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乱入

「答えは決まったか? ソロよ」

「お前の思い通りにはならないさ」

「そうか……」

 三又の鉾から眩いばかりの光が放たれ、オルドに照射される。

 オルドは絶対障壁の呪文を唱えるが、魔法とは原理の異なるポセイドンの威光には効果がなかった。

 そして光を浴びたオルドの全身は鈍色に変わった。

「こっこの光は」

「君は天使ではなくなり、ただの人間となる…」

 見るとオルドの背からは羽根が消え、法衣を着た修行僧のような容姿になっていた。

「な、何これ!? 私の美しい天使のアバターを返してくれ!」

「さぁこれで天使の特殊能力は使えないぞ」

 ジュリアンはそのまま三叉の鉾をオルドの胸に突き刺した。

「ぐはっ」

 心臓の辺りを鉾で貫かれたオルドは、ゴボゴボと口から血を吐いた。

「ジュリ……アン、貴様…本当に」


「オルド様!」

 セーラ達が泣き叫ぶ声が遠くに聞こえる。

「せ…せっかくアバターでイケメンになって、天使長とかいってNPCの可愛い天使たちを集めてイチャイチャして、地上の様子を映画みたいに楽しんで、ちょこちょこ悪戯したりして……私の理想郷だったのに」

「オルドさん! 死ぬな!」

 カイらしき男の声が駆け寄ってくる。

「その前にあのアプリの操作方法を教えてくれ!」

「……」

(人の死に際にそんな事しか言えないのか…カイよ)

「右クリ…ック……左を…押しながら、右クリッ…ク……」

 それが天使長オルドの最期の言葉となった。

「左を押しながら? マウスの左クリックと右クリックを同時に? 押すとどうなる?」

 オルドは既に事切れており、その死に顔は苦悶に満ちていた。

「おい…オルドさん! それだけじゃよく分からないよ」

 カイの頭にはオルドを蘇生させるという発想はなく、アプリでマリアをあれこれする事しか無かった。


「箱庭は君たちのような創造物が、気軽に扱っていい代物ではない」

 ジュリアンがつかつかと近づいてくる。

「アレフ、オ、オレ達は仲間じゃないか。マジで忘れちまったのか?」

「残念だが、アレフというキャラクターはもうこの世界に存在しない」

「キャラクターだと…?」

「さあ、どきたまえ。私はソロの魂を完全に封印しなければならない」

 そう言うとジュリアンは倒れているオルドに再びポセイドンの鉾を翳した。

 激しい光の明滅とともにオルドの死体は悔しげな表情でその場から消滅していく。

 オルドの亡骸が完全に消えると、ジュリアンは顔を上げてセーラ達のほうへ向き直った。

 セーラとマリアも戦いの決意を固める。


 その刹那、ここ最上階の大部屋に繋がる階段口の向こうから話し声が聞こえてきた。

「やっと着いたあ」

「長い階段だったな。兄ちゃんはもう疲れた」

 男女のパーティ、女の子のほうは魔法使い、男のほうは剣士といったところか。

 二人ともまだ幼さを残した子供であった。

「おっと。先客」

「四枚の羽根……あれがオルドかな?」

 二人は足を止めた。

「でも、和やかに語らっている感じじゃないね」

「もしかして闘いの最中か」

(血の匂い、こりゃ誰か死んだな)

 背中に大剣を携えた筋肉質の男は、この場を警戒し、白金色に輝く剣の柄に手をやった。



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