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ジュリアン

 セーラ達がオルドの元へ向かった数刻後。

 村外れにある墓場の土が突如盛り上がり、地中から一人の死者が這い出した。

 それはアンデッドとして蘇ったアレフであった。


 ユートピア創造の実験システム"箱庭"の開発者の一人であるジュリアンは、死亡しているアレフとして箱庭に転移した。

 と言っても彼は創造主たるプレイヤー、どのような厄災も起こせるし、いかなる傷病に対してもほぼ無敵である、チートキャラクターとしてこの世界に存在する。

 箱庭のシステム設定やイベントプログラミングなどを行った開発者は他にもいるが、彼らは致命的なバグを恐れてキャラクターを引き上げ、世界の外から監視をしていた。


 しかし、ジュリアンにはある目的と使命感があった。

 彼の身体がノイズのように歪み、異端者オルドの潜む塔の最上層へと転移した。



 突然現れたアレフを見て、一同は歓喜の声を上げる。

「!?」

「アレフ…アレフなの?」

「ははっ、お前! やはり生きていたのか!」

「ああ。こんなナリだがな」

 アレフは自嘲のように肩を竦めた。

 その外見はもはや人間とは言いがたかった。肌は灰色に枯れ、眼窩は薄暗く沈み、衣服は墓土に汚れている。

 それでも、笑みだけはかつてのままだった。


「気にするな。どう見たってゾンビのアレフじゃないか」

 カイが冗談めかして言うが、場の空気は凍っていた。

「久しぶりだな…みんな、それにセーラ。随分と感じが変わったが……」

 アレフことジュリアンはボロボロの衣服と、ところどころ禿げた髪や皮膚を恥ずかしげに掻いた。

「う、うん」

 セーラは複雑な面持ちで曖昧に頷く。その瞳の奥には、わずかな違和感が揺れていた。

「お前が魔物の父を滅ぼしたんだな」

「オルド様や神様の力を借りてやっと倒したんだよ」

 

 会話を聞きながらオルドは警戒していた。

 目の前の男がアレフなどでは無いことを直感で見抜いていた。

 安寧を取り戻した世界を塔から見下ろしノートパソコンの内部データと重ね合わせると、今はやはり魔物はもう存在していない。しかし高い知能を持つ野生動物やドラゴンやエルフといった種族は残っていた。

 だが、このアレフの姿をしたアンデッドはそのいずれでもない、恐らくは……。


 塔の上層から見下ろす箱庭の地形データを、オルドは頭の中に重ね合わせる。

 すでに魔物は存在せず、世界は安定している。だが、その均衡は脆い。転生を繰り返す魂の流れが、再び歪み始めていた。

 オルドが確認しただけでも、箱庭有数の魔法都市に元魔族幹部のスライムの女が人間として転生している。騎士の男と獅子の魔物もその兄弟として、魔導師は…未だ行方はわかってはいなかった。


 オルドの計算式が、ひとつの異常値を弾き出す。

 その中心にいるのが、"アレフ"を名乗るこの男だった。



「オルド」

 ジュリアンは低く威圧的な声でオルドを呼んだ。

「な、な、なにかな? オルド様と呼びなさい」

「気づいているはずだ。お前たちの"運命"を」


「アレフ……どうしちゃったの」

 アレフの性格が何だか不穏に変わっていてマリアは戸惑った。その声に含まれる演算ノイズに思わず耳を塞ぐ。

「運命……?」

 オルドが呟くと重厚な扉が突如として開いた。


 黒髪に甲冑を纏った武士の一団が現れ、無言のまま刀を抜く。

「オルド、そしてセーラだな」

 その声はまるで機械の読み上げのようだった。


 セーラたちが身構える中、アレフの眼が淡く光を放つ。


 命令:敵性存在を排除せよ。


 そして、戦いが始まった。


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― 新着の感想 ―
ゲーム的設定と現実改変の要素が面白く絡み合っていて惹き込まれました。ジュリアンの冷静さと不穏さが印象的で、物語のスケールの大きさを感じます。ファンタジーとSFの境界を行き来するような独特の世界観が魅力…
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