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世界の均衡

「セーラ。よくぞ"魔物の父"を討ち果たしてくれた」

 ノートパソコンの前に座るオルドは、安堵にも似た微笑を浮かべた。

 金髪ロングヘアの美しき天使がゆっくりと目を開く。


「……わたし、生きてる? オルド様?」

 セーラは視線を落とし、自分の裸身を見て真っ赤になった。

「な、なんで裸なのっ!」

 両手と羽根で慌てて身体を覆う。


「心配はいらん。お前の傍らにいた〈天の光虫〉が、神の残光を媒介にして肉体を再構成したのだ」

 オルドの声には興奮が滲む。

「これで我々は神の法則の外へと踏み出した。誰にも縛られぬ、真の自由だ」

「よく分からないけど……助かったのね。マリアは? カイは?」

「お前を探していたが、諦めて故郷へ帰って行ったよ」

「アルメリアね! わたし会いに行ってきます!」


 セーラは塔のバルコニーに駆け出し、四枚の翼を広げて飛び立った。

 風の中でオルドは静かに髪を掻き上げる。

「さて……上層システムは既に気づいているはずだ。

 私たちの存在が、この世界の均衡を変えることを」

 その瞳に興奮と恐怖が混じる。



 アルメリアの村は、戦火からの復興を終えつつあった。

「マリア~~!」

 セーラはマリアの家の風呂場に行き、ちょうど湯船に浸かっているマリアを呼んだ。

「セーラ!?」

 ガラガラと風呂の扉を開けたセーラは、マリアの入っている浴槽に無理やり飛び込んだ。

「お邪魔しまーす♪」

 浴槽は二人で入るには狭く、セーラ達は身体を密着させざるを得なかった。

「本当に……セーラなの?」

 マリアが涙声で問う。

「うん! 裸だからマリアに服を借りたくて」

「セーラ…セーラぁ……会いたかったよぅ」

 マリアが甘く妖しい声でセーラの首に両腕を回す。

「わたしもだよ。マリア」

 二人はごく自然な流れでキスをした。


 覗き穴から二人を見ていたカイは、複雑な気持ちで、湿った手を握りしめていた。

 そしてカイはあらためて確認した。

 セーラは半分天使、半分悪魔、人間じゃない、それに天使や悪魔には性別などないと聞いた事もある。

 マリア…マリアに危険はないのか…オレのマリアに…。

 揺れる嫉妬と混乱。カイは覗くことをやめられなかった。


「セーラ……抱いて。貴女が好き。愛しているの」

 マリアの濡れた髪と甘い吐息がセーラの鼻をくすぐる。

「マリア…ありがとう。でもこれは悪魔の遺物。マリアの綺麗な身体をこんなもので穢せないよ」

「いいの、とにかく抱いてっ」

 マリアはひたすら性欲が強かった。


「そこまでだ、猫たち」

 顔を真っ赤にしたカイが荒い息を吐きながら浴場に躍り出た。

「きゃああああ!!」

 マリアとセーラは悲鳴を上げてカイに石鹸やたらいを投げつけた。

「痛っ! やめろ、聞いてくれ」

 そう言うとカイは一枚の貼り紙を示した。


 "賞金首:セーラ・オルド。世界崩壊の原因。討伐者には莫大な報酬を与える。"


「ど、どういうこと、セーラは世界を救ってくれたのよ?」

「魔物の残党の陰謀か……」

「いいえ」

 セーラは静かに首を振った。

「オルド様のところへ行きましょう。世界が、誰かに書き換えられている気がするの」

 バスローブ一枚を借りてセーラは翼を羽ばたかせる。

 三人はオルドのいる塔へ向かった。

 世界の均衡が音もなく崩れ始めていた。

 それは、人の手によって……。


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― 新着の感想 ―
展開がぶっ飛んでいて一気に引き込まれました。セーラとマリアの再会シーンは大胆で驚きましたが、そこにカイの嫉妬や世界の危機が絡んで続きが気になります。
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