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第108話、神々の邂逅【ダンジョン上層】


 【SIDE:冒険者達】


 反射魔術の発動を防ぐように緊急顕現、その掌で冒険者たちの連携攻撃を相殺。

 現れたのは怜悧で見目麗しい銀髪魔族。

 魔王アルバートン=アル=カイトス。


 周囲には魔力と熱の香りが漂っている、アキレスの蹴撃を受け止める掌に、摩擦による焦げが生じていたのだろう。

 大魔王ケトスはそんな魔王アルバートン=アル=カイトスの行動を静かに見守り、ふふん♪

 猛将マイアの声が響く。


「ま、魔王陛下。どうして、こちらに――!?」

「どうしたもこうしたもないであろう……まったく。魔猫には手を出すなと厳命しておいたというのに。よもや――この御方に手を出すとは――貴公らは少々、短慮が過ぎるのではないか?」


 魔王の瞳が説教するように即席冒険者一行を眺める横。

 戦意高揚状態のアキレスの奥歯が、ギリリと鳴る。


「おい、猛将女。魔王陛下ってのは――」

「あ、ああ。こちらの御方こそが我ら魔族全ての王、アルバートン=アル=カイトス陛下である。おまえたち、なにをしている早く頭を下げよ!」

「ままま、まま、魔王ですか!?」


 スピカは眼をぐるぐるにして混乱している。

 頭を下げよと言われたビスス=アビススとロロナ、そしてマイアが突如顕現した魔王にひれ伏すが。スピカとアキレスにとっては敵対者の王、反応に困っているようである。

 ひれ伏された魔王は魔王で、恭しく魔猫の王に向かい頭を下げていた。


 魅了効果と交渉成立向上効果のある魔王の声が、大魔王ケトスに向かい放たれる。


「お初に御目にかかります魔猫の君、我が名はアルバートン=アル=カイトス。この世界で唯一の駒にして職業、魔王を名乗らせて頂いております元人間です。部下とその仲間たちが失礼いたしました。偉大なる異界の魔猫王よ」

『おぬしがこの世界の魔王、か』


 魔王が頭を下げている。その事実が魔族たちにはとても恐ろしいモノに映るのだろう。しかし魔猫ケトスは構わず、じぃぃぃぃぃぃ。


『ふむ、アルバートン=アル=カイトス……魔を統べる王を名乗る不届き者め。なにやら様々な恩寵のろいを抱えているようであるが――我に魅了は効かぬぞ? そもそも全ての状態異常を我は無効化するからのう。しかし、その名の尾につく、カイトス……鯨座を示す言葉。おぬしの名は……』


 ルビーのように赤い白猫の瞳に、かつての魔女王キジジ=ジキキの姿が映っている。

 過去視の魔術だろう。

 約五百年前――魔女王キジジ=ジキキが名付けする際にあやかった神の名こそが、異界の巨鯨猫神ケイトス。つまりケトスから授かった名を持つ者。

 それこそがアルバートン=アル=カイトス。

 それは異界魔術……盤上世界の外に世界があると知っていた女王の布石だったのか。異界の大物である大魔王ケトスがこの世界にやってくる可能性を考えての叡智か――はたまた強大な神性の聖名にあやかった、ただの偶然か。どちらにしても、奇跡がここで一つ起こっていた。


『そうか、我と同じ――名か。ふん。そなたの名付け親に感謝するのだな。が偉大なる主、”我の魔王陛下”が名付けて下さった”我の御名(ケイトス)”を由来としたその名、その心に免じて、その最大級の不敬を許してやろう――特別にニャ!』

「広きお心に感謝を――」

『まあ、そもそも我は魔族と人間の駒を操作する身。汝らを破壊しても、なーんも我に得はないからのう~』


 この世界の魔王アルバートン=アル=カイトスと、外の世界に存在する、別の魔王の関係者と思われる大魔王ケトス。二柱のやりとりがされているが、アキレス達は動けないでいた。

 どう考えても、このドヤ顔の白猫は別格。

 比べることが愚かだと思えるほどの差。今の盤上世界のレベルで届くはずのない存在であることは明白だった。流れのままに戦闘が終了したのなら、それに勝る幸福はない。


『さて、アルバートンよ。魔王を名乗るのであれば、宴の席ぐらいは用意できよう? 我のポンポンを満たす馳走を用意せい。それで此度の無礼は水に流そうではないか。皆、帰還の支度をせよ!』

「おいおい待ってくれ、神父猫さんよぉ。オレはこのままムルジル=ガダンガダン大王を探したいんだが――」


 大物を前にしても怯まぬアキレスの言葉に、大魔王ケトスは少々感心した様子で。

 ニヒヒヒっと意地の悪そうなネコスマイル。


『おう、そういえば言い忘れておったが。”上層”にムルジル=ガダンガダン大王の宝箱はないぞ?』

「は!?」

『既にダンジョン構造も宝箱の位置も中身も全てチェックしておるが、反応はなかったからな。この塔にあるのは確かだが。おそらく、そのままだと誰も発見できぬのではないかのう』

「じゃ、じゃあなんでオレたちは上層を攻略してんだよ!」

『まあ、そう怒るな。敵性外来種たるヌートリアどもの動向も気になっておったし、おぬしら、というかこの世界の第一線冒険者たちの実力が知りたかったのだ。後でちゃ~んと、ムルジル=ガダンガダン大王が眠る宝箱の場所を教えてやる。だからまずは、宴である! 良いな?』


 大魔王ケトスは偉そうに場を仕切り、杖を掲げてペカー!

 全ての耐性、全ての拒否権を無視し。

 強制帰還魔術を発動。


 全員の身体が、拒否権なく闇の渦の中に飲み込まれていった。


 ◇


「なるほど、それで突然にわらわの王宮に顕現してきた――と」

「しゃあねえだろう。幼女の統治者さんよぉ――そっちはそっちで、なんでそんなことになってるんだ? たぶん、そっちの銀髪美少女はネコヤナギさんだろう? で、そこで笹をむっしゃむっしゃしてるのがナウナウ様だよな? で、そこで焼き鳥串を銜えて口を汚している魔猫様が――」

『うむ、我であるぞ!』


 焼き鳥を食し、にっこり微笑んでいたのが四星獣イエスタデイ=ワンス=モア。

 そう、幼女教皇マギの王宮に、四星獣のうち三柱が揃い踏み。

 まるで転移し、帰還してくるアキレスたちを待っていた様子だったのだ。


 もっとも正確には、待っていた相手はアキレスたちではなく――。

 ……。

 間違いなく、この盤上世界最強候補の三柱同時顕現を眺め、玉座に座ったままの太々しい白猫が言う。


『やあ、初めまして――四星獣諸君。ワタシがケトス、大魔王ケトス。再生したあの日の楽園の樹の下で、ヌートリアレギオンと盤上遊戯にて対局する神。キミ達の本体が睨んでいるあの麗しい白ネコの、端末の一つ。まあ、キミたちの世界の言葉で言うのなら分霊駒といったところかな』


 四星獣イエスタデイ=ワンス=モアが、大魔王ケトスを眺め。

 すぅっと瞳を細め、猫髯を上下させる。


『おぬしの魔力には覚えがある。遥か昔、まだこの地が楽園と呼ばれし神々の園の魔道具に過ぎなかった頃。我は二柱の兄弟神と出会った。楽園の神々は正直好かぬ。なれど、その弟神は我に力を貸してくれた――大魔王ケトスとやら、盤上遊戯の操作者プレイヤーよ。おぬしにはあの光り輝く弟神と似た魔力を感じるのだ』

『そうか――キミはワタシよりも前にあの方に救われていたのだね』


 大魔王ケトスは考え。


『ワタシはね、あの方の部下でありキミと同じく、あの御方……”我らの魔王陛下”に助けられた者。同じ猫同士、まあ少しは仲良くしようじゃないか』

『個人的には我と同格、いやそれ以上となるネコ神との交友もやぶさかではないと思ってもおる。だが、我はこの盤上世界、愛する我が主を遊戯盤へと改造した、おぬしら外来種どもを信用しておらぬ。そもそもだ、大魔王とやら、おぬしはいったい何を目的とし、この盤上遊戯のプレイヤーとなった。よもや無欲というわけではあるまい?』

『そりゃあ楽園の残党狩りだけが目的ってわけじゃあない。ワタシにはワタシの目的、願いはあるさ』

『語っては、くれまいか?』


 それがこの盤上世界のマイナスとなることならば。

 ――四星獣の三柱は、わずかに空気を変貌させていた。

 特に四星獣ナウナウは配下の獣神を竹林と共に召喚、多くの軍勢を従え――本人は嗤っていない熊猫の瞳で、功夫クンフーの構え。

 最も接近戦を得意とする、四星獣ナンバーワンの格闘術を見せるべく臨戦態勢。異聞禁書ネコヤナギも自らの体を神樹へと戻し、万単位の魔猫を召喚し、闇の中でじっと瞳を赤く染め上げている。

 両者は無言。

 陽気な仮面など投げ捨て、四星獣としての神々しさを発しているのだ。

 本気であると、空気で伝わってくる。


 四星獣イエスタデイ=ワンス=モアが言った。


『大魔王ケトスよ、汝は悍ましき程に強い、なれど――この盤上世界は我ら四星獣の楽園。この中でなら、我ら三柱でおぬしを調伏することも可能であろう』

『だろうね。この盤上世界そのものが元はキミのご主人様。この遊戯盤の中はもはや現実だが、原理としてはキミのご主人様が永遠に見続けている夢世界、ドリームランドに近い。その性質は夢そのもの、夢はなんでも可能としてくれる世界だからね――ここは夢に浮かぶ魔猫の国、ウルタールの亜種といったところかな』


 技能レベル:図書館と考古学が共に高い、魔王とアキレスと幼女教皇は話を薄らと理解していたが。

 他の者達は、まったく理解できていない様子である。

 そもそも理解させるつもりなど、大魔王にはないのだろう、そのままネコの口がウニャウニャっと蠢き始めていた。


『戦いとなれば、この世界そのものがキミの味方をするだろう。なにしろ、この盤上世界はずっと寄り添って鳴いているキミを……とても愛しているのだから。全力で、ワタシを負かせにくるだろうね。でも、そうしたらキミたちも困ることになると思うよ? なにしろ、もう遊戯は始まっている。ワタシという存在を封印したら、自動的にヌートリアの勝ちだ。それはキミたちにとっても不利になるだろうが――いいのかい?』

『おぬしがヌートリアよりも邪悪である可能性は否定できまい? 大魔王よ、我らは外界をあまり知らぬ。判断などできぬ、故に――どうか語ってほしい、汝の目的を』


 神々のにらみ合いである。

 魔王アルバートン=アル=カイトスでさえ、声を発することのできない上位存在の本気の駆け引きが、目の前で行われている。

 この中で一番、普通の存在でもあるスピカ=コーラルスターは思っていた。

 なんで、巻き込まれちゃってるんだろう……と。


 アキレスが言う。


「ああ! やめやめ! とりあえず飯にしようぜ、飯に。腹を割って話すなら、食事中が一番。違うか?」


 魔猫は基本食いしん坊。

 グルメ、それは平和の証。

 緊張した場を崩したアキレスの声に、神々は全力で同意していた。



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