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83 クリスマス中の夜の仕込み

23日19時。

「松永君、すごいわよ。去年の倍近く売り上げあるわよー! 瀬川さんのおかげねー。」


「良かったです。」


松永とマナは、厨房の隅で夜ご飯を食べていた。


「松永君、毎年クリスマス無理するから心配だったのよ。今までなかなかスタッフを探さなかったからねー。瀬川さん雇いたいって連絡来た時は驚いたのよ」


「……たまたまですよ」


マナは、その言葉にふと考えた。

(そうだったんだ……)


「私はホテルに移動してSNS投稿するわーまた明日よろしくねー」


「お疲れ様です」


扉が閉まると、店内は一瞬で静かになった。


「もう少ししたら、明日のホールケーキ作っていくか」


「はいっ」


マナはスポンジと苺をスライスし、松永は生クリームを立て、スポンジをサンドしていく。


しばらく黙々と作業していたが、ふとマナが口を開いた


「松永さん」

「なんだ?」


「どうして私を雇おうとしたんですか?」


松永の手が止まる。

「そうだな……」


またスポンジに生クリームを塗りながら、静かに言葉を続けた 。


「『お客さんの笑顔が見たい』ってマナ言ってただろ? それが理由の一つだな」


「懐かしいです」


マナは苺を丁寧に並べながら、小さく笑った。


「あと……素直そうな子だと思ったから、このままパティシエを辞めるのはもったいないと思った」


その言葉に、マナは手を止める。


「俺の読みは当たったな。この8ヶ月間で、いいパティシエになった」


松永は、マナをまっすぐ見た 。


「ありがとうございます」


マナはスポンジを重ねながら、静かに口を開く。

「松永さんと……だから続けることができたんだと思います」


生クリームをなじませながら、短く言った。

「なら、良かった」





──

 夜中2時。


「終わりましたね」


「やっと終わったな」


クリスマス用のホールケーキと、24日昼過ぎまでのプチガトーの仕上げが終わった


厨房は、甘い香りとともに静寂に包まれる


松永は時計を確認しながら、ふとマナに目を向ける。


「今日は仮眠予定の漫画喫茶、行けるか?」


マナは、じっと松永を見つめた。



「……えっ」


その視線に、松永は少し表情をゆがめる。

「今日は駄目だ。俺も男だから、さすがに照れる」


マナは、一瞬驚き、そして微笑んだ。


「わかりました……漫画喫茶行きます」

「そうしなさい」


「お疲れ様です。朝7時ですね」

「お疲れ様」


マナは厨房を出ると、ふと空を見上げた


(今日も雪が降ってほしいって思うのは……不純かな)


漫画喫茶に到着し、シャワーを浴びると、フラット席に横になった。


温かさに包まれながら、意識をなくすように眠りに落ちていった——




──


 松永は自宅に戻った。

リビング横のソファに目をやると丁寧にたたまれた毛布が置いてある。


つい昨日マナが寝てきた光景を思い出す。

(まったく……クリスマス期間なのにマナが気になってしまう)


(せめてクリスマスが終わってからマナの事は考えるか……)





続く

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