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81 朝日に溶ける雪

 朝の光が、カーテン越しにぼんやりと差し込んでいた。


マナは目を開けた瞬間、跳ねるように起き上がる。

(えっ……私、寝てた……!?)


昨夜、シャワーを浴びてコーヒーを飲んだところまでは覚えている。

けれど、そのまま眠ってしまったらしい。


「……すみません!」


声を上げると、リビングの奥で松永が振り返った。

手にはマグカップ。静かに湯気が立ちのぼっている。


「おはよう」

「すみません……寝ちゃって」


「仕方ないだろ。夜中まで働いてたんだから」


淡々としながらも、責める色はない。

むしろ当たり前のことを言うように聞こえて、マナは胸が少し温かくなる。


松永はトースターからパンを取り出し、皿に乗せた。


「腹、すいてるだろ」


マナは戸惑いながらも席につき、ひと口かじる。

ほんのりバターが香って、疲れた体に染み込むようだった。


「……ありがとうございます」


窓の外を見れば、雪は止んでいる。


「車、出せそうですね」

「まあな。積もってはいるけど」


安心したように笑うマナを見て、松永は一瞬だけ視線を落とした。

マグカップを握る手が、わずかに強まる。


「なあ、マナ」

「はい?」


「“マツナガ”って苗字の知り合い……俺以外にいるか?」


「え? いないですよ。松永さんだけです」


即答する声に、松永はほんのわずか言葉を失った。


「……そうか」


それ以上は言わず、コーヒーを口に運ぶ。

けれど、昨夜の寝言が頭から離れない。


(……俺のことを呼んでたのか?)

(いや……考えすぎだ……)


心の中で打ち消しても、胸の奥に熱が残る。


 マナが向かいでコーヒーを飲みながら、ちらりとこちらを覗く。

松永は気づきながらも、わざと視線を合わせずに言った。


「知らない男の家で寝るなんて、気をつけろよ」


「……すみません」


しゅんと肩を落とすマナに、松永は小さく息を吐く。


「まあ……俺に謝ることじゃないが……」



少し照れくさそうに目をそらす松永の横顔は、仕事場で見るより柔らかい。


「……行くか。近田さんの奥さんもそろそろ来る」

(今からクリスマス本番なのに……俺は何を考えている……仕事に集中しろ……)



松永がコートを手にすると、マナも慌てて荷物をまとめる。


ドアを開ければ、冷たい空気が頬を撫でた。


白い雪が朝日にきらめいて、

クリスマス本番の始まりを告げているようだった。





続く


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