第63話 熱烈な二つの視線と宣伝チラシ作成の過程
「そういえば貴方、お昼ご飯を作るとか言っていたわよね? 実は私とアヤメもまだなのよ。ついでだから作ってちょうだい。もちろん代金は支払うわよ。さぁ早く店の中に入るわよ!」
「わわっ。ちょ、ちょっとマリーっ!?」
マリーはお腹が空いたのか、話が終わるなり俺の右手を引っ張ると強引に店の中へと連れ込んだ。
カランカラン♪ 心地よいドアベルの音が響き、来客の訪れを中に居る従業員へと伝え聞かせる。
「いらっしゃいませ~、あっなんだキミ達か。てっきり客が来たのかと思ったぞ。まったく、紛らわしいなぁ~」
応対するため、玄関へ駆け寄ってきたアマネが俺達の顔を見るなり、呆れながら溜め息をついていた。
「ふふん。私はれっきとした客よ。アマネ、席へと案内……って、あれは何をしているの?」
「へっ? ああ、シズネさん達が何かしているようだな」
見ればテーブルの一つにシズネさん、アヤメさん、もきゅ子、そしてついでに浮遊しているサタナキアが何やら集まり、相談事をしている光景が目に飛び込んできた。
「なぁアマネ、みんな何やってんだよ?」
「うん? ああ、あれか……ふふっ。実はな、皆でウチのレストランを宣伝する『宣伝チラシ』を作っていたのだ! 何でもアヤメさんは絵が描けるらしくてな、その手伝いをしてもらっているのだ!」
聞けばアヤメさんが絵を描ける話題から始まり、「どうせならこの店のチラシを作ってもらえないか……」っとシズネさんが聞いてみると、アヤメさんは快く引き受けてくれたらしい。で、今はどんなものにするか、絵は文字はどうするのか? などの相談をみんなでしていたらしい。そこでドアベルが鳴ったので、客の来店だと思ったアマネが接客をしに来てくれたということらしい。
「えっチラシを? アヤメさんが、か?」
「へぇ~。あの子、絵なんて描けたのね。これは意外だわね……私もそんなことは初めて聞いたわ」
マリーも興味津々と言った具合に、昼食を後回しにしてその様子を見ることとなった。
「それでどういったものが宜しいですかね? 私が絵を描くにしても、このお店にある目印と言いますか、参考になる物がないとチラシを見ても、お客は分からないかもしれません。何かありませんかね?」
「そうですね、この店ならではの物をチラシ絵にしてもらえれば一番良いのですが……。それならチラシを見たお客もすぐにこの店だと一目で判る、そのようなのが好ましいかもしれませんね! 皆様、他にアイディアはありませんかね? ちなみにもきゅ子とサナはどうですか?」
アヤメさんはペンを片手に未だ何も描かれていない真っ白な紙を前にして、「一体何を描くのか?」とみんなに聞いていた。そして受け答えるように隣にいるシズネさんが相槌を打ちながら、チラシに描く絵とお店のトレンドマークを考えていたのだ。
「もきゅ!」
「おおっ! そうじゃのぉ~、ならばこのもきゅ子を使うのはどうなのじゃ? コヤツならば見た目的にも可愛かろうし、それにチラシを見たお客が一目でこの店じゃと判るのではないかえ? どうじゃ、良きアイディアであろうに。かっかっかっ」
「もきゅもきゅ、もっきゅきゅ~っ♪」
サタナキアさんは「妾にかかれば、この程度造作も無いことよ♪」っと狂ったように宙で回転し、もきゅ子ももきゅ子で自分を描いてもらえるのかと思い、椅子の上でまるでダンスでもするかのように喜んでいた。
「おっ! なんだ、もきゅ子を描くことに決まったのか?」
「ユウキさん♪ あっそのぉ~……すみません」
俺はアヤメさんの後ろ椅子を掴むと、後ろから覗き込むように横から顔出した。彼女の長い髪から優しくも甘い香りが俺の鼻をくすぐる。アヤメさんは俺が来たことに驚くと一瞬だけ喜んだのが、すぐに落ち込んだ顔をして俺に謝ってきた。
「へっ? え、え~っと、何がですか???」
俺はアヤメさんから何を謝られたのか、分からなかった。だがそれが顔に出ていたのか、彼女はこんな言葉を続けた。
「あ、あのっ! に、荷降ろしの方です。その、何のお手伝いもしませんで……。もう終わってしまいましたよね?」
「あ~っ……あっはははっ。いえいえ、俺の仕事ですからアヤメさんは気にしないでくださいよ。それにチラシまで作ってもらってるみたいなんで。むしろ俺にはこっちの方は手伝えないので、ありがたいくらいですから」
そうしてアヤメさんは荷降ろしを手伝うと言っておいて、最初の一箱しか運ばなかったことを謝罪してきてくれたのだ。何とも彼女らしい、律儀さである。そんなところも可愛らしいと思えてしまう。
「あら、旦那様と……げっ! ま、マリーさん、まだこちらに居らしたのですか?」
「何よ、人の顔見るなり『げっ!』はないでしょ『げっ!』ってのは!!」
その横ではシズネさんとマリーが、またもやトラブルを発生させようとしている。もしかするとこの二人の前世は『水』と『油』なのかもしれない。
「ま、まぁまぁ、お二人とも喧嘩をなさらないでください」
「いや、シズネさんもマリーも、あんまりアヤメさんのこと困らせるなよな」
「い、いえ私のことなら、別に……その、ユウキさん……あ、ありがとうございます(照)」
「あっ、いや……俺の方こそ、出しゃばった真似しちゃって……(照)」
俺達はさっきの食材倉庫での出来事があったせいなのか、互いにそれを思い出してしまい、少しギクシャクしながらも顔を見合わせては照れてしまい、お互いに反対の方へと顔を背けてしまう。
「ふ~ん」
「むむむっ」
「もきゅ?」
「なんじゃ、二人とも。互いにソッポを向いてからに、お主ら喧嘩でもしたのかえ?」
シズネさんとマリーは俺達を怪しむように唸り声を上げ、もきゅ子とサタナキアさんは「コイツら、一体何をしてるんだ?」っと俺達の顔を見ながら不思議そうな顔をしていた。
「じゃ、じゃあもきゅ子ちゃんを描きましょうかね!」
「え、ええ、それがいいですね! あとウチの目玉であるナポリタンの絵も出来れば入れてもらえると良いかも……」
「「じ~っ」」
俺とアヤメさんは隣に陣取ってる二人の熱烈な視線からまるで逃れるように、チラシ内容物の絵について言葉焦りながらも決めていった。
「ふ、ふんふんふ~ん♪」
「あっはははは……」
アヤメさんは誤魔化すように鼻歌を口ずさみながらも、絵を描き、俺も笑いながら誤魔化す。
「もきゅきゅっと、うん! みなさ~ん、チラシが出来ましたよぉ~♪」
「おおおおおっ~っ、すっげぇ~上手だなぁ~……あれっ??」
「あら、本当に絵をお描きになるのが早いですね……んっ?」
「ふふん! さすがはアヤメね。……あら?」
「もきゅもきゅ♪」
「アヤメは本当に絵が上手なのじゃのぉ~♪」
アヤメさんがいとも容易く絵を描き終わると、みんなが覗き込むようにそこに描かれた絵へと注目した。だがしかし、もきゅ子とサタナキアさんを除く、俺達は完成した絵を見て、「あれ? ここに描かれているのはなんだ?」っと思ってしまったようだ。
「あの、アヤメ。貴女に少し聞きたいのだけれど……いいかしらね?」
「えっ? お嬢様、何か不手際がありましたかね?」
主であるマリーがそんな俺達を代表して、アヤメさんがチラシに描かいた絵の内容について疑問を投げかけるのだった……。
そこには一体何が描かれていたのか? それを今から次話までに考えつつ、お話は第64話へつづく




