76 最期のベイクドチーズケーキ
カラカラとお店のベルがなった。
喪服を来た女性達が入ってくる。
「いらっしゃいませ」
(法事かな……焼き菓子かな…)
「あぁ…ベイクドチーズケーキ売り切れてるー」
「残念ね……」
「すみません…本日分売り切れてしまって」
マナは申し訳なさそうに謝る。
「ゼリーとかにする?」
「でもずっと……おばあちゃんベイクドチーズケーキ食べたいって言ってたじゃない……」
厨房から松永が顔を出した。
「ベイクドチーズケーキよろしければ今カットしましょうか? 午前中に焼き上がったんです」
3人は顔を見合わせ、少し曇った表情になる。
「いや……とても嬉しいのですが……実はチーズケーキ食べないんです」
「……パティシエさんのお手数おかけしてしまうのが、なんか……申し訳ないです…」
マナはきょとんとした顔をし、言葉の意味を探る。
(どうゆう事……?)
「実は棺に一緒に入れてあげようと思って……おばあちゃんずっと入院してて、ベイクドチーズケーキ食べたいなって言ってて、医者から糖分止められていて……結局最期まで食べれなかったから……」
「あ……」
マナはやっと理解した。
松永はニコッと微笑みながら。
「いえ……最期のケーキに選んで頂けて光栄です 是非ゆっくり食べて頂けたらと思います。紙皿と木のスプーンつけますよ」
女性達は少しだけ笑顔を浮かべた。
「じゃあ……お願いします。」
「すこしお待ち下さい」
松永は厨房に戻っていった。
女性が娘達と楽しそうに話す。
「おばあちゃんの火葬待ってる間、皆でケーキ食べようか。おばあちゃん、あんた達小さい頃……よくいろんなケーキ買ってきたもんね。自分はベイクドチーズケーキばっかりだったけど」
「じゃあ、私、おばあちゃんがよく買ってくれたモンブラン食べたい」
「私もー! 懐かしい!」
マナはケーキのオーダーを聞きながら
目がすこし潤んでいた。
(優しいおばあちゃんだったんだな…)
松永は素早くチーズケーキをカットして紙皿に乗せ、箱に入れて用意した。
「よかったね」
「本当にありがとうございます。おばあちゃん喜びます」
「ポテチも入れてあげようか。最期くらい何でも入れてあげようか」
「おばあちゃん天国で太っちゃうよ」ハハハと笑う。
何回も帰り際会釈し
ケーキの箱を大切そうに抱えて帰っていった。
───
「初めて知りました。棺にケーキ入れれるんですね」
「そうだな。ここは近くに葬儀屋があるからよく来るよ。燃えないものは一緒に入れる事は出来ないけど」
「おばあちゃん、天国でゆっくりチーズケーキ食べてほしいですね」
「そうだな……病気で糖質や油分、食べられない人もいるからな。
制限のない世界で、“おいしい”って笑って食べてくれたら嬉しい」
マナは、残りのカットされたチーズケーキをフィルム巻きした。
(おばあちゃん、ずっと我慢してたんだろうな……)
(その“食べたかった気持ち”を、今日ここで叶えてあげるなんて……)
ひとが旅立つとき、最後に手にするものが“ケーキ”であること。
そのケーキを、自分たちが作ったということ。
ただそれだけのことが、胸にあたたかくも、涙が出そうになるほど重く感じた。
——作る手の向こうに、
誰かの“想い出”や“願い”が、そっと重なっている。
マナは小さく深呼吸をして、窓から空を見た
続く




