ゲーミングマウス
「開発者のマウスにゃ」
ミニオルドは衣服のポケットから秘密道具を取り出した。
「そ、そのマウスは」
「これを使わんとアップはできにゃい」
オルドは自慢げに、何の変哲もない白いワイヤレスマウスをカイの眼前に突きつけた。
(なんてことだ、今までのオレの苦悩はいったい)
「例えばこのハデス、不幸の元凶がもう復活ちている」
オルドは持参のマウスを操作してキャラクターデータのファイルを開く。
「混沌の魔導師…ダニーさんも言っていた」
「ダニーが来たんでちか?」
「話すと少々長くなりますが…」
「後でゆっくり聞きまつ。他言ちないように」
(他にも箱庭に転移しているプレイヤーが残っているかもしれないからな……)
そう独り言を呟いたオルドの声音は、ふざけるのを少し控えた真面目なものに変わっていた。
「このハデスとセーラには深い因縁がある」
「オルドさん、普通に喋れるんじゃないすか」
「あー、ごほん、わつぃが今できることはかなり制限されている。アプリを使って弄れるのは個人の、ごく最近の記憶、強制できるのは直近の些細な行動のみでちゅ。でもハデスは果てしなく永く生きているからね、とりあえず奴の中のセーラに関する記憶はほぼ消去できるはずだ。何かと邪魔であろう」
話しながらオルドは完全に以前の口調に戻っていた。
消去→保存→元に戻す(アップロード)
…… …… …… …… …… …… ……
…… 転送完了。
「これで奴の記憶からセーラに関わる情報があらかた消えたはずだ」
「マジすか、こんなあっさりと…、オルドさん、他にオレ達に優位になるような改変はできますか? 悪魔の属性を中立に変えるとか」
「昔はそれもできただろうが、アプリの機能が正常でない今は無理だな」
「カイがむちゃくちゃ強くなるのは?」
マリアが口を挟む。
「それは、別人にでもならぬ限り無理だ」
「何らかの要因で能力ステータスの数値が大きく増えたり変わったりとかあり得ませんか」
「ふむ、そういったバグも稀には起きるが、予測不可能だからな、ひたすら待つしかないだろう」
──そして、三人はあれこれ可能性を探って、小一時間ほど話し合った。
(オルドは全てを説明はしなかった)
期待した効果がすぐに望めそうもない事を理解したカイが肩を落としていると、室内に強烈な魔気が発生し、パトラが到着した。
「あ、あ、あの時の悪魔!」
カイはがたんと音を立てて椅子から立ち上がった。
「この前の可愛い小悪魔ちゃん♡」
マリアも立ち上がり手を合わせて喜ぶ。
「お前たち、何かしたわね」
パトラが威圧的に問い詰める。
「その機械、調べさせてもらう。抵抗すれば命はないと思ってね」
「小さな悪魔ちゃん、私はマリア。あなたは確かパトラってお名前よね?」
「……そうだけど」
「パトラちゃん。お姉さんとお友達にならない?」
「は?」
「マリア! 何を言ってるんだ、そいつは悪魔だぞ、友達になんか……」
マリアの強さは欲望に忠実なところにあった。宝物を目の前にすると何事にも臆さなくなる。そしてその強欲さはパトラも負けてはいなかった。
「セーラだって友達になれたわ」
そう言うとマリアは、オルドの荷物を漁って盗んだマジックアイテム『箱庭秘宝地図』をパトラに示した。
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