわずかにざわつくが、他の者が不穏な気配を生み出すより先にマギがくわっ――と、髪を逆立て叫んでいた。


「どういうことじゃ!? い、生き残れるものがおるのか!?」

『ええ、そうよ。あらららら? あらららら? おかしいわ、おかしいわ。どうしてみんな驚いているの? もしかして……あなたたちは、それも知らないのかしら? いえ、忘れてしまった……そう言った方がいいのかしら……?』


 自問するように考え込んだネコヤナギは、ふぅ……と息を吐き。

 歩む速度や思考速度をあわせるように、慈愛に満ちた顔で民たちに言う。


『そうね、もうずっと昔の事ですもの。仕方ないのよね。知らないのならば教えましょうね。この世界で一定確率で発生する特殊個体である終焉皇帝。ザカール、あなたもアキレスとガイアと一緒に塔を登り切ったのだから、見たのでしょう? 塔の頂上に何があったのか』


 視線がザカール八世に集まっていた。

 英雄アキレスを御旗に――盤上遊戯の世界で、初めてダンジョン完全攻略を達成させた存在。

 ネコヤナギに向いていた視線が、終焉皇帝ザカール八世に向かっていたのだ。


「それは、はい――」

「ザカール殿。あの塔の果てにあるものを知っておるのはおぬしらだけじゃ。いったいなにがあったというのじゃ?」


 マギの言葉に、塔の最奥を知っている幾人かは言葉を窮してしまう。互いに顔を見て……、やはりどうしたらいいのか、どう語ったらいいのかと考え込んでしまう。

 彼らの顔にあるのは隠すというよりも、困惑だった。


「先に言っておきますが――我らも正直、理解ができなかったのです。けれど、聞いて貰えますか? ダンジョン攻略を達成した我らが見たものを……お伝えしたいと思いますが」


 沈黙を同意とみたのか。

 ザカール八世が口を開く。


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