カイ、諦めきれない
その頃、オルドの塔 跡地では…
カイは"箱庭システムで世界を自由に動かす"という野心を諦めきれなかった。
閉ざされた箱庭内の一キャラクターに過ぎない自分が、開発者と同じ次元に立つなど到底不可能な夢物語、しかしその片鱗を知る事ができたこの幸運をどうしても逃したくなかった。
どうにかしてシステムのアップロード機能だけは復活させるために、自分が出来ることを考える。
自分は主に氷系の魔法とその他少しの一般魔法を使えることしか取り柄がない。
情報源としては開発者の五人が最も有益なはずだが、オルドとダニーの他には接点は見込めなかった。
「無理なのか…オレが一廉の存在になるのは、どだい無理な話なのかマリア…」
箱庭のメイン画面をマウスでいじりまくるカイ。
今やこのオルド専用の箱庭アプリはカイだけが自由に触れる。チャンスなんだ……。
マリアは丸椅子に腰掛け、むっちりした脚を組んで頬杖をつきながらカイの後ろ姿を眺めていた。
「ねぇ…カイ。だから無理だよ。ダニーさんが言ってたでしょ」
「オルドさんはこの状態でちょいちょい世界の改変を行っていたらしいんだ、開発者の権限なのか分からないが可能性は残されてるはずだ」
「そんなこと言ったって、ずーっと何も起きないじゃーん、もう諦めてセーラのとこ行こうよ」
「セーラは今どこに?」
「空を飛び回って悪魔を探してる」
「なら邪魔しちゃ悪い……」
「ねーえ暇ー」
カイは何となくマリアのデータをダウンロードしてみるが、相変わらず記号の羅列が分からない。
これを読める人物がいればまた違うのだが……。
ふとカイは思い出す。
以前にオルドから、術者の命を触媒にして全ての仲間を甦らせる最強の回復呪文があると聞いた。
魔法とは原理が違うのだろうが、個人の何かと引き換えにアップロードを一つくらい出来ないものだろうか。
「何とか…何とかしてオレも」
焦るカイ。
「いいじゃないの。カイはカイでしょ」
「……」
慰められて涙ぐんでしまうカイであった。
「苦戦してまちゅねカイ」
「その声は! ちょっとかなり幼いがオルドさん??」
カイが振り返るとそこにはエンゼルマークのような幼児の天使が誇らしげに立っていた。
「やっとここまで育ちまちた」
「オルド様なの!? そんなに可愛くなって……」
「あいつに魂を消滅させられたんじゃ」
「わつぃが復活の術を用意しないはずないでちょ」
経緯の説明を始めるミニオルド。
「ジュリアンが施ちた封印を解くのに時間がかかり、普通に胎児にまで戻ってもた」
「オルドさん、箱庭でアップができない。教えてください」
「わつぃにも今は出来ないのや、一部ちか」
「一部!!」
カイの目が希望に輝いた。
「一部でいいんで教えてください!」
両手で幼児オルドの胸ぐらを掴むカイ。
「く、くるちい……」
そしてカイとオルドはノートパソコンに向かう。
「まだやるのそれー?」
マリアは不服そうにぶーたれながらも、ほんの少し期待しながら椅子の上で胡座をかいた。
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