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黒き虹

 二刀流の侍オルドは、魔神の長ルキフゲの地の技『土竜爪』を避けながら走り抜け、本体の胸部をX印に切り裂いた。


「キュワァァァァア!!」


 ぎょろついた目にロバの足と尾が生えた異形の魔神は、裂かれた傷口から緑色の血を吹き、奇声を上げながら仰向けに倒れた。 


 邪神サトゥルヌスに扮したジュリアンは、白髪白眼の少年魔神アガリアレプトを『アダマスの鎌』で腰から真っ二つに両断した。羽織っていた悪魔を模したコートが裂かれ、アガリアレプトは声もなく膝から落ちた。


「なんと歯ごたえのない…」


 フード付きの赤いローブを纏うリッチのネビロスは、上位悪魔を一体召喚した。呼び出されたアークデーモンは巨大な体躯にコウモリのような大きな翼を持ち、禍々しい赤と紫の体色、手足には鋭い鉤爪が生えている。


 カイがタナトスのプレッシャーを振り切り、詠唱なしの氷結魔法をアークデーモンに放つ。


« 氷烈破撃(タンカード) »


 アークデーモンの身体に氷の飛礫を使ったマジック・ミサイルが放たれ、氷塊は命中すると爆発し、鋭利な破片となって飛散した。しかし、アークデーモンの硬い皮膚にはダメージが薄く、襲い来る鉤爪にカイは腕を切り裂かれ負傷した。更なる追撃に反射的に身を守るカイだったが、肘辺りにあるアザから高熱ガスが大量に吹き出しアークデーモンを丸焦げにした。


「サンキュ~不気味な痣よ…ハァハァ」

「逃げろ、死ぬぞ」

 アザが超低音ボイスで喋る。

「馬鹿言うな、ここからがオレの見せ場!」


« 神の癒し手+(ヒーリングプラス) »


 マリアの援護でカイの負傷した腕の傷が回復する。


「二人でなら!」

 マリアが進み出てカイと共に、少し離れた場所にいるネビロス本体を追う。


(二人とも意思が強い)


 その精神力に感心しながら、パトラは呪文の詠唱を終える。


(吐け爆炎 我が導きに従い アバドンの地より来たれ)



« 螺導熱灼地獄(ゼルト・カテドラル) »



 タナトスに向かって超高温熱線が螺旋状に放出される。タナトスはむぐぐぐと力を込めてシールドを展開し耐える。


 アグラトが激しい真空波でパトラを攻撃、しかし、こちらもシールドによって全て弾かれる。


 パトラは次の呪文の詠唱を始めるが、タナトスが先に死の術を発動させる。



『イグエラトス、死滅せよ』



 黒き虹の光がパトラに放射される。光はシールドをすり抜け本体へ、髑髏の死神の姿がリアルに見え、パトラの顔の皮膚が現実に青黒く変色していく。パトラは身体から吹き出す魔気で光の半分を掻き消し、死への誘いを耐え切るが、何処からかカウントダウンが聞こえてくる、死の追加効果であった。


(このカウントダウンがゼロになる前にタナトスを倒さないとわたしは死ぬ、あるいはタナトスに服従するか、逃走、撤退させればカウントは止まるはず)


 パトラは無理を押して目から血を流し大呪文の詠唱を終える。



(ダオール・ダオールオ 我は命ずる 闇の公子よ その力を解き放て)



« 爆沸破裂漿(ヴォイヴォット) »



 タナトスの周りに魔力を集約、変動する強大な力場を作り出し分子レベルの振動が起きる…!

 タナトスの体液の温度が急上昇し片翼から破裂し始める。


「ぐっ何!?」


 アグラトがタナトスの前に出て身代わりとなり、ほぼ全身の体液が沸騰し爆裂する。


「ッ!!」

 アグラトは声にならない悲鳴をあげる。



「アグラト!」

 タナトスはアグラトのおかげで片翼の負傷だけで済んだ事を悟り、瀕死の彼女を抱きかかえてテレポートし逃亡した。



「逃げたか……はぁ~しんど……」

 パトラは震える両膝を手で押さえ、床に向かってゆっくり息を吐いた。



 一人残されてカイ達と交戦中のネビロスは、再びサモニングの準備をするが、カイはその暇を与えず、以前に敵から入手した「対象の動きを一瞬止められる」緋色の魔槍『ロムルス』で、ネビロスの身体を貫いた。


「ぐはっ」

 ネビロスは吐血し絶命した。




「これでこの層も攻略だな」

 体力が有り余っているジュリアンが余裕の勝利宣言をした。

 パトラにとっては後味の悪い戦闘となった。プライドの高そうなタナトスだが、お付きの女魔の身を優先して退散した、何よりタナトス本人を倒していない。次に戦う時は油断もなく一気に全力で来るであろう、あの死神が……





 身体のあちこちの皮膚が破裂して瀕死の重症を追ったアグラトは、自身の再生能力では回復が追いつかず、血まみれのままタナトスの腕の中に抱かれて移動していた。そのタナトスも片翼を失い、飛行のバランスが悪い。


「タナ…トス様…」

「持ち堪えろアグラト、すぐに再生の悪魔マルバスの元へ着く」

「初めて…ですね、抱きかかえ…られ…ちゃった」

「あまり喋るな、死なせはせぬ」


 アグラトを抱いたタナトスが万魔殿最下層のマルバスを召喚する魔法陣に辿り着く。


「タナトス様」


 召喚されたマルバスは獅子の顔に人の身体を持ち、一瞬で全てを理解した。そしてアグラトに両手をかざすとその身体が光に包まれ、彼女の苦悶の表情がみるみるうちに柔らかいものになっていった。


お読みいただきありがとうございました。

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