世界を巡る
「この地図は世界に隠されている秘宝を魔法で全て網羅してるの」
「交渉のつもり?」
マリアが広げた魔法の地図をひょいと覗き込むパトラ。
「バカね、悪魔は欲しいものは奪うのよ」
レアなマジックアイテムに心惹かれ、パトラはその地図を手に取って詳しく見たくなった。
「ねぇ、一緒に旅をしない?」
マリアが思い切って誘いの声をかける。
ドキッとしたパトラは伸ばしかけた手を慌てて引っ込めた。
(ほら、これをこうして……)
「そこの二人っ! コソコソ何してるの!」
「わっ」
アプリを使って記憶の一部を消すか、直近行動の強制、こちらへの攻撃を辞めさせようとしていたオルド達だったが、すぐにパトラにバレてしまった。
パトラは男どもを御すると再びマリアと話し始めた。
「死ぬのが怖いんだね。分かるよ、わたしも人間だった時は怖かった」
「仲良くなりたいほうが強いかなぁ。だってあなた角も羽も尻尾もないし、普通の可愛い女の子じゃないの」
「騙されちゃ駄目だマリア! 悪魔は人間に化けるのが上手い、少女の姿の本体はきっとグロテスクな化け物だぞ! 大蛇みたいな!」
「うるさいなー、あのヒョロガリ…」
外野の声にイラッとするパトラ。
「パトラちゃん、広すぎるこの世界を、自分の目で色々見たいと思わない?」
マリアはパトラに歩み寄って手を繋ごうとした。
「この印の数が、全て未知の世界……」
パトラは魔法の地図に興味津々であった。地図を見ながらパトラは迷った。そしてこの女の言葉にも。
「待て! 不用意に近づくと危険だマリア!」
(女はいいとして、あいつは殺そうかな)
パトラは片手に魔力を込めて、カイのほうへ向き直った。
「く、来るか」
「待ってよパトラちゃん」
後ろから止めるマリアに何故か後ろ髪を引かれるパトラ。
「……いいわ、この地図をくれるなら見逃してあげる。魔導師に悪戯したことも」
「えっ、いいのか、あいつの仲間じゃないのか」
「わたしにとっては大したことでもない、それにもっと楽しそうな遊びを教えてくれたしね」
パトラは静かに微笑みマリアから地図を受け取る。
「じゃあね、マリア、これありがとね」
「一人で行っちゃうの?」
魔法の地図を手にしたパトラはマリアを連れてはいかず一人、炎衝飛行の呪文を唱え飛び去っていった。
「旅立ったか。さすがマリア。上手くやったな、あのアイテムは激レアだったのだが、いつの間にかパクっていたとは」
パトラに一喝されてから、ずっとデスクの下のスペースに隠れていたオルドは感心して言った。
「ハァハァハァハァ……怖かった」
カイは過呼吸になっている。
「あーあ。振られちゃったか。本当に友達になりたかったのになぁ…」
マリアは心底残念そうであった。
両手を広げてくるくると回転しながら、気持ちよさそうに大空を飛びまわるパトラ。結局ハデス達の元へは戻らなかった。
「悪魔の契約は置いといて。わたしつらまらない人生は嫌なの」
悪魔らしく狡猾そうな悪戯っぽさでパトラは囁いた。
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