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三つ巴

 万魔殿(パンデモニウム)に逃げ帰ったマモンとアスモデウスは、ルシフェルからのお叱りを免れた。二神を屠るという最低限の命令と役目は確かに果たしたからである。


 しかし、あのパトラとかいう悪魔の情報は聞いていなかった。どの上位悪魔の部隊に属するのか…むしろ、あれ自体がもう魔神クラスの強さではないか、とさえマモンは思うのであった。

 しかし戦いの中で、パトラの中に悪魔らしく欲深い一面がある事をマモンは目敏く見抜いていた。『強欲』の二つ名の本分を発揮する時だ。


「へやァヘヤラ。(悪魔パトラの処置はわたくしめにお任せを)」

「へるぁら(あとは雑魚ですから)」


「よかろう、ただしセーラという天使だけは生け捕りにするように」

 ルシフェルは玉座に深く腰掛けて念を押した。


「ぅへぁっ!(承知!)」



 ルシフェルの秘書的な役目を担う女魔オノケリスは、オリュンポスの戦いで強奪した神器や魔道器、レア・超レアアイテムを整理、管理していた。


「マモン様、これをお持ちください」

 オノケリスは、『パンドラの空き壺』というマジックアイテムをマモンに手渡した。

「生かしたまま捕獲するのに最適なアイテムでございます」

 壺は手の平に収まるほど小さく装飾もなく、パッと見フィルムケースか香水の小瓶のようであった。


「アスモデウス様にはこちらを。対象の動きを一瞬止められる魔槍『ロムルス』、捕縛の際にお使いください」

 鮮やかな緋色をしたその槍を受け取ったアスモデウスは、へぶらっと掛け声と共に試し突きをした。更に調子に乗り、へぶラららららららッ! と連突きをする。



「ルシフェル様」

 声の主は背に黒光りする大きな羽根を二枚持ち、吸い込まれそうな闇深い色の装束で身を包んでいた。

「このタナトスにも出陣の許可を」

 死の神タナトスはルシフェルの玉座に進み出て膝をついた。

「例の天使たちとの戦いにおいて、復活されたハデス様が戦場に来ておりました」

「そのようだな」

「恐らくはこの万魔殿の場所が分からず地上を彷徨っておられるかと」

「道順を覚えられんのか」

「案内がてら天使長オルドの情報を引き出して参ります、奴をよく知っている者がおりますゆえ」

「アグラトと申します。オルドとは旧知の縁がございます」

 頭部にコオロギのような二本の細い触角を持った女魔が歩み出て膝をつく。

「オルドにも可能性がある、殺してはならぬぞ」

「開発者……ですか」

 タナトスは箱庭システムの話を信じていなかった。

「行くがよい」

「有り難き」

「だが、死の神よ。世界の変革はこの私が行う。他の誰も、私を差し置いてそれを行うことは許さぬ」

「はっ、重々承知しております」

 タナトスは畏敬の念で答えた。



(例えこの世界を創造した者でもだ)



 ルシフェルは箱庭と異世界(アザー・プレーン)の存在を一部の悪魔以外には詳しく話していなかった。敵で知っている可能性がある悪魔パトラ。抱き込めないならば消さねばならぬ。

 

 オノケリスが千里眼でセーラたちパーティの現在地をサーチする。

「ここです」

 指し示された地図の座標はコキノピロス村であった。

「動きがないな」

「タナトス様、オルドは塔の地下室に」

 触角をしきりに動かしアグラトが言った。


「ブルルァァォ(来たれ暗黒竜)」

 四匹の魔神と悪魔は、アスモデウスが呼んだ暗黒竜(パトラに燃やされた竜の弟)の背に乗って出発した。


「……大丈夫でしょうか」

 オノケリスが不安そうに言った。

「駒はいくらでもいる。それにしても」

 ルシフェルは、筆ペンの蓋をキュッポンと開け、愛用のデスノートに一言『三つ巴』と書いた。そして、面倒なことだ、と吐き捨てた。


お読みいただきありがとうございました。

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