排除すべき者
ルシフェルは、排除すべき敵=箱庭開発者が、どのようにこの世界に存在しているか、ある種の目星を付けていた。
現存する開発者は恐らく四人、うち三人は確認している、一人は未確認、そして、五人目は死んだ、ここで特筆すべきは魂もろとも消失した事、これは箱庭内では決して死なないはずの開発者が、"リアル・プレーン"(元の世界、現世)と同じように死滅した事を意味する、つまり無敵に思える開発者にも弱点はある、キャラクターと同じレベルにまで落ちる条件が、例えば、自ら死を選ぶとか、"特殊な呪文"(コード)を詠唱する、とか、他には……、何にしろ我々が取るべき行動は開発者の身柄を捉えることだ、そして長期の拷問などで条件や方法の手がかり足がかりを吐かせる、とにかくまずはセーラを捉えよ…
ルシフェルは玉座に座ったまま、宙を見上げた。
◆
オリュンポス山の中腹、コキノピロス村では戦闘が続いていた。
その中で悪魔パトラの力は抜きん出ていた。
「へやへァッ(強敵にして難敵)」
「へぶらッ(格が違う)」
パトラは地の精霊に働きかけ、鋭く尖った岩塊を地面からいくつも屹立させた。マモンとアスモデウスは完全には避けきれず、腕や脚に岩が突き刺さり、一瞬間、身体の自由を奪われた。
そこにレイエスが剣撃を入れる。
特殊な剣捌きで二匹の悪魔を切り刻み、スタッとスマートに着地、ニコッと笑ってポーズを決める。
「へヤッへァ…!(駄目だ撤退するぞ)」
マモンは素早い動作で魔法陣を描き、アスモデウスを連れて悪魔版、跳空間転移で戦いの場から姿を消した。
「逃がしたか」
レイエスが戦闘の構えを解く。
「わたし達の出番が無かった。ありがとう」
セーラがレイエスの戦闘技術を褒めてお礼を言うと、突然、彼の態度が変わった。
「ミシェル、戻ってこい」
セーラにその言葉を投げた直後、レイエスは煙のように跡形もなく消えた。あとには色鮮やかな蝶が二匹、飛び回っているだけであった。
「消えた……、魔法ではなく、純粋に消えたね。どんなスキルだろう」
無表情を崩さずにパトラが言った。
「セーラが…ミシェルって?」
「ダニーさんの話に出てきた、行方不明の開発者だな」
カイは眉間に皺を寄せて何かを思案していた。
「……」
セーラはすぐに返事が出来なかった。
(キャラクターの決められた言動、二人の悪魔を倒すイベントが終わって、中の誰かが、わたしに話しかけた……直接)
「レイエスという人は本来、存在しなかったんだと思う」
セーラは重い口をようやく開いた。
「どういうこと?」
「多分だけど、この部分は無くてもいい戦いだった、わたしにあの伝言をするためだけのイベント…」
「何でそんな回りくどいことを」
「それだけリスクがあるんじゃないかな」
陽は落ち、辺りは闇に包まれ始めた。遥か上空から地上を見守る黒球はその姿と大きさのまま、月明かりに照らされる星々のごとく瞬いていた。
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