浄化と刻印
「君は多くの悪魔や魔物を退治してきたんだね」
唯一神と名乗った人物は若く、中性的な顔立ちと声音で、カイには男女の判別がつかなかった。
「特別な存在だよ」
「……この光は?」
カイは自分の光る身体を不思議そうに見た。
「魂が肉体に戻ったんだ。ここでは肉体を保ち五感も戻る。でも下界では保てない、同じことの繰り返しになる」
「すぐに生き返れないんすか?」
「悪いバグを浄化しなければならないからね」
謎めいた若者は全身が発光しているカイに語った。
「私の力は加護と浄化、再生だ」
「でも……生き返っても、元の何でもないオレに戻るだけ、か」
カイは寂しげに呟く。
(オレはもっと強くならなきゃいけない……)
「私の属性は下界に降りて悪魔どもと戦うことができない。カイ、君が代わりに戦うんだ、セーラと共に」
その言葉に自信なさげに頷くカイ。
「さぁそろそろ悪しき業は浄化されたはず。仲間の元へ戻してあげようか」
その頃、オルド達は塔の地下室に身を隠しながら、箱庭アプリでカイのデータを確認していた。
「表示はLOST、ダメだ、他の操作も効かない、通常ならばランダムに転生しているはずだが…」
「もうカイに会えないの…?」
マリアが訊ねたと同時にその背後から耳馴れた声がした。
「ただいま、みんな……」
「カイ!!」
カイは戻った。経緯を説明する。マリアとセーラが抱きついてくる。どさくさ紛れにカイは二人の胸や尻肉を揉んだりしたが今は咎められなかった。
(うへぇ…たまらん)
しかし完全な形で蘇ったわけではなかった。
バグは残った。数値に記号、これがまたあの恐怖のバグ祭りを呼んだらと思うと恐ろしくもある。が、当座は普通の人間カイ、青白いヒョロガリだが生気ある顔と身体、魔法などはワンランク上のものをマスターしていた。
「喜べカイ、魔力のステータスが大幅に上がったぞ」
そう声をかけたオルドは気づいた。
(いや待て、あれは)
カイの片腕に鮮やかな色をした斑模様のシミが僅かについているのをオルドは見逃さなかった。
「カイ、そのシミはどうした」
「シミ? 何だろう」
泣きながら縋り付くマリアの身体をどけて、カイ自身が肌を擦るが七色の鱗粉は一向に落ちなかった。
(悪魔の刻印……何故だ)
「カイよ、箱庭の神に身体を再生してもらったんじゃないのか?」
「そっすよ」
「よく聞けカイ、そのシミは」
言いかけた言葉を掻き消すように、轟音を立てて地下室の扉が開けられた。外はもう日が暮れており月明かりが差し込む。
「きゃっ! 何!?」
リーダーの悪魔が消えて統率を失った魔物どもが世界各地を自由に暴れ回っており、ついにこの地下室にまで手が及んだのであった。
「よぉし、この復活したカイ様の魔法で一掃してやるぞ」
カイは現れた大型のワーウルフどもの前に立ちはだかった。
« 極烈零凍波!»
カイの手の平から冷気の波動が放射され直線上に進み、一列に並んでいたワーウルフを一瞬で凍結させた。しかし、左右に逃れた数匹がカイに襲いかかる。
呪文の直後で無防備なカイは片腕で身を護る。シミから膨大な量の高熱ガスが吹き出し、数匹のワーウルフはキャイン! と鳴き声を立ててまとめて焦げついていった。
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