運命の輪
悪魔の手に落ちたオリュンポス山に向かう前に、一行はハデス達が暴れ回って壊滅に追い込んだ街に立ち寄った。
まだ硝煙が燻っているが、人々はあらかた避難したようであった。
セーラ達は斜めに傾いたウェルカムの看板の先の喫茶店跡に入った。
店内には誰もおらず、カウンター奥の棚には酒や飲み物が並んでいた。四人はドリンクバーのようにそれぞれ好みの飲み物をコップに注いで、テーブルに腰かける。
パトラとマリアはすっかり打ち解けており、パトラ持参のタロットカード占いを始めている。
セーラは複雑な面持ちで、少し距離を置いてタロットカードを見ている。
カイも言葉少なく、ジントニックを飲みながら、己の覚悟を決めかねていた。
今の自分にあの呪文を解呪できるかは分からない。少なくともあの呪文は、もう高度すぎて扱えない。
もし解呪できて、あのケンタウロスの悪魔が再生すれば、やはりパトラを仲間に引き込み自分達を襲うだろう。いくらパトラがマリアに懐いても、仇を討つという言葉からも兄の味方につくことは、火を見るより明らかであった。
悪魔の氷像を前にオレはどうすればいい?
①自分たちは無関係なことにする。
②解呪は出来ないふりをする(実際できなければ尚良し)。
③ケンタウロスの悪魔はもう死んでいることにする。
④バグ時の記憶がない、何かに乗り移られて勝手にやったことにする。
……いずれにしても嘘をつく事になる。ハデスが甦ったり、ジュリアンがまた来たりして、自分達やパトラと対峙したらすぐにバレてしまう嘘であった。
どうする
どうする
どうする
どうする
どうする
どうする
どうする
どうする
どうする
どうする
どうする
どうす…
ぷしゅ~……
とりあえずどの立場で行くかは先送りにして、このまま知らんぷりするか、そして自然の流れに任せるべきか…。今ここで真実が伝わる可能性は仲間の二人だけ。念のため口止めしておこう。
いや、そうだ! 箱庭アプリで悪魔の記憶からバグった自分の部分を消し、ポセイドンがやった事にすれば……(カイは混乱し始めていた)
「ねぇここの秘境にあるマジックアイテム、ヒーラーのあたし向きじゃない? 白銀の癒し手袋、賢者の石」
マリアが少し大きな声で皆に聞こえるよう問いかけた。
「マリア、あなたも攻撃手段を覚えた方がいい。僧侶は悪魔や不死者にも有効な魔法を使う事ができる」
パトラは自分の不利をまるで気にせず、親身にアドバイスをする。
「風と精霊に由来する呪文、真空波とかマリアと相性よくて習得まで速いと思う。高レベルになると生物の血流を止めたりする術なんかもあるし」
「パトラちゃん、詳しくありがとう! でもあたしに出来るかなー」
「大丈夫だよ。カードが示してる」
パトラはテーブルに広げたタロットカードの中から『運命の輪』のカードをマリアの前に差し出した。
「マリアだけは幸せになれる」
そう言うとパトラは少し飲み物に口をつけたあと、椅子から立ち上がった。
「そろそろ行きましょう、ここに氷漬けにされた兄がいる」
パトラは何気ない雑談をしているセーラとカイを見下ろしながら、無表情に言った。
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