世界の均衡
「セーラ。よくぞ"魔物の父"を討ち果たしてくれた」
ノートパソコンの前に座るオルドは、安堵にも似た微笑を浮かべた。
金髪ロングヘアの美しき天使がゆっくりと目を開く。
「……わたし、生きてる? オルド様?」
セーラは視線を落とし、自分の裸身を見て真っ赤になった。
「な、なんで裸なのっ!」
両手と羽根で慌てて身体を覆う。
「心配はいらん。お前の傍らにいた〈天の光虫〉が、神の残光を媒介にして肉体を再構成したのだ」
オルドの声には興奮が滲む。
「これで我々は神の法則の外へと踏み出した。誰にも縛られぬ、真の自由だ」
「よく分からないけど……助かったのね。マリアは? カイは?」
「お前を探していたが、諦めて故郷へ帰って行ったよ」
「アルメリアね! わたし会いに行ってきます!」
セーラは塔のバルコニーに駆け出し、四枚の翼を広げて飛び立った。
風の中でオルドは静かに髪を掻き上げる。
「さて……上層システムは既に気づいているはずだ。
私たちの存在が、この世界の均衡を変えることを」
その瞳に興奮と恐怖が混じる。
◆
アルメリアの村は、戦火からの復興を終えつつあった。
「マリア~~!」
セーラはマリアの家の風呂場に行き、ちょうど湯船に浸かっているマリアを呼んだ。
「セーラ!?」
ガラガラと風呂の扉を開けたセーラは、マリアの入っている浴槽に無理やり飛び込んだ。
「お邪魔しまーす♪」
浴槽は二人で入るには狭く、セーラ達は身体を密着させざるを得なかった。
「本当に……セーラなの?」
マリアが涙声で問う。
「うん! 裸だからマリアに服を借りたくて」
「セーラ…セーラぁ……会いたかったよぅ」
マリアが甘く妖しい声でセーラの首に両腕を回す。
「わたしもだよ。マリア」
二人はごく自然な流れでキスをした。
覗き穴から二人を見ていたカイは、複雑な気持ちで、湿った手を握りしめていた。
そしてカイはあらためて確認した。
セーラは半分天使、半分悪魔、人間じゃない、それに天使や悪魔には性別などないと聞いた事もある。
マリア…マリアに危険はないのか…オレのマリアに…。
揺れる嫉妬と混乱。カイは覗くことをやめられなかった。
「セーラ……抱いて。貴女が好き。愛しているの」
マリアの濡れた髪と甘い吐息がセーラの鼻をくすぐる。
「マリア…ありがとう。でもこれは悪魔の遺物。マリアの綺麗な身体をこんなもので穢せないよ」
「いいの、とにかく抱いてっ」
マリアはひたすら性欲が強かった。
「そこまでだ、猫たち」
顔を真っ赤にしたカイが荒い息を吐きながら浴場に躍り出た。
「きゃああああ!!」
マリアとセーラは悲鳴を上げてカイに石鹸やたらいを投げつけた。
「痛っ! やめろ、聞いてくれ」
そう言うとカイは一枚の貼り紙を示した。
"賞金首:セーラ・オルド。世界崩壊の原因。討伐者には莫大な報酬を与える。"
「ど、どういうこと、セーラは世界を救ってくれたのよ?」
「魔物の残党の陰謀か……」
「いいえ」
セーラは静かに首を振った。
「オルド様のところへ行きましょう。世界が、誰かに書き換えられている気がするの」
バスローブ一枚を借りてセーラは翼を羽ばたかせる。
三人はオルドのいる塔へ向かった。
世界の均衡が音もなく崩れ始めていた。
それは、人の手によって……。
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