悪魔狩り
ジュリアンとソロはタッグを組んで、箱庭の未来と正義の名のもとに悪魔狩りを開始した。強力なステータスを持つキャラクターに転移して、箱庭界を跋扈する悪魔どもの殲滅を繰り返す、いわば無給の肉体労働に勤しんだ。ただあまりにも大量の悪魔を殺しすぎると、アプリ側のデータ更新が忙しくなり、システムに負荷がかかるため、以下のルールを設けた。
①なるべく短時間で現代に戻る(バグやシステムダウンが起きて戻れなくなることが怖い)
②同じ依代は二度続けて使わない(特定防止)
これらを踏まえて転移のループを行う。
最初の悪魔狩りの際は気合いが入り、インド神話最強のヴィシュヌとシヴァで行った。今度はアスラ王とスサノオで行こう、など、キャラ選びを相談する時間は二人にとって楽しいものでもあった。
しかし悪魔の中にも中立であったり、友好的で殺すのを躊躇う者もいて、ジュリアンはその矛盾に葛藤することがあった。対してソロは躊躇なく公平に、淡々と悪魔を殺していった。
「下級悪魔ども… キリがない。数万匹はいるだろう、体力と時間を削られる、アプリからなら一度に全削除できるものを……」
ジュリアンは口惜しげに愚痴をこぼしていた。
その頃、タナトスとアグラトのほうも、オルドの塔周辺にある街や村をしらみ潰しに回ったが、有力な情報は得られず疲弊していた。
二人は一番栄えている街のカフェに入って休憩することにした。
「ここは繁華街ですねー」
「この平和な街もいずれ我らが支配するようになる」
タナトスは冷たく無慈悲に言った。
「しかしオルドめは一体どこへ行ったのか」
「天界にいるのかもしれませんよ」
「唯一神がいる場所か。どうやって行く?」
「行き方はわたくしにもわかりません」
「悪魔が入れぬよう結界が張ってあるそうだな」
「タナトス様とご一緒なら、どこまでもお供します///(ポッ)」
そこに人間のウェイトレスが、タナトス達の注文した物を運んでくる。
「生キャラメルアイスフラペチーノのお客様」
はい、と普通に手を上げるタナトス。
「こちらメガいちごパフェになります」
「はーい」
超巨大なパフェを前にアグラトは触角をピンッと立たせる。
「よく食べるなアグラト」
「久しぶりなんで、こういうの! タナトス様、この後どうします?」
「万魔殿に戻るしかないようだな」
「少しだけ服を見てもいいですか?」
「え?……ああ…少しなら」
二人はカフェを出ると向かいの大きなブティックに入った。アグラトは様々な種類の洋服を試着する。触角との相性が難しいようだった。似合いますか、と感想を聞かれ、今回の出陣の本分を忘れかけるタナトスであった。
一方でタナトス達と別れたハデスは冥界に入り、一人で万魔殿に辿り着くことができた。
「迷わず、着けた……」
安堵してルシフェルの間まで直行するハデス。
臓器が蠢くドアがウィーンと自動で開きハデスはルシフェルと対面する。
「ここの場所が分からなかったのか」
ルシフェルは老いてやせ細ったハデスに声をかけた。
「とうとうボケてきたかハデスよ」
「ルシフェル、久しいな……」
「ハデス、お前は箱庭や異世界、開発者の存在を知っているな?」
「永く、生きて、いれば、知らなくて、よいことも、知る」
「私はそいつらを全員処分して、この世界を創り変えるつもりだ。お前の意見を聞きたい」
「それは、無理だ」
ハデスの言葉にルシフェルは、ふん、と鼻で笑う。
「奴らを、消しても、また、別の者が、引き継ぐ、だけだ……」
そう言ってハデスは付け加えた。
「我を、生み出した、者を、滅ぼさねば」
「それは誰だ? 色々知っていそうだな」
「あやつこそが、箱庭の、今の神」
ルシフェルは目の前のヨボヨボしたただの老人に見えるハデスから、ある種、別世界の雰囲気、開発者のにおいを感じた。
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