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第111話、踊りだす盤上遊戯【竹林・ダンジョン下層】


 【SIDE:ムルジル大王捜索隊】


 あれから四日が過ぎていた。

 既に、盤上遊戯……ネコ神とネズミ神の対局は進んでいた。盤上世界各地には状態異常である《ヌートリア》に汚染された駒や、ヌートリアの腹から排出された特殊駒ボスが出現しているのだ。各地では、戦いが起こっている。北部でも、魔王領でも、ヴェルザの大陸でも。

 現在の勝負はほぼ拮抗。少しだけ、盤上世界の原住民の方が優勢か。

 それは現存している四星獣の三柱が、盤上世界の民に力を貸していることが大きいだろう。


 それでもかつて楽園に棲んでいたとされる神々を模した駒。

 ヌートリアが生み出す、強大な神性。

 いわゆるボス駒がポップしている地域は、それなり以上の苦戦を強いられている。


 人類と旧人類の戦いなどとは言っていられない状況になっているのだ。

 だから皆、協力している。

 同じ敵、共通の外来種という分かりやすい敵が出現して初めて発生した、種族を超えた協力関係。

 それは千年間の歩みの中でも初めての出来事であるといえるだろう。


 それぞれの街、大陸の王は集まりこの異常事態に対処すべく懸命に動いている。今日はその話し合いの場が設けられていた。場所はヴェルザの街の冒険者ギルドに併設された、星夜の竹林。

 四星獣ナウナウの領域である。

 竹林には多くの神獣がいる。ナウナウが召し上げた魂、かつて人間だったモノたちはそれぞれに理由がありナウナウに願いを乞い、その対価として獣化したものが多い。

 それはナウナウのコレクション。かつて人間に閉じ込められて見世物にされたナウナウの意趣返し、今度は自分がおまえたちをコレクションしてやると、戯れに蒐集しゅうしゅうしていた魂であるが――。


 彼らの多くも、盤上世界の危機に対応すべく天と地を駆けていた。

 智謀の神たる饕餮トウテツヒツジの指示のもと、人間や魔族に協力し楽園からの敵駒を倒して回っている。

 その後ろで――この竹林を守るのは悪魔獣神バフォメット・パノケノス。

 既に何度か神の駒がヌートリアから送られてきたが、そのことごとくをヒツジの知恵とパノケノスの圧倒的な力で、殲滅し続けていた。

 特に強力なのが、ステーキ屋さんで五百年働く悪魔獣神という、食肉権能を利用したパノケノスの魔術《其は全て我の贄なり》だろう。それは敵と認定とした存在を対象に発動する、錬金術を利用した性質変化魔術。効果対象をイケニエ、すなわちステーキ肉へと変換させる神さえ屠れる魔術であった。


 敵襲に合わせ、邪悪な羊と邪悪な悪魔山羊のコンビは縦横無尽に暴れまわる。神を素材としたステーキ肉を確保し、美味しくいただけるのだから大張り切り。


 既に、ヌートリアも倒すべき敵を判断できているのだろう。

 駒を自在に操り、劣勢だった盤面さえ児戯のようにひっくり返してしまう饕餮ヒツジは、厳重にマークされている。

 それを利用し、饕餮ヒツジはあえて自らが隙を見せ、お尻をペンペンと空に向かい挑発。なまじヒツジ自体は獣神としてはほぼ雑魚のため、余計に怒りを買うのだろう。ぐぬぬぬぬと怒り狂うヌートリアレギオンが大事な駒を大量に送り込んでくる瞬間に、隠れていたナウナウの獣神たちが一斉に襲い掛かる。そんな地道な殲滅活動も行っているのだ。


 不死にして、慈悲深い獣神。

 朱雀シャシャがヴェルザの街の上空を舞っている中。

 ナウナウの獣神たちに守られる、会議場。

 かつて神々が棲んでいたとされる楽園の残滓への対策を練るため、人類と旧人類の王は三皇会談を始めていた。


 ヴェルザの街を治める幼女教皇マギ。

 北部のレイニザード帝国を治める終焉皇帝ザカール八世。

 そして、残り全てを治める魔王アルバートン=アル=カイトス。


 これはその裏で動いていた、冒険者たちの物語である。


 ◇


 ダンジョンの下層、駆け出し冒険者が訓練をする場所となる最初のエリアを進むのは、下層とは不釣り合いの最上位冒険者達。

 神父ニャイと戦った、魔族ロロナとアキレスとスピカ=コーラルスター。

 そして四星獣と異界の魔猫。ふわふわ白ニャンコが二柱である。

 

 その目的は最後の四星獣ムルジル=ガダンガダン大王を目覚めさせること。

 初心者でも問題なく進める迷宮の一階は、安全な道。見た目もただの洞穴に、エメラルドグリーン色のヒカリゴケが輝いているという――ごく一般的なダンジョンそのもの。

 まともな魔物も発生していない。

 洞穴迷宮ではよくある喉の奥を刺す冷たい酸素の中、彼らはぞろぞろと歩いていた。


 四星獣イエスタデイ=ワンス=モアはどうしているかというと、いつものネコちゃんスマイル。

 タヌキ顔で、にょほほほほ!

 赤珊瑚色の少女スピカ=コーラルスターの腕の中で抱っこ状態、自らは歩まず抱っこ移動である! と、偉そうな顔をして獣毛をダンジョン風に靡かせていた。


『この迷宮も久しぶりだのう~。たまに散歩をしておったのだが――ところで拷問拳闘家ロロナよ、マイアは連れてこなくてもよかったのか? おぬしはほれ、色々と性格がアレであろう?』


 魔族代表として付き添っているロロナは、むっちりとした胸の谷間を強調する服で二の腕を竦めてみせ。


「ちょっと、偏見の目でみるのはぁ、やめてくださいよ四星獣様。あたしはあたしで、ちゃんと頑張って生きてるんですから。でも、まあ仕方ないでしょうぉ? 魔王陛下が降臨なさっているんですもの」

『ふむ……まぁ、敵陣のど真ん中に王の駒があるのと同じであるからな』

「そういうこと。護衛は必要だしぃ? なにより、ちょっと聞いてくださいよぉ! あたしが会議にいると! 何を言い出すか分からないからどっか行ってろって、あのワンコがうるさいんですよぉ! ひどくないですかぁ!?」


 ロロナの悪行を知っている魔猫イエスタデイは、ジト目を作り。


『いや、間違ったことは言っておらんと思うが。というか、おぬしがこちらについてきた理由の本題は、そちらであったか。たしかに、いきなり終焉皇帝の坊主に突っかかって会議が荒れるパターンになりそうであるしのぅ……』

「さすがにあたしだって分別はついていますってば」

『とはいうが、おぬし――マギの部屋に勝手に忍び込んで、勝手に交渉しておったであろう? 我はこの世界の全ての命の父にして母、この世界の中の事ならば、本気となれば全てを把握できる。ネコヤナギのログにも侵入の様子は書き残してあったからな、確認してあるぞ?』


 指摘されたロロナは、ペロっと舌を出し。


「ところで~! あたしたちぃ、なんでこんな最下層に?」

『決まっているじゃないか。ここにムルジル=ガダンガダン大王の眠る宝箱があるからだよ』


 答えたのは神父姿に変貌した異界の大魔王。

 銀髪褐色肌の美壮年ニャイ神父。


「あらぁ? なんで人間にお化けになられて?」

『ははは、実はこれでも複数の魂をネコの器で共有していてね。全員がワタシなのだが、魔猫の姿と魂でついうっかり暴走すると、そのまま周囲の世界を巻き込んだまま、全てを虚無の彼方へと葬り去ってしまう可能性があってね。この神父姿の方が安全なのさ』

「またまたぁ、そうやってこっちの世界を脅かしたって駄目よ?」


 冗談だと思ったロロナが、ぺこぺこと手を振る横。

 スピカ=コーラルスターの腕の中の四星獣イエスタデイ=ワンス=モアが、耳を後ろに下げる、いわゆるイカ耳を作り。


『いや、ロロナよ。この者なら、うっかりで本当にやりかねんぞ』

「は!? マジ!?」

『ああ、けれど安心しておくれ。ワタシは自らの手で滅ぼした存在なら、生物無生物を問わず元の形、在りし日の姿へと戻す蘇生魔術を使えるからね。もしうっかりやっちゃっても、そんなことがなかった事にして誤魔化すさ』


 スピカ=コーラルスターが言う。


「……。あの、なんで自分はこんな、えーと……と、とっても強い人たちと一緒に行動させられてるんですか?」

『仕方あるまい。シャーシャ=ド=ルシャシャはマギの補佐として会議に出席しておるのだ。マギにもマギで護衛は必要であろう。もし、会議場をヌートリアに襲われたら事であるしな』

「そりゃあ……そうなんですけど」


 ブツブツと愚痴るスピカの背中に語り掛けるのは――北部の英雄。

 けだるそうに頭の後ろで腕を遊ばせ、足音だけで雑魚を蹴散らすのは蹴撃者。

 先頭を進むアキレスが言う。


「なははははは! そりゃそうだがな! しゃあねえだろう、幼女教皇にとってはこっちは全員部外者。オレもロロナ嬢ちゃんも、ぶっちゃけ、そっちの神父様だってまだ完全に信用できるってわけじゃねえんだろ。信用できる身内を連れて行かせるってのは、民を導く者として間違っちゃいねえさ」

「というか、アキレスさんはザカール陛下の護衛につかなくてよかったのです?」

「おう、なんだ。陛下の心配をしてくれてるのか嬢ちゃん」

「そういう……わけじゃないですけど。もし……、魔王アルバートン=アル=カイトスとマギ様が生きていて、ザカール陛下だけ守り切れずに殺されましたってなったら……、たぶん、全面戦争になりますよね?」

「あの人は死なねえよ、強いからな――」


 上司を信頼するアキレスの言葉尻を眺め――。

 イエスタデイと神父ニャイが言う。


『安堵するがよい、カレンとアークトゥルスの血脈を受け継ぐ娘よ。ザカールの奴めならカルマ値が善よりの存在であるからな、我の無償蘇生の対象であるし、ちょっと死体の前でネコダンスを披露すれば、大丈夫であるぞ? こう、ニョキニョキっと蘇るからな!』

『そうだね。死んでしまっても蘇生させればいいだけだからね。極めて合理的な判断だ』


 魔猫二匹の倫理観や価値観のズレを感じつつ、スピカが言う。


「自分は、そういうのはあまりよくないことだと思います。たとえ蘇生ができるといっても、やっぱり、死ぬときは痛いでしょうし、怖いでしょうし……蘇生ができるんだから問題ないって考え方は、好きになれません」


 それがまともに今を生きる生物の価値観。

 本音なのだろう。

 言いにくいことを言ってしまったスピカが、あっ……と動転した瞬間、その頭に重い胸を押し付けロロナがいう。


「やだぁ、もう、この子! 本当にピュアでかわいいぃ~!」

「ちょ! やめてくださいよ! イエスタデイ様を抱っこしてるんですから、危ないですってば!」

「えぇぇ。いいじゃない~。ネコちゃんて~、バランス感覚もいいからちょっと揺れたくらいじゃ問題ないわよ~?」


 戯れに苦笑しながら、アキレスが言う。


「ま、猛将女とアヌビスがいねえってのは好都合。ムルジル=ガダンガダン大王を競う相手が減るっていうのは、こっちにゃあ大助かりなんだけどな!」

「そっちも良かったのかしら? スピカちゃんもそうだけど。異界神鶏やばそうなやつの力を扱える戦術師シャーシャ=ド=ルシャシャもいないし。そもそもぉ? 蹴撃者さん一人でムルジル=ガダンガダン大王と交渉なんてできるのかしら?」


 アキレスとスピカが目線を合わせ。


「あ、あのぅ……」

「てめえにだけは言われたくねえんだが……?」


 ムカっと抗議の声を上げようとするロロナであったが。

 そのぷくりと膨らんだ唇が動くよりも前――。

 神父姿の異神が言う。


『さて、キミたち。おしゃべりはその辺でいいかな? そろそろ、ムルジル大王の宝箱のある場所につく』

『あのナマズ猫め。まったく……この騒ぎでもまだ目覚めんとはどこでなにをしておるのか……』


 スピカの腕の中で呆れた声を漏らす四星獣イエスタデイ=ワンス=モアであるが。

 神父ニャイがみせたのは、困ったような苦笑だった。


『いや、彼が目覚めることができない。正確に言うのなら、彼が眠る宝箱が出現しないのはキミのせいなんだけどね』

『我だと?』

『……。その様子だと、無自覚なようだね……』


 珍しく言葉を濁す神父に、アキレスが言う。


「どういうことだ、異界の大魔王さんよ」

『ムルジル=ガダンガダン大王はおそらく早く目覚めるためにも誰にでも簡単に開けられる宝箱を眠る場所、すなわち自らの封印場所に選んだのだろう。誰にでも倒せて、誰にでも追えて、誰にでも開けることができる宝箱にね。けれど、その選んだ場所が問題だった。彼は絶対に拾うことができない、特殊な魔物のドロップアイテムとして盤上遊戯に登録されてしまったんだろう』

「話が見えねえんだが――」


 眉間に濃いしわを刻む精悍な英雄の横顔を見て、スピカがあっと声を上げる。


「それってもしかして、経験値魔物のことですか?」

『その通り。この地にはね――五百と数十年前、とある神の怒りを買い――永遠に生きたまま、冒険者の経験値稼ぎ用魔物へとその身を堕とされたものがいるんだ。ムルジル大王はそれを知らずに、ここを選んでしまった。その魔物はすぐにリポップする性質をもつ。つまり、宝箱をドロップする前に復活してしまうわけだね。そんな特殊な存在のドロップアイテムに設定されてしまったため、一種のバグ状態になって出てこられないんだよ』


 説明するニャイ神父の顔を見て、ほへー。

 四星獣イエスタデイがくっちゃくっちゃと他人事のように口を蠢かす。


『なるほどのう。まったく、そんな迷惑な魔物を作り出すなど……ナウナウのしわざであるな』

『――……。えーと、イエスタデイくん、もしかして覚えていないのかな?』

『なにがであるか?』

『いや、ネコヤナギくんのログを確認する限りだが……その魔物、冒険者殺しダインという経験値魔物を生み出したのはキミ……ってことになっているんだけど』


 言われて四星獣イエスタデイ=ワンス=モアは考え込み。

 ぬーんと目線だけを上に向け、しばしの間の後。

 うにゅっと鼻先を動かした。


『そんなこと、あったかのう……』


 後に、同行したスピカ=コーラルスターの証言によると。

 この時の神父ニャイは、じとぉぉぉっと白猫イエスタデイの顔を見て。

 ああ、やっぱりネコの神ってこういう存在が多いのか……と、呆れたような顔をしていたという。



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― 新着の感想 ―
[一言] 大丈夫だイエスニャン ケトス様はもっとこう世界規模でやらかしてるwww
[一言] 今更すぎるけどストーリーの構造膨大すぎないか?作者が一人で管理してるんならすごすぎない?盤上世界編以外もあるのだろうか?というか魔王様の名前ええええ。。。 ps全編アニメ化待ってます
[良い点] うっわぁ~イエスタデイ様の仕業とはいえバグの理由アイツかよ!!(≧▽≦) 大王お気の毒に(*^▽^*) [一言] 居たなぁ冒険者殺しダイン( ´艸`) アイツまだ許されてないんや…
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