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84 クリスマスの後に

 24日 朝7時。

マナが店に到着すると、松永の車が止まっているのが見えた。


「おはようございます」

「おはよう」


店内に入ると、松永はコーヒーを淹れていた。

「昨日は寝れたか?」

「意識なくすように寝ました」


「そうなるわな」

松永はふっと笑う。


「たぶん今日は昼過ぎには仕事終わると思う」

「マナは今日の追加分のケーキの仕上げが終われば、先に帰って休みな」


「ありがとうございます」


温かいコーヒーを飲み終えた後、

二人は黙々とケーキの仕上げに取り掛かった


──

 開店前1時間前。

近田が店に来て準備を始める。

開店前からすでに列ができており、店の扉が開くと、昨日以上の賑わいが広がった。


「開店しまーす」


「お願いします」


冷蔵庫から次々とケーキが運ばれ、近田さんは厨房と店内を行ったり来たりする。


昼過ぎになり、マナは右手の疲労感を覚えた

(あと少し……乗り切れ)


冷凍庫を開けると、容量限界まで詰め込まれていたケーキが、すべてなくなっていた。


これで、すべてのケーキの仕上げが終わった。

「松永さん、終わりましたー」

「お疲れ様 よく頑張ったな」


「マナ、先に上がっていいぞ あとは俺一人でもできる」


「少し休んでから帰ります」

「わかった」


マナは冷凍庫の横に折りたたみ椅子を置き、座る。

肩を伸ばすと、ガチガチに固まっていた筋肉が痛む。

「痛たた……」

(今日は、ゆっくりお風呂入ろう……)



松永の仕上げが終わり、ふとマナの方を見て話しかける。

「マナ、そういえば……。」


静かな寝息が聞こえる。

マナは冷凍庫に寄りかかり、すっかり眠ってしまっていた。


「寝てる……」

松永は苦笑しながら、腕を組む。


「こんなところで寝てたら風邪ひくぞ……」


起こそうとしたが、やめて、しばらくその姿を見つめる。


そして静かに片付けを始めた。



―――



「マナ、マナ」

肩を軽く叩かれる。


「……っ、寝てました!すみません」

マナは慌てて起き上がり、時計を見る。


夜の21時だった。

「クリスマス、終わったぞ」


松永は静かに言う。

「近田さんも、マナ起こしたら可哀想だって言って、さっき東京に帰ったぞ」


「すみません! 夜まで付き合わせてしまって……」

「俺は平気だ 明日から2日間休みだから、ゆっくりするつもりだしな」


松永は、少し疲れた表情をしていた。

「松永さん、無理しないでくださいね」


「今年はマナがいたから、だいぶ楽だったよありがとう」


その言葉に、マナの胸がじんわりと温かくなる。


「帰ろうか」

「はいっ、すぐ着替えます!」


──


「明日からの2日間、ゆっくり休めよ」

「はーい、お疲れ様でした!」


店を出ると、クリスマスの喧騒から少し離れた静けさが広がっていた。


歩きながら、マナはクリスマス期間のことを思い出す。


松永の家でシャワーを借りて、そのまま寝てしまったこと。

朝ごはんを一緒に食べたこと。

こめかみについたクリームを、そっと取ってくれたこと——。


思い出すほどに、じわじわと恥ずかしくなってくる。


(仕事は大変だった でも……松永さんと過ごせて、嬉しかったな)


(てか私、寝すぎ……子供って思われたかな)


いろんな感情が交差する。


そんなことを考えながら、マナは家路を急いだ


クリスマスの期間が、静かに幕を閉じていく。


───


 松永は家に戻り、ソファに横になる。

「クリスマス無事に終わったな……今年は楽だったな」


マナの笑った顔やケーキを仕上げる真剣な姿をつい思い出してしまう。


『……まつながさん……すき……です……』

あの雪の夜に聞いたマナの寝言。


思い出した瞬間、胸の奥がふっと熱くなる。


(やっぱりマナの事好きだな………)


 バツイチで年の離れた俺は恋愛なんてしてはいけないと思っていた。ずっとこの気持ちは隠すつもりだった。


ゆっくりと目を閉じる。


「マナに伝えるか……」



その声は誰に聞かせるでもなく、夜の静寂に消えていった。




続く

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