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冥界突入

 辺境の村タルヴァザで休息を取ったセーラ達は、朝早くに村を出発した。広大なカクラム砂漠の中央には灼熱の炎が噴き出している巨大なクレーターがあり、パーティーはカイの魔法«プロテクション»で身を守り、穴の底まで一気に抜ける。底には漆黒の門があり、罪人たちを見下ろす者の姿が彫刻されていた。


 門の周りには地獄の番犬ケルベロスが複数、三つ首と二つ首の二種類がいて、蛇の尾を持ち、首や胴体から蛇が頭をもたげ、威嚇したり激しく吠えている。

 カイは悪魔アスモデウスから奪った(拾った)レア武器、緋色の魔槍ロムルスで、ケルベロス達を根こそぎ薙ぎ払い黙らせた。


 冥界の中心にある万魔殿(パンデモニウム)を直接攻めると言うオルドらに、セーラ達も助力する形となったが、パトラは口数少なく何事か考えているようであった。だが、パーティーを離れることは無かった。


 一行は門をくぐり抜け冥界へと入る。

「真っ暗だな。街灯はないのか?」

「冥界の内部だぞここは」

 手探りで周りのものを確かめるカイにオルドが突っ込みを入れる。

「お化け屋敷みたいで楽しいな♪」

 などと能天気に言いながらマリアは松明代わりに、«ルミナス»の呪文を唱えた。マリアの前に小さな光球が出現する。

 空には月ほどの大きさで輝く衛星が複数あり、この場所が自分らのいた世界とは違う次元にあることを思い知らされる。


「ここからは闇の力が強くなる」

 超低音で念仏を唱えるようにカイの右腕の痣が口を開いた。

「わっ! また喋った!」

「早速、出迎えが来たぞ」

 慌てるカイを無視してジュリアンが前方を指差した。


 髭が逞しい親父悪魔ベルフェゴールがセーラ達の前に立ちはだかる。様々な拷問器具を持ったゴーモンデーモンを複数連れている。

「貴様がセーラか? 冥府の空気は懐かしかろう」


« 怠惰の欠伸(レイジネス・ヨーン) »


 ベルフェゴールがスキルを発動すると、辺り一帯の闇の空気がいっそう濃くなり、パーティーは何だかやる気がなくなり、気怠くなってきた。


「デバフの特技か……う~んだるい」

 カイが面倒くさそうに上空を見上げる。そこには巨大な蝿のような異形の悪魔と、竜にまたがり右手に毒蛇の鞭を持った天使の姿があった。そしてベルフェゴールの背後には黒いローブを纏い頭部と背に黒い大小の羽根が生えた男と、それに瓜二つの顔をした全てが白いローブの男が控えていて、横にはそれぞれ女魔が付き添っていた。


「こいつらの魔力、半端じゃないぞ。ここが決戦の場になるかもしれん」

 二刀流の武士オルドは、それでも余裕を持って二刀を構えた。


 パトラはパーティーと少し距離を置き、心ここに在らずでモヤモヤしていた。


(冥界はわたしの故郷、ルシフェル様が目覚めたなら兄の氷を解呪できるだろうか、でも天使側にいた私を許してはくださらないかもしれない、それにマリアと離れるのも気乗りしない…って、わたしは悪魔なのにたかが人間に…)


 ふとベルフェゴールの後方から視線を感じたパトラ、タナトスのお付き悪魔アグラトと目が合う。

「タナトス様、敵の中に純粋な悪魔がいます。とても強い魔力を持った女魔が」

「味方、ではないようだな」

「裏切り者の粛清はわたくしめが」

「待て。単独で危険な事はするな」

「えっ…」

「お前一人であの悪魔の相手は荷が重い。あれはハデス様の部隊の元幹部だ」

「わたくしが殺されたら悲しんでくれますか?」

「何をいきなり…」

 しっとりと潤んだ瞳でタナトスを見つめるアグラト。 

「当然であろう、お前は貴重な戦力だ」

「そーゆー意味じゃなくってぇ……」

 アグラトは不満そうに触角を振り、タナトスの黒いローブの裾を引っ張った。


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