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アンデッド

 バグったカイは痛覚が麻痺しているのか、片腕の肉が削げ落ちてもそのまま笑みを崩さず、己の肉片を地面から掴み取り魔法の触媒とし、ハデスに向かって呪文の詠唱を始めた。切れた腕の断面からは、骨を伝って血がポタポタと滴り落ちている。


 ニヤニヤしながらカイは骨だけになった手で拾い上げた肉片を握り潰す。肉片は握った手の間から四方に飛び散った。


(☼∫ℵ∝₪… )


 カイの周囲の景色は、まるで古いフィルム映像のように不鮮明に揺れ動いている。ハデスは異変を察し、黒い球を発動しその中に籠る。


「今カイはなんて言ったの?」

「わからん」


« 原子崩壊励起(го_громный) »


 呪文の完成と同時にハデスの纏う黒球を大質量の白煙が取り囲み、内部へと侵入していく。


「こ、これは……身体が、崩壊す、る」


 原子崩壊、ハデスの幽体が物質的にも霊的にも完全に根元のレベルまで分解・消滅する…即時再生ができない。


「冥府の神がついに死すか」

 ジュリアンが驚愕して呟く。


「箱庭の、死は、死では、ない」

 亡者どもの多重音声でハデスは今際の言葉を発する。

「……死は、ここより、深く、もっとも、暗き、ところに、ある」

 奈落を示した呪詛を吐いてハデスは砕け散り、塵と化してサラサラと風に流れた。



 セーラは化け物じみた強さと外見になったカイに戦慄し、じっと睨むように見つめていた。



 カイの周りは磨りガラスが貼られたように曇りが酷く、時折ビープ音が鳴り響く。顔の変形はますます激しくなり、片方の目や眉尻が異常に釣り上がり、下唇はテニスボールほどに膨れていた。


「オルド様、カイの様子がおかしいわ! あれが副作用なの?? 元に戻るの!?」

 マリアが絶望的な声と表情で叫んだ。

「あれはもはや、アンデッドだ」

 オルドは淡々と語る。

「規格外の魔力、カイはやり遂げるであろう」

「そんな…まさかカイは、もう死……」

 涙でその先の言葉が出て来ないマリア。


 ジュリアンは、空々しく語っている小天使がオルド本人である事にようやく気づいた。

「もう復活したか。大変なことをしてくれたなソロ……」

 更にジュリアンはある可能性を直感した。


(ライナス、だがどうやって誘導した? 彼らとは接触もしていないはずだ。考えすぎか……いや、セーラ、ソロ、ミシェル、ライナス……奴は討伐など細かいイベントを組み込む作業を好んでやっていた。その枝分かれを進めた局面の一つが…)


 スルト、ハデスと滅ぼしたバグアンデッドカイの次の殲滅対象は海神ジュリアンに向く。


「神に刃を向ける愚か者め。私を倒せると思うのか、ただのプログラムのお前が」

 ジュリアンはカイの膨大な魔力に気圧され、焦って早口で捲し立てる。

「正義は私にある」

 ふふふと笑いながら平静を装うジュリアン。

 そして有無を言わさず、神器である三叉の鉾を頭上に掲げた。ポセイドンの威光がキラキラと輝く。


 眩い光の中でバグカイは徐々に退化し、元の生気ある姿に戻っていく。それでもお構いなしに、カイはうっすらと笑みを浮かべてジュリアンを見据えている。


「さあ消えろ! 箱庭界の忌むべきバグ因子よ!」

 ジュリアンは頭上で鉾をくるくる回すと、棒立ちしているカイの身体を斜めに引き裂いた。


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