表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/98

箱庭の唯一神

 万神殿(パンテオン)を中心に、ローマ時代の神殿や建造物が並び立つ大地、チュンチュンと鳴く鳥の声の中、ローブを纏った若者が草原を歩いている。


「やあ、箱庭の神さま」

 箱庭の神と呼ばれた人物は天を仰いで立ち止まる。その肩に鮮やかな羽色の蝶が止まった。

「ライナスか」

 ふわふわと羽根を閉じ開きしている蝶に話しかける。

「ハデスは復活したかい」

「今回はちと時間がかかりそうだが、手はいくらでも打てるさ」

「出来ることなら、ここで君を殺しておきたい」

「なら、やってみたらいい」

 煌びやかな蝶は鱗粉を撒きながら箱庭神の周りを飛び回った。

「地上の事で、お気に入りの天使の加護でお忙しいか」

 ライナスの言葉に目を閉じる箱庭の神。

「話せて良かったよ、箱庭の唯一神」

 そう言って蝶は飛び去る。

「私もだよ、ライナス」

 見送る箱庭の神。それは単なるNPCの言動ではなかった。



 ◆

 アプリ内にあるバグったカイのデータに三人の生体エネルギーが流れていく。しかし、カイは回復どころかドロドロと溶解が止まらない。


「駄目か」

「直接、繋いでみたらどうかしら!?」

「いや、それは仕組み上できないのだ……」


 カイは半分以上閉じた瞼で揉めているオルドたちを眺め、途切れかかっている意識の中で幼き日々を思い出していた。

 夜明け前、マリアとアレフと一緒に高原へ出発して、熱病に効く薬草を取りに行った、朝焼けの眩しさと澄んだ匂い。


(もう一人、いるんだ、倒さなくちゃいけない奴が)


 伝えたい言葉が、共通語が出てこないもどかしさ…。

 最初この場にもいた、モブキャラになって、オルドさんも気づかない巧妙な、だがオレには分かった。


「どーしたらいいの、カイが死んじゃう」

「もう手は、ない……」


 声が全く出なくなり、カイは伝えることを諦めた。

 完全に溶け落ちて液状に、カイの身体を型どった灰色の液体が地面を流れる。


「あぁ……カイが…カイが」

 マリアが口に両手を当てて声を押し殺す。

「溶けて消えちゃったよ…涙」


「オルド様! カイはどうなった!?」

 セーラがアプリでの確認をオルドに求める。

「どこに、どこに行ったのカイは!」

「生物が死して、まず行くところは……」




 カイの魂は透明な幽体となり、元の若々しい体で、箱庭神の住む次元の地にいた。

「頑張ったね……カイ」

「あ、あなたは」

「Ἐγώ εἰµι ὁ ὤν (私は在るものである)」

 カイが聞いた事のない言語であった。

「私は箱庭の唯一神。君の身体は消滅した、再生を望むかい?」

「も、もちろんっ」

 嬉々としてカイは答える。

「どんな? 元の人間、他種族、獣人とか、それとも悪魔?」

「それは……」

 カイはじっくりと思案した。

「大きな力を持った存在に、セーラのように」

「力を持つもの……そうだねぇ…そういうのは素質がないとね」

「じゃ元の人間がいいです、マリアを安心させたい、そのまま蘇生するだけでも特別なんでしょう?」

「謙虚だね、カイ、その通りだよ」

 箱庭の神は両手で囲んだ光を一気に大きく広げて、カイの身体を覆っていく。そこには蝶の鱗粉が舞っていた。


お読みいただきありがとうございました。

↓↓ブクマ、星評価ぜひお願いします。励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ