番外編 航とマナの17年 幼稚園〜小学校
マナに告白する前日
航はふと自分のへやのアルバムを取り出す。
アルバムのページをめくる指先が、ふと止まる。
そこに写っていたのは、小さなマナ。
つぶらな瞳と、やけに大きく見えるリュック。
隣には、自分が写っていた。どこか気恥ずかしそうに笑っている。
「……マナが年少、俺が年長か……」
田植えイベントの時の一枚だった。
「……17年か。長いな」
指が自然と写真をなぞり、記憶の扉がゆっくりと開いていく。
───
「おい、航。この子、瀬川さんの娘さん。今日一緒に遊んでやってくれ」
大人の声に振り返ると、そこには目がくりくりとした小さな女の子が立っていた。
「お前、年長だろ? この子は年少だから、面倒見てやれ。お兄ちゃんだからな」
そう言って大人たちは田んぼに入っていき、俺とマナだけが畦道に取り残された。
「……お前、名前は?」
「マナ……」
「俺、航。よろしくな」
「わたるお兄ちゃん、あっちであそぼ!」
「ちょ、ちょっと待て! そっち田んぼ!」
言うが早いか、マナはズブズブと田んぼに足を突っ込んでいった。
「だから危ないって!」
慌ててマナの腕をつかんだ瞬間、バランスを崩して二人で田んぼの中に転がり落ちた。
泥だらけになって起き上がると、
「あんたたち、何やってるんだい!」
怒鳴り声が飛んできた。
航の祖母だった。
「ほら、二人とも! さっさと風呂入んな! ……航、ちゃんと見てなさいって言ったでしょ!」
(なんで俺が怒られんの……?)
風呂ではしゃぐマナの笑い声が、耳に残っている。
(……まぁ、いっか)
───
小1のマナと、小3の俺。
「……俺たちの家、遠すぎだよな」
「わたるー、つかれた……」
分団登校だったけど、マナの家は他の子とルートが違っていて、
いつも帰りは俺とマナの二人だけだった。
ある日、マナが石につまずいて転んで、大泣きした。
「大丈夫か?」
俺は無意識にランドセルを背負ってやった。
「わたる……ありがとう」
ぽつりと呟いたマナが、ふと立ち止まり、俺の顔をじっと見てきた。
「わたる、ありがとう」
「……え?」
不意をつかれて止まった俺に、マナはにっこり笑って、
小さな唇で、頬にちゅっとキスをしてきた。
「えっ!!?」
「この前、魔法戦士の女の子がやってた!」
「いや……それ、アニメだよ……」
「じゃあ、わたる以外にはやっちゃダメ?」
「……ダメ。絶対ダメ」
「そっか。わかった」
(たぶん、この頃から――マナのこと、好きだったんだ)
続く




