ラニウスC強襲飛行型秘話
衣川はラニウスC強襲飛行型のテスト機を借り受け、解析した。
飛行機は苦手といっていたわりには、よくできている。聞けばTAKABAの前身は第二次世界大戦で軍用プロペラなど航空機にも関わっていた歴史があるということだ。
「金属水素と赤色酸素を用いても、人型を飛ばすにはそれなりの工夫は必要だね」
最高速度もそうだが、航続距離もみじかめだ。現状で五分程度。長いか短いかは人によるだろうが、衣川は短いと判断する。
「姿勢制御だな。鳥とは違うんだ。甲虫は良い目の付け所だな。ふむふむ。人間でいえばやや前傾姿勢か」
甲虫の飛び方を確認する衣川。
研究とは常に学びだ。鳥の研究はしていても甲虫の研究まではしたことがない。
まったく違う分野を航空力学の視点で学び直すことは楽しい。
「甲虫、とくにカブトムシは自重に対して翅の面積は小さめ。飛行能力はあるがコントロールが苦手とある。これはそのままシルエットにあてはまることができるだろうね」
次に推力を確認する。
「回転デトネーションエンジンとスラスターはすでに内蔵されている。追加装甲がない状態は運動性と地上速度に振った高機動型か。ふむ……」
主翼がない状態のラニウスCは推力任せの直線番長だ。ラニウスBの時点でそうだったらしい。
「バインダースラスターに主翼。――バインダーを小型、スラスターを二基にすれば航続距離は伸びるだろう。四基のスラスターだ。積載は劣るが、彼等のことだ。斬るほうが重要に決まっている」
衣川は兵衛なら斬るだろうと決めつけていた。
双発機なら推力を稼げる。この時点ではまだツインリアクター技術は解放されていない。
「ウィスのリアクターは超高効率の核融合炉だ。金属水素生成炉は外部からの燃料をほぼ必要とせず、赤色酸素も大気から生成する。スラスターバインダーは出力をあげるブースターでよい」
ラニウスCの背面に視線をやる。
「空気抵抗も人型にしては筋がよい。鷹羽君はバイク屋。八耐のチームももっているから当然か」
シミュレーションを走らせ、加速と最高速度、飛翔時間を確認する。
「これならいけるな。地表でも最高速度は時速1300キロメートルを超える。海上ならほぼ無限飛行もいけるだろう」
衣川は確信したまま、兵衛に図面を転送するのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ラニウスCと新型の追加装甲の完成経緯を知らされ、コウは唸った。そこまで詳細に話を聞く機会がなかったからだ。
鷹羽兵衛がコウの試作をもとに、御統重工業の衣川に改良を依頼。コウと一緒に研究したもの。原案を兵衛に送り、兵衛が衣川のアドバイスで完成させた。その経緯しか知らなかったからだ。
ラニウスC強襲飛行型は変形こそないが、空戦、そして近接のための加速を切り替えて使うことができる。
二人目のアシアによって解放された8酸素――酸素の同素体である赤色酸素を生成し燃料に採用。金属水素と組み合わせ、驚異的な燃焼効率を誇る。フッケバインをヒントに回転デトネーションエンジンを内蔵させている。
空間戦闘用として機動力に特化した機体。
本来は近接戦闘のため加速最優先のラニウスの出力を下げずに、飛行能力を上げるのだ。
バックパックには二基のフライトバインダーモジュールを搭載――推力偏向ノズルを持つ大型スラスターを二基ずつ備え合計四基。揚力を補助するための主翼も左右に装備。スラスターと主翼を内包するための装甲型結合機バインダーを装備している。
エッジスイフトと同じく生物模倣技術を採用。ゴライアスオオツノハナムグリという巨大甲虫をもとに構築された機体だ。
「泰之さんはヒーローです。エメの危機に大海を乗り越え、颯爽と駆けつけてくれたのですから」
これはコウの本音だ。
「颯爽と現れて可変して一撃で斬り伏せる。あれは一目惚れしました」
泰之の妻となったエイラが惚気る。
「一目惚れするのも当然ですね」
アキがにっこり笑う。あの時は絶体絶命だったのだ。
「よせよせ。――しかし、間に合った。それがすべてだ。間に合わなかったことも多いんだ」
泰之はいつになく真面目な顔でコウに言う。
「そうだね。ようやくヨアニアとアエローが完成し、スーパーアースであるアシアでも短時間で駆けつけることが可能になった。まさに悲願だったんだよ」
衣川がしみじみという。
「技術解放と金属水素のおかげで、我々の目標だった、安くて高性能な可変機零式も完成しました」
堀切も当時を思い出す。巖渕に見せたかったものだ。
「ヨアニアも零式も革新的でした。飛行機を背負い、それがそのまま追加装甲になる。零式は安価な上優れた機動性と運動性。俺も数機購入して研究しました」
アストライアが勉強になるといってアキに命じて購入させたのだ。
真意がコウの意識をパンジャンドラムから反らすためとはいえ、勉強になったことは確かだ。
「ヨアニアもラニウスC強襲飛行型の追加装甲が完成したあと、設計変更を加えたんだよ」
「そうなんですか?」
コウにとっては思いもよらぬ言葉だ。
「本来はグライダー型追加装甲が戦闘機型追加装甲になるだけだったからね。強襲飛行型のコンセプトから、分解して追加装甲にしようと決めたんだよ」
「……巨大なヨーヨーを武器に、とか言い出したときは焦って止めたぜ!」
「何故ヨーヨーが……」
泰之とコウには理解不可能な武器だが、ドリルやパンジャンドラムを作っているコウはあまり人のことはいえない。
「戦闘機を分解、再装着には電磁気力の性質をもつウィスを最大限に利用したからね。電磁武器にはヨーヨーがいいかなと」
「斬新な発想ですね……」
ヨアニアもそうだが、衣川もぶっ飛んだ構築をするタイプだ。
「電磁装着は気に入っている。その分コストが跳ね上がってしまったが」
「アナライズアーマーもその着想ですね」
「おかげでドラゴンスレイヤーも完成したよ」
ファミリアが搭乗する戦闘機と重装シルエットの組み合わせであるドラゴンスレイヤーもまた革新的だ。
アナライズアーマーは本来、MCSに駆動装置をつけて脱出させ、兵器を追加装甲にするという発想だった。
衣川は戦闘機をそのまま追加装甲にして、かつ本体となる戦闘機にファミリアを乗せたまま一人と一匹で操縦する仕組みを生み出したのだ。
「その点五行の零式は金属水素貯蔵型です。母艦で金属水素を補給し、変形機構もシンプル。装甲は薄いですがね」
「安価な零式は傭兵でも手に届く価格ですからね」
コウは考え込む。
「五番機を強化するためにひたすら走っていましたが、安価な量産機についてはもう少し考えるべきだったかもしれませんね」
ジャックのベアや五行の安価な量産機こそが戦線を支えている。
五番機は局地戦で活躍したに過ぎない。格上げしても特殊部隊運用が主だ。
「コウ君はそれでいいんだよ。それにラニウス簡易型のシュライク。A1型やB型CⅡ型など、量産されたじゃないか。はっきりいうとTAKABAのラニウスは売れていなかったからね」
「元の設計が良かったからです」
コウは謙遜した。自身、そう思っている。
「五番機のラニウスはそうだったかもしれない。しかし改装を重ねた構築は君の手によるも。君の功績だよ。装甲筋肉からシルエットの分割構造まで変えた構築技士はいないからね?」
「今思うと無謀でしたね」
「理に敵っているんだよ。量産効果もある。そのおかげで装甲筋肉系のシルエットや可変機が普及したんだ」
『惑星リュビアの旅は楽しいものでした。コウも久しぶりに講義を受けるといいですね』
「こ、講義は待ってくれ!」
勉強の日々を思い出し、コウが思わず悲鳴に似た声をあげ、周囲は笑いに包まれた。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
コウは面倒なのでカタカナです!
ラニウスC強襲飛行型に関してはコウはアイデアだしと仮組。鷹羽兵衛が改良。仕上げは衣川という経緯でした。
アシア大戦では大きな役割を果たした強襲飛行型ですが、衣川の地道な基礎研究あってのものだった、ということですね。
機動力への長年の鬱積はヨアニアとアエローによって解決。それによってエメが救われたのです。
泰之は無事結婚できました。年の差一万歳ですが、量子データ化込みなのでさほど問題ではありません。
無事東京から帰宅しました!
雪でどうなるかと思いましたが早めに脱出。秋葉原にいってラジオ会館で電装部品が欲しかったのですが。
金属皮膜抵抗とか。某甘で買うと百本なので。まさにムダな抵抗……!
今回もゲーム業界の方々とたくさんお話できて充実してきました! 名刺交換もしましたよ!
応援よろしくお願いします!




