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外法

「そうか、ダニーは自ら消滅を選んだか……」

「でもまた転生できるんでしょ?」

 ミニオルドの落胆の言葉に明るく返すマリア。

「アプリにはダニーさんの名前が残っていなくて」

 カイはずっと気になっていた事を話した。

「彼はきっと次の器を指定しなかった、我々は選ぶことができる、転生する先を」

「となるとダニーさんは箱庭内でそのまま…まさか」

「リスク前提なんだ、箱庭への転移は。それを行うプレイヤーは殆ど居なくなった。物質的に消えるのだ、命が」


 カイは恐る恐るもう一つ告白をした。

 ステータスをバグらせようと、自分のデータを開いたままアプリを強制終了させたり、他にも色んな無茶な操作をしていた、その悪影響が箱庭界に出ていないか、と。


「そんなやり方では恐らく何も影響しないから安心しろ」

 そう言ってオルドは少々沈黙した。


「カイ………そんなに強くなりたいか、どうしても」

「なりたいっす」

「話していなかった方法が一つある。箱庭は地球を模した星として生きている、前に話したな、命を触媒にした回復魔法のことを。それは箱庭システムにも当てはまる。お前の推測は半分当たっている、生体エネルギーつまり肉体と魂を、命そのものをアプリに転送すれば、箱庭の壊れたシステムを甦らせ、エラーの修復を可能にするかもしれない。もちろん命懸けのこの方法はまだ誰も試してはいない」

「……」

「命を全て捧げずとも個人のステータス改変くらいなら、生体エネルギーを大幅に使えば起こせるかもしれんな。通常のやり方とは違う、アップロードを必要としない外法、当然バグる可能性は大きい。ステが数値化できないものになったり、減ったり初期化したり、最悪、奇形な化け物になったりする覚悟がいる。ただしこの博打の成功例が全くないわけではない」


「やります、オレ」

 カイは即答した。

「生体エネルギーって…死なないのよね?」

 心配そうにマリアが確認する。

「そこは加減する、だが結果は運次第だ」


「目を閉じ脱力しろ」

 早速オルドは開発者のマウス(ゲーミングマウス)を操作して、カイの腕に浮き出たUSB端子口とノートパソコンを専用ケーブルで繋ぐ。


 カイの元々血色の悪い顔色がみるみる土色になり、頬はげっそり痩けて萎み、目には赤黒いクマが深く刻まれていく。栗色の髪は全て白髪となり、縮んだ身体を包むローブがだるだるになった。

 呪術などにより急速に老化した感じだが、それ以外に大きな変化は無かった。本人もどこまで変わったか半信半疑で、鬼が出るか蛇が出るか、心臓が早鐘を打っていた。


 データを確認してみると、全てのステ数値がバグって数字に%などの記号が入り文字化けしていた。

 オルドがその桁数に驚く。例えばカイのアジリティなど以前はせいぜい二桁だったのが、今はいち、にい、さん、しい、ごう、ろく、しち、はち、きゅう…九桁以上になっていた。単に数字の間に記号が挟まったせいかもしれないが、とにかく常人とは桁違いであった。魔力は元々高かったが、こちらも異常な数値になっていてオルドは些か恐怖した。


「試してみろカイ、下位の魔法を放ち威力を確認してみよう」

「するまでもない、魔力が溢れて…」

 カイは震えながら己の両手を見て答えた。

「やったじゃない! カイ」

「どんな副作用があるかは、まだ分からないぞ」

「実戦ができれば、今の自分ならどんな悪魔も簡単に捻ることができそうす。ああ、内蔵がきゅーきゅーするけど」

 強化された自分を手放しに喜ぶカイ。


 心強い仲間オルドが戻り、ついに夢にまで見た新生バグカイが爆誕する事となった。


(すまないなカイ…)


 実験体としてカイを選んだオルドは己を悪人と恥じた。止めなかったこと、好奇心が勝ちそのまま外法を実行したことを心の中で謝罪していた。


お読みいただきありがとうございました。

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